スキルとギフトと望むもの
ギフト。
生まれ持った才能。
神様からの贈り物。
全ての人間に与えられる祝福。
「ギフトがどういうものか・・・は、知ってるよな?」
「はい。その人に与えられた特別なスキル・・・ですよね?」
「そうだ。じゃぁその特別ってのがなんなのか、知ってるか?」
「え? それは・・・最初から持ってるということじゃ・・・?」
「そうだな。何の苦労もなく手に入れられるものってのも間違っちゃいない。ただ・・・」
「努力では手に入れられないもの、でしょう?」
「よく知ってるな」
見れば、当然でしょう。といった顔だ。
「スキルってのは本来、ある一定以上の能力に達していることの保証みたいなもんだ。よっぽど向いてないことじゃなければ5年もあれば習得できる」
この一定以上というのが意外と厄介だったりするが、今はいい。
「だがギフトは違う。そういった努力を否定するほどの才能。それらを凌駕する代物。初めから出来るという証明だ」
「証明・・・」
ギフトの感覚は説明できない。
なにもしなくても分かる。だから出来る。それだけのものだ。
「例えば、スキル:剛力は長い時間をかけて体を作って習得するもんだが、ギフト:怪力は理論を無視した圧倒的な膂力を誇る。年齢も体格も関係なく、ただそれをもって生まれたというだけでな」
剛力持ちは筋骨隆々だが、怪力持ちはそうとは限らない。
「他に挙げるなら、紅顔の美少年や傾国の美女あたりのギフトを持っている奴は、誰からみても美しいものとして認識される」
年齢と見た目がかけ離れていたり、実際に目にするとその凄まじさには舌を巻く。
「まぁ俺達からしてみりゃ、それが冒険に使えるかどうかでしかないがな」
「もし・・・・・・もし、ですよ? 自分のギフトが冒険に向いてなかった場合は・・・?」
ヨハンが怯えるように尋ねる。
「そう思うならやめりゃぁいい。別に生き方なんざ、他にいくらでもあるんだからな」
「そんな⁉―――」
「――だが」
わざわざヨハンの反応を待って、その上で遮る。
「冒険ってのは全部いるんだよ。なにもかもをやらなきゃならねぇ。そのためになにをするか、どこでどう使うか。それだけだ」
「でも、容姿がギフトだった場合は‼」
「顔役になればいいだろう? 旅するにしても、拠点を置くにしても、どっかで人と顔は合わせるし、交渉もすることになるだろ。自分のギフトと向き合って自分で決めりゃいい」
「望まないモノでも・・・?」
「役が不満なら実力で奪うしかねぇよ。それが出来ないなら、やめる他ないだろうな。危険を冒して死ぬぐらいなら、やらない方がマシだ」
「その・・・役というか・・・」
「・・・?」
はっきり声に出さないヨハン。
望まないもの、が役じゃないとするならば・・・。
「ギフトか?」
「・・・・・・」
この沈黙は肯定と受け取っていいだろう。
だとするならば・・・。
「・・・望福教か」
「それはいったい?」
ヨハンは黙ったまま、今度はリミアが聞く。
「くだらねぇ宗教団体ごっこだよ」
「ごっこ?」
「ギフトは生まれつきじゃなく、発現までの間に望んだ形で開花する。とか、ふざけたことをぬかす奴らの集まりだ」
ギフトが発現・判明するのはだいたい5~6歳の頃。それまでに教育を施し、望む力を手に入れようと考えている連中。
それが、望福教。
「めちゃくちゃですね・・・」
「あぁ。厄介なのが被害を受けるのは子供側だけってところだ」
親はハズレを引いたら捨てればいい。ぐらいにしか思っていないだろう。
ヨハンと家の関係がよくないのはそのせいか。
「・・・僕の、ギフトは・・・役に、立たない・・・から、必要、ないから‼ 帰れなくて! でも・・・僕は‼」
口を閉じることでせき止めていたものが、
「中等部・・・にも、入れなくて! 他に、どうすればいいか・・・わからなくて‼ だから! 冒険者に・・・でも‼」
言葉と共にあふれ出していた。
「向いてなくて! それも言えなくて‼ やめ、なくちゃって‼ 出来ないん、だって! 誰でも、なくて・・・僕、自身が‼」
泣き崩れるその姿を見て、問う。
こいつをこんなにしたのは誰だ?
今まで何をしていた?
賢いと感じた。出来ると分かった。優秀だと思った。
だから?
得意げになって、向き合ったつもりで、知った風な口をきいた。
誰が?
誰でもない。
この俺だ‼
「ごめんな」
ヨハンを強く抱き、約束する。
「教えてやる。誰にも文句を言わせない、生き方って奴をな」
いまだ、思いあがっていたのは俺だった。
自分のことも出来なくて、それで引退したくせに、教える立場になったと言って、格好つけて、理想をひけらかして・・・。
それでこのザマだ。
世話ねぇよな。
泣かせるつもりはなかったんです。本当です。信じてください。