side――ジェイド
アイツの兄弟だって言うからもっと尖った奴が出てくるんじゃ無いかって思ってたけど・・・そうでもないのか?
ちょっと言いすぎたかと思ったことでも、気にする様子もなく笑って見せる。
器の差か? それとも領主代行って役割がそうさせるのか? もしくは――元から出来が違うのか?
俺にも兄上がいる。しかも2人も。
そしてその2人の兄上と俺にも違いがある。
兄上達は兄として、父上の期待に応えているんだと思う。
上の兄は跡継ぎとして、下の兄はその補佐として。だが俺様は・・・。
アイツも同じような理由で冒険者になったのか?
愛されてはいる。けど、期待はされず。
それでも自分には価値があるって言いたくて、証明したくて冒険者に?
いや、でも・・・。
「ア―の人って。なんで冒険者になったんだ? この家はその、立派っていうには立派過ぎてるけど、重要な役目もあるわけだし。次男って言ってたから、普通はそういう立場に就くんじゃ・・・?」
つい釣られてそのままアイツって言いそうになったけど、流石にヤバいよな? いくら敬語じゃなくていいって言われたからって。
ってか言葉を崩せって言われても、どこまでやればいいんだ⁉
そんな苦悩なんか関係なく、
「そればっかりは私にもわからないな。なにしろ本人じゃないからね」
グラン領主代行は笑ったまま答える。
―――そりゃそうか。
兄弟っても胸中までは知りようもないよな。
そう納得しかけた時、
「ただ、最初から。この家に戻るつもりはなかったんじゃないかな? アイツは加護がないことで色々と辛い目にあっていたからね」
聞き捨てならないことをさらりと言ってのける。
「「「加護がない⁉」」」
俺と同様にエイラ達が驚く。
「聞いてないのか⁉」
それを見て領主代行も驚く。
驚いてねぇのはリミアとヨハンだけだ。
「・・・・知ってたのか?」
「そうですね。出会った頃に聞きました」
「僕もその時一緒に聞きました」
なんでこの2人だけに。また贔屓かよ! と思ったけど、出会った頃・・・か。
あの時の俺じゃそんな話聞かされなくても当然だよな。
それどころか俺様が聞こうとしなかったか。
それでも腹は立つんだけどよ。
「”加護無し”といえば当時はそれはもう有名だった。なにより、ここは軍と密接な関係にある。その事実は本人よりも周りの方が受け入れられなかった」
「それはやはり験を担ぐ意味で、ですの?」
「そうだね。こんな不吉なことはないって領民のほとんどがアイツを認めなかった。中には殺してしまえという声すらあったほどだ」
そんなことがあるのか?
誰にでもあるはずの加護がねぇなんてことが。
しかもそれを、領民が受け入れないどころか殺せなんて言うことが。
仮にも領主の息子だぞ⁉
ありえなさ過ぎて混乱してきた。
「だからだろうな。父上も、アイツを表に出そうとはしなかった。一番信頼している部下の1人であるゴルドラッセに教育役を任せて、必要な事だけを教え込んだ」
「必要な事。というのはなんでしょうか?」
「兵士としての心得、かな? 父上はゼネスを1人の戦士にしたかったんだと思っている。そうすれば、手柄だけで評価できるだろう? なにせ自分は組織のトップなわけだからね。でも、アイツはそれを望んではいなかったんだと思う。その結果が冒険者だったのかもしれない」