たびかさなる意反
いつ指示を出した?
俺はゴルドラッセの一挙手一投足にいたるまで漏らすことなく視界に収めていたはずだ。
それが、窮地に陥るなりいきなり・・・。
まぁいい。理由も、タネも。調べるのは後でも出来る。
問題は・・・、
「私をどうするつもりよ‼」
両脇を槍で固められ身動きが取れなくなったカーナをどうするか、だ。
「総力戦ってのは都合のいい言葉だな? こっちの荷物だけが一方的に重い気がするんだが?」
「戦いというのはいつでもそういうものでしょう? 常に万全とは限らない中で選択を迫られる」
「そうまでして貫きたい正義ってのが、あんなもんでいいのか?」
「けじめというものはどんな時にも必要なのですよ。線を引かなければ列をなすことも出来ない。軍隊には規律があってこそ。足並みがそろわなければ、踏み込むことすら出来はしないのですからな」
「その割には、浮ついてると聞き及んでるが?」
「―――ですから、引き締めなければならないのですよ!」
どちらが正しいか・・・じゃぁねぇんだな。
なにを正しいとしたいか。
ゴルドラッセは御父上を正しいとしなければならない。
それは己の立場もそうだが、軍隊というものを維持するうえで絶対的な支柱が必要になることを知っているから。
そのせいで兄上の足元が揺れていようとも、確固たる姿で挑まなければならない。
折れるわけがねぇのはわかっちゃいるが・・・。
背後には4人。
片付けるだけなら20秒とかからねぇだろう。つっても、ゴルドラッセがそれを黙って見ているわけもなく、さらにジェイド達も間に挟まっているせいで巻き込む可能性がある。
ジェイド達に指示を出すか? いや、あいつらには俺の言葉に従う義理はねぇし、なにより。一々命令してたんじゃ連携の差で負ける。
日頃から特定の連携を想定して訓練している軍隊相手には、冒険者同士の臨機応変さだけじゃ届かねぇ。せめて普段からパーティーを組んでるならまだしも、俺達の関係は教師と生徒のそれに近い。練度の差を見せつけられるだけだ。
どうする?
「後ろの方々に指示を出さなくてもよろしいので? 我々相手には些か手に余ると思うのですが・・・」
悩んでいる俺にゴルドラッセはわけのわからないことを言う。
「なにを―――」
「――要らねぇよ‼ そんなもん‼ 馬鹿にしてんのか⁉」
言ってやがる? そう続けようと思ったところへ、余計に意味の分からない言葉が聞こえる。
見れば。声の主たるジェイドを含め、全員が背中を向けてやがった。
「たかが4人で私達の相手が務まると思われているのが癪ですわ! それどころか、うち2人は人質を取っているなど。お話になりませんわ‼」
「そうね。いくら私達が若く見えるからって、侮られるのは腹が立つわ。これでも最近ようやく一人前だと認められたのに」
「失礼、だけど。倍でも足りない」
なんでそこまでやる気になってる⁉ という俺の疑問に答えたのはヨハン達だった。
「聞きましたよ先生。以前にも同じようなことをやってたって! あんなのを見せたくて連れてこられたんですか? 僕達・・・って思っちゃいましたよ! 今さらだなって!」
「私達はモンスターの解体もやっています。弱者は死に方も選べないなんてそんなこと。最初に教えてもらったつもりでした。もちろん。生きるための選択や、その覚悟も」
つまり、俺の考えすぎだったってことか? こいつらは想像力の足りねぇここの領民共とは違って、ちゃんと現実として向き合ってたって?
「だから! アンタがどうしたいのかをちゃんと教えろよ‼ 俺達に出来ることを‼ ――・・・冒険者ってのは、助け合うもんなんだろ⁉」
いつの間にか、本当に一人前になってたんだな。
自分の考えで。なにを得るのか、なにを捨てるのか、選べるようになった。
その責任を取ろうと、行動するようになった。
だったら後は――、
「そっちは頼むぜ?」
「おい! アンタ1人でそっち全員の相手するつもりかよ⁉」
「まずは目の前の敵を片付けてからだ。手こずるようなら、助けにはならねぇだろ?」
「ッ‼ 言ってろ‼ すぐに助けに行ってやるよ‼‼」
結果を残して、証明してもらわねぇとな?
口だけじゃねぇってところを。




