禍り角
「よう、どうだ? 依頼は受けれそうか?」
ゴルドラッセと遭遇した帰りにジェイド達を見つけて声をかける。
「当たり前だ! すでに2つ依頼を受けてきたところだ‼」
ジェイドがこれ見よがしに言ってるなら、嘘じゃねぇんだろう。
「そいつは良かった。依頼を受けたんなら、一度ギルドに戻って書類を作成して来い。依頼主の欄には報酬を受け取る時にでも名前を書いてもらえ」
まずは第一段階クリアってところか。心配はしてなかったが、問題はこれから。ついでに忘れてそうな書類作成について注意しておく。
「そっちはどうなんだよ? 森への侵入許可。ちゃんと取ってきたんだろうな?」
「今がその帰りだ。ただ、別件で軍の連中が動いてる。森で遭遇しても戦わずにギルドカードを見せろ」
軍の連中もいきなり仕掛けたりしねぇとは思うが、下手に煽られたらジェイドが突っ込んでいきそうだったんで先に釘を刺す。
「別件ってなんだよ?」
「最近ここらの森にゴロツキが住みついてるらしい。その掃除だとよ」
「それはつまり、俺様がゴロツキに間違われるって言いたいのか⁉」
「どっちかっつーと、そうやって軍人相手に喧嘩を売らねぇかと心配になっただけだ」
「売らねぇよ‼ 俺様をなんだと思ってやがる‼」
なんだと思ってると聞かれりゃぁ、バカだとは思ってるな。
この場では言わねぇけど。
「まぁ、喧嘩を売らねぇならそれでいい。もし相手側から喧嘩売られても、買うんじゃねぇぞ‼」
「なんでだよ‼ その場合は相手が悪いんだから別にいいだろ‼ 相手の態度によっては俺様が立場ってやつを―――」
「――悪いことは言わねぇからやめておけ」
大見得を切ろうとするジェイドを、俺は止める。
ああ? とまだ声をあげようとするジェイドを押しのけ、エイラが。
「ジェイドじゃないけど、そんな言われ方だと気になるわ。どうしてかしら?」
「万に一つも勝ち目がねぇからだよ。掃除しに来てるのは、軍の精鋭部隊をまとめた軍団だ。怪我で済めばいいが、下手すりゃ殺されるぞ?」
「なぜ殺されなければいけないのかがわかりませんが・・・それより、なぜそのような軍団がこちらに来ているのか。私はそちらの方が気になりますわね!」
「兵士の力が健在なのを見せておきたいんだろう。年末の時期の犯罪抑止と年越しの祭りの景気付けってところだな」
くだらないかもしれないが。この町を含め、荊棘の庭園を作る5つの町の内半分以上がグラーニン家の管轄だ。統治の面でも力を見せておくのは重要な意味を持つ。
規律を守るものには安心と安全を。破るものには恐怖と粛清を。
単純だがわかりやすく効果はテキメン。やらねぇ理由がない。
「そ、そんな理由で、殺されるの?」
「っつーより、”拘束する過程で抵抗された結果死んじゃいましたー”が罪に問われねぇことが多いから・・・だな。面倒な確保をするより、殺したほうが早いって考える奴が一定数いるんだよ。軍人の中にはな」
「なぜそんなことが許されているのでしょうか?」
「ここらは軍の力が強いからな。くだらねぇ嘘でも、それを暴ける奴がいねぇんだよ」
「腐っているのですね」
唾棄すべきと吐き捨てるリミアの意見もわかるが、
「どこもそんなもんだろ。皇都は中央貴族が、西は商会、南は地方貴族が、東はわけのわからねぇ宗教が利権を貪ってる。この辺りはそれが軍ってだけだ」
そういった問題はどこにだってあるし、変えられるようなものでもない。
一個人として出来るのは、精々うまく使うぐらいのもんだ。
「それで? どんな依頼を受けたんだ?」
これ以上、軍について話しても仕方がねぇと、話を切り替える。
さっきの話を聞いといて、それでもなお軍に喧嘩を売る程のバカは流石にいねぇだろうからな。
「あ、はい! 僕らの受けた依頼は2つ。1つは、とあるモンスターの討伐。もう1つは、周辺の木の健康調査です」
「木の健康調査? 変わった依頼を受けたな?」
「はは、そうですね。そっちはケイトさんが出来るとのことで」
「大丈夫なのか?」
「たぶん。エイラにも手伝ってもらうから、大丈夫・・・たぶん」
たぶんで結ばれると無性に不安になるんだが、ケイトの表情を見る限りは大丈夫なんだろう。たぶん。
「討伐モンスターの情報はあるのか?」
「ニアラプターというモンスターらしいんですが・・・」
「あぁ。あいつか」
言われて思い出すのは2足で歩く頭のデカい巨大な蜥蜴もどき。
ここらにいるモンスターの頂点だ。
「やっぱり先生はご存じなんですね?」
「まぁな。だが、モンスターの情報が知りたいならギルドで生態調査報告書を読め。特徴から注意点まで詳しく書かれてるはずだ」
そっか、とヨハンが頷く間にリミアが思い出したように聞く。
「ですが、ここは皇都ではないので生態調査報告書の観覧には料金が発生するのではないでしょうか?」
「そりゃぁな。それを差し引いた上で、期日内に10万の利益を出す。それが今回の試験だからな」
「なるほど。そこも含めて交渉力だと、そういうことですね」
「ま、そういうことだ」
それぞれ納得したところで、俺はもう1人の参加者の足取りも知るべく歩き出し、
「あぁ、そうだ! 1つだけ、アドバイスしといてやる」
ニアラプターについて思い出したことを、後ろの教え子達に伝えておく。
「もし逃げるようなことになったら・・・下り坂がオススメだ」