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誰が、なにを、どうなろうと

 赤光の螺旋は2匹のモンスターを飲み込んで見せた。

 6人がかりの魔法は間違いなく、その命を奪い去ったに違いない。

 あの火柱に中身は無いが、その中は灼熱の地獄。

 内側から丸焦げになったことだろう。


「なんなんだよ・・・てめぇらは・・・」

「ただの冒険者だろ?」

「ガキに出来ることじゃねぇだろ・・・⁉ あんな魔法も! なにより、辺境伯領の軍人まで巻き込んで‼」

 ただの冒険者たるマッターとしては。同じことなど出来ねぇ以上、否定したくなることなのかもしれねぇし、言いたいことはわかる。


 それと同様に、

「それは・・・」

 とヨハンは俺の方を見上げるし、

「本当に、大丈夫でしょうか?」

 とリミアも聞く。

 無論、ジェイドを含んだ4人も同じことを思ってるだろう。


 言ってしまえば巻き添えだ。

 ニアラプター2匹を仕留める過程で視界を奪われ、雷鳴に驚かされ、熱風にさらされたんだからな。


 だが、

「なんのことだ?」

「「「は?」」」

 一同の声が重なる。


「いいか? お前らはこれから、ここを降りて行って、あいつらにこう言うんだ”ニアラプターを取り逃してしまってすみません‼ 怪我はありませんでしたか⁉”ってな」

「「「はぁ⁉」」」

 二度も。


「てめぇは⁉ そんな話があの連中に通じると思ってるのか⁉」

「そうだぜ‼ アンタの実家が従えてる奴らだからって、舐めすぎなんじゃねぇのか⁉ いくら俺様達が子供に見えるからって、そんな冗談みたいな話が――‼」

「通じるんだよ。こいつがな」

 ジェイドの声を遮って続ける。


「お前らの言い分はこうだ。”町でニアラプターの討伐を受けた。昨日の時点では1匹だと聞いていたが、実はもう一匹いた。そのため今日は2匹共を討伐しようとしていたが、突如。強烈な光が差したせいでニアラプターが走り出してしまった、俺達はそれを追ってここに来たら皆さんが戦っていたので、被害が出てはまずいと思って、慌てて止めを刺した”」


 真実を言えば、あの信号弾は俺がこいつらに向けた合図だが。それは俺達が口にしなけりゃ証拠は出ねぇ。くわえて、それでモンスターが駆け出しても原因じゃないとは言い切れねぇんだ。


「さらに、俺達の合流の方が先だったことを目撃していた奴がいたとしても。”モンスターが光を目指していたので先回りした”と言っておけば、嘘とするのは不可能だ」

 実際に、こいつらはここに残って、モンスターだけが下まですっ飛んでいったわけだからな。


「私達の関係を聞かれたらどうするの?」

「普通にギルドの関係を言えばいいだろ。教育係だってな。ついでに今が昇級試験の最中だってことも付け加えておけ」

「試験中だと、なにか・・・かわる?」

「都合の悪い話から逃げるためだ。なにか言われる前に、ニアラプターの死体の権利を主張して交渉に入れ」

「交渉に、ですの?」


「ああ。向こうは任務中に襲われてる。その報告の為に証拠がいるんだよ。だからそれに対してお前らは。冒険者の身分、試験中という事実、依頼の内容、報酬額をカードに交渉するんだ。どうしても必要だってんなら買い取れって言ってな。依頼の写しはそのために作ってるんだぞ?」

 止めを刺したからには、死体の処理と素材の剥ぎ取りは義務と権利だ。


「そうだったんですか⁉ でも、あれってギルドに提出しちゃったんですけど・・・⁉」

「交渉相手をギルドまで連れて行け。お前らはニアラプターの解体どころか、なにが素材になるのかも知らねぇだろ? 生態調査報告書を見に行くついでだと思えば手間でもねぇだろ」


「待ってほしいのですが・・・! 私達があの巨大なモンスターの解体をするのでしょうか?」

「死体処理の重要性は一番最初に教えたはずだがな? まぁ、無理だと思うならそこも交渉すりゃぁいい。解体作業ごと買い取らせろ。多少値段は下がるだろうが、そこは交渉力の見せ所だ」

「なるほど。わかりました」


 そろそろ闇が晴れ、雷は走り去り、火も散り散りに幕が下りる。

 その結末まで見守っていたいところだが、

「さっきのあのガキ・・・てめぇの実家がどうとか言ってたが・・・本当か?」

「あの場面で嘘を吐く理由があるか?」


「逆に。お前は俺になにか隠してねぇか? ゲーニル・・・だったか? そいつの居場所とかな」

「居場所は知らねぇ。それは本当だ。ただ・・・心当たりならある。いや、アイツのことだ。たぶん間違いなく、現れるだろう」

 俺はマッターにそこまで案内させた。

 けじめは付けとかなきゃならねぇからだ。



 そして、

「おい、どうしたマッター⁉ 面白い格好してんじゃん‼」

 軽薄を絵にかいたような男が現れた。


「ゲーニル。あの場所に皇国軍が来た・・・どういうことだ?」

「それはおかしいな⁉ あの場所は俺しか知らないじゃん⁉ なのに? 一体どういうことだ⁉」

「それを俺が聞いてんだよ! ゲーニル‼」

「おいおい、まさか俺を疑ってんのか⁉ そんなわけないじゃん⁉ 俺達って、仲間だろ? ・・・・・だから聞くんだけど、そいつは誰なんだ?」


 やり取りから見て、こいつがゲーニルとかいうので間違いねぇんだろう。

 今回の皇都での盗難騒ぎを引き起こした奴らと繋がってる野郎。

 俺は縛られたままだったマッターの縄を解く。

 縛られっぱなしだったのは途中で逃げられたら面倒だと思ったからだ。今解いたことに大した意味はねぇ、ただ、目の前の糞野郎を拘束するのに縄を再利用しようと思っただけだ。


「こいつか? こいつはな・・・”加護無し”だ」

 マッターが俺を名前ではなく、十数年前のあだ名で呼んだ。

 その時。融合強化で駆ける。


「――ッ! ・・・ッ⁉ ガァ⁉⁉」

 こいつならそれで笑ってくれるだろうと思った。

 腹を抱えて笑う瞬間に、下から顎を砕くようにかちあげてやった。

 ただのアッパーだが、渾身の力で殴ってやった。

 籠手のことを考えれば、それだけで死んでもおかしくはなかったが、幸か不幸か。顔の形が大幅に変わっただけで、この男は生き残った。


 その変化を修正した上で、マッターに告げる。

「後は俺が処理しておく。お前は嫁に顔でも見せてこい。心配だから探してほしいって依頼を受けてんだ」

 それを聞いたマッターは一目散に走り去り。


 俺は一人、

「ここで死ねれば幸せだったのにな」

 引きずりながら呟いた。

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