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side―ケイト

「それで木の健康調査ってどうするつもり? 手伝うとは言ったけど・・・」

「エイラには回復魔法を使ってもらうだけ。それを私が観測するの」

「観測?」

「そう。ゼネスさんの回想再現(リコール)みたいな最上級魔法でもなければ、普通回復魔法はゆっくりと状態を復元するでしょ? その回復が終わるまでの時間を測ってどれくらい弱っているかを確認するの」

 私達は町の南側の森を目指して街を歩く。


「っつーか、なんで木の健康を調べんだよ」

「ジェイド・・・アンタ話聞いてなかったの?」

「聞いてたさ。鉄の花はこの町の名産だから、だろ? けど、それなら花の方を調べりゃいいじゃねぇか」


 鉄の花。

 この荊棘の庭園に咲く鈍色の花。

 その花びらは鉄のように固く、その茎は鎖のように頑丈で、棘は下手な針より鋭い。

 花は防具やアクセサリーに。棘の生えた茎、荊は牢獄の守りなどでよく使われており、荊棘の庭園5つの町の名前の由来になったほどの名産品。


「それは花と木が共生関係にあるからだって、町の人は言ってたよ? 木から栄養をもらってるんだ。って」

「ふぅん。なんか、よくわかんねぇな」

「そんなに心配なさらずとも、ケイトが出来るというのだから任せてしまえばいいのですわ! ジェイド様は私と一緒に戦闘になったのことでも考えましょう!」

「心配はしてねぇけどな」


 あんまり興味なさそうに相槌を打つジェイドにキューティーが話を変える。

 けれど、これはキューティーなりの気遣いで、別に私を蔑んでるとかそういうのじゃないのはわかってる。むしろ、信頼してくれてるからこそ、任せればいいって言ってくれてる。


 私はその信頼に応えようと、応えたいと思う。

 あの時みたいに、勝手に傷付いて、勝手に諦めて、勝手に死のうだなんて、バカなことは2度としない。そう決めたんだから。


 間もなくして、町から森へと景色は変わり、歩く道も緩やかに険しくなっていく。

「・・・・・・」

 貰った地図を見ながら、印の場所を目指し、そして辿り着いた。


 でも、

「本当にここでいいの? ケイト」

「そのはず・・・だけど」

 花が咲いていない。

 ここは鉄の花の群生地だと言われて地図を貰い、印を描いて貰った。にもかかわらず、辺り一面にはただただ荊が広がるのみ。


「花なんて見当たらねぇぞ?」

「もう一度、地図を確認してみたらどうですの?」

 そう言われてもう一度、地図に目を落とすが・・・。

「やっぱり間違いないみたい」

「・・・確かに。ここで間違いないですよ?」

 ちょっと見せてください。とヨハンが横から顔を覗かせて地図を確認するけど、結論は変わらない。


「だとすれば、花は持ち去られた、ということでしょう。花が独りでに移動するのでなければ・・・ですが」

 リミアがいち早く状況を整理する。


「でも誰がそんなことをするのかしら?」

「普通に考えるなら町の人・・・ですけど。でも確か今って・・・」

「うん。様子を見るために採取は控えてるって言ってたね」

 ヨハンが私を見上げるから、ちゃんと間違ってないよって答えてあげる。


 だからおかしい。

 町の人でもないなら、後は旅の冒険者が事情も知らずに、って可能性もあるけど。でも、今この町に旅の冒険者は私たち以外にいない。

 だとしたら・・・・・・モンスター?


 ガサガサッ! という音が近くから聞こえた。

 全員が、私と同じように最悪の事態を考えていたんだと思う。

 敏感に音に反応して、素早く構えを取る。

 でもどこかぎこちなくて、ギギギって音が鳴っていると錯覚するほど、硬くなっていた。


「なんだ? お前らも鉄の花の採取を依頼されたのか? でも残念だったな‼ ここはもう俺のもんだ ! とっとと別の場所へ行くんだな!」

 けれど、音の方から姿を現したのはもう一人の冒険者で。


 たぶん皆。マヌケな顔になってた。

 後、ギギギって音は錯覚じゃなかった。荊の棘とあの人の鎧が擦れたからだ。


「別に要らねぇよ‼ 勝手に決めんな‼」

「そうですわ‼ それに、今は鉄の花を採取してはいけないのではありませんの⁉」

「俺は依頼されたから採取してんだ! 文句ならてめぇらの教育係にでも言いやがれ‼ まぁ? 贔屓でもなけりゃ取り合ったりなんかしねぇだろうがな‼」

「んだとぉ⁉」

「ちょっと黙って!」

 ジェイドが熱くなりすぎると会話にならない! とエイラが割って入る。


「私達は別に鉄の花の採取に来たわけじゃないわ! 最近、鉄の花の品質が悪いから調査して欲しいって依頼を受けたの! そのためにも1輪でいいから花を残して貰えないかしら?」

「知ったこっちゃねぇな! そんなこと。こっちは数集めてくれって言われてんだ! 譲ってやるつもりはねぇよ!」

「1輪くらい構わねぇだろ‼」

「構うっつってんだろ‼ そもそも、お前さっきは要らねぇっつったじゃねぇか‼」

「言葉のあやに決まってんだろ‼ 俺様を舐めてんのか⁉」


 どうしよう? このままじゃ収拾が・・・大人気ない大人と子供気ない子供の争いがひどい。

 エイラの言う通り、花があったほうが経過の観測はしやすい。でも、依頼自体は木の健康調査。ここはいっそ花はなくても・・・?

 もめるよりもその方がいいかな? そう思い、提案しようとした瞬間――。


「皆さん! 気を付けてください‼」

 ヨハンの叫びが空気を切り裂き、そうして。

 地響きが届く。

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