滞りなく
結論から言えば、
「クッソ‼ やっぱ足りねぇ‼」
嘆くジェイド達が稼いだ合計は約58万ガルド。
木の調査依頼とニアラプターの討伐依頼の完了報酬。さらに討伐報酬は2体分に上乗せしてもらって、ニアラプターの素材丸ごと軍に売りつけて、この数字だ。
1人10万を6人分にはあと2万ガルド程足りない。
5人分は集まったんだし1人だけ我慢すれば~というのは通用しない。
報酬は均等に分配するってのがパーティーで依頼を受ける抜け道の約束だ。その前提を違えるなら、そもそもが違反になる。
「すみません。私の力不足です」
「そんなことはありませんわ! あなたの活躍は私が保証して差し上げます! ただ・・・」
「相手が、悪かった」
「そうね。どうしてかはわからないけど、私達に対する態度がかなり頑なだったもの。あのゴルドラッセって人」
謝るリミアをキューティーが励まし、ケイトが理解し、エイラが同調しながら俺を見る。
そう。エイラの言う通り、軍側の交渉人はまさかのゴルドラッセ。
それは後から本人にも聞かされ、ついでに嫌味もくれやがった。
「そいつは悪かったな。流石に、アイツが交渉相手で出てくるとは、俺も予想してなかった」
アイツは軍団長だ。
他にもやることがいくらでもあって。だからこそ、そういう雑事は部下に任せると思っていた。
「今からでも新しい依頼を探しますか?」
尤もらしいヨハンの提案だが、全員渋い顔を見せる。
今日は3日目で残り時間も多くはない。
その上で、ここのギルドにC級の依頼は無く、これといった問題も他には報告されていない以上、新しい依頼については望み薄だ。
ニアラプターの討伐の件で実績はある分、以前よりは1人でも話を聞いてくれるだろうが、それでも厳しいと言わざるを得ねぇだろう。
「なんだか申し訳ないねぇ。うちの旦那のせいだろう? 私が適当な依頼をアンタらに出そうか?」
そういうのは同じくギルドに居合わせた妊婦の冒険者モーリィー。
「それは試験の監督役として、流石に見過ごせねぇよ。それにアイツは関係ねぇしな」
「でも、ニアラプターの素材を軍に買い叩かれたから、金額が足りなかったんじゃないのかい?」
「それが、そうでもねぇんだよ」
ゴルドラッセは非の打ち所がない値段でニアラプターの死体を買い上げた。
素材の相場と解体作業に対する賃金の相場から、ほとんど平均と言える金額で、合計金額が足りなくなるように計算して値段を出した。
そのせいでリミアはほとんど値段交渉が出来なかったと聞いている。
仮に、ゴルドラッセ相手の交渉じゃなかったとしても。
素材の相場はまだしも、解体作業報酬の相場を知らねぇジェイド達じゃ大きく結果は変わらなかっただろう。
そこを交渉しないために自分達で解体したとしても、素材をきれいに剥ぎ取れるとも思えねぇ。そうなれば、今度は素材の売値が下がる。
リミア自身。人の善意に付け込んで・・・ってのは好かねぇだろうから、相場については調べてから交渉に入っているはずで、不当な程の高額をつけたり、つけられたりにはならなかったに違いねぇ。
結局、不足額が多少変わった可能性こそあるが、それでも。
金額面での変化はほとんどなかったんじゃねぇかな。
「それより、そっちはどうだったんだ?」
ジェイド達の方はヨハンの提案もあって、どうするのかを相談しているようだったので、自分が受けた依頼の結果を聞いておいた。
「それなら、ゲーニルの奴がどうなったのかも聞いておかないとね? こっちは泣き付かれて謝られただけさ」
「アイツは軍に引き渡した。二度とここで見ることはねぇだろうよ」
「・・・そうかい。昔から軽薄な奴で、アタシはあんまり好きじゃなかったが、そう聞くとアレだね。やっぱり悲しいもんだね」
「そうだな。馴染みの顔がいなくなる時はどうしても・・・な。ま、今回は仕方がねぇが・・・」
「そうだね」
冒険者をやってればそういうこともある。
特に。死に別れなんざ言葉も出ねぇ。
今回は逮捕なだけ、まだマシと言えるだろう。
その後がどうなるかは別として。
「それで、アイツがここにいた理由についてはなんか聞いてねぇか?」
「さぁねぇ? 旦那は上手い儲け話があるって声をかけられてついていったらしいよ。ホントにバカだね・・・」
「その儲け話の内容は?」
「それを聞く前に昨日の騒ぎになったらしい。旦那は騙されたって言ってたね」
「・・・そうか」
情報はなしか。
ゲーニルの目的も、繋がりも、わからねぇまま。
「世話になったってのに、役にも立てないみたいで悪いね」
「どうしようもねぇもんはどうしようもねぇよ」
机を囲んでも答えが出せないままのジェイド達と同じだ。
時には、待つことも重要になる。
「すみません! 急ぎなのですが、この中に祈祷を出来る方はいませんか⁉ 報酬は3万ガルドになるのですが・・・・・・ッ‼」
こんな風に。