嘘も方便
「上手い話・・・でありますか?」
「あぁ。お前らはただ、隊長殿にこう伝えるだけだ。”犯人は確保しました。ですが、冒険者ギルドのグラーニン卿と合同で捕らえたため、犯人はそのまま北へと搬送されました”ってな」
「しかし、そんな嘘は皇都で盗みが起きれば、すぐに露見するのでは⁉」
「その時は俺が、いや。グラーニンの家名が責任を取る」
「そんなことが出来るのでありますか?」
「どうとでもなるさ。適当な犯罪者を見繕って犯人に仕立て上げ、続く皇都での盗みはその仲間のせい。つまりは複数犯だった・・・とかな」
「よ、よろしいのでありますか?」
カールが怯んだように及び腰で聞いてくる。
それは。そんなことをこんな場所で、下っ端の自分に話してもいいのか? つーことなのか。あるいは、そんなことをやってもいいのか? という問いなのか。
そこまではわからねぇが、どちらであっても答えは一緒だ。
「構わねぇよ。どうせ、今に始まったことじゃねぇからな」
いわゆる一種の見せしめだ。
生贄と言ってもいい。
精霊信仰などで精霊様がお怒りの時、その怒りを鎮めてもらうための供物のようなものだ。
”正しいもの”である必要はねぇ。
「昔からよくあることなのだから、今さらだと?」
「まぁな。単純な話。犯人に向けて、お前は捕まったらこうなるって知らせてんのさ」
「それにはどういった意味が・・・?」
「そうだな。もし仮に、お前が犯人だったらどう思う? 犯罪者として、北へご招待されたら」
「考えたくもないであります!」
「そうだろ? どうなるか、分かったもんじゃねぇからな。だから、よっぽどの馬鹿でもねぇ限りは、犯行も止まるはずだ」
この国の北は軍が幅を利かせる地だ。
刑罰も重く、その沙汰や裁量は軍の思いのまま。
犯罪者にとっては地獄と言って差し支えない。
「それでも、今回の犯人は犯行手口が雑な点にあります! よほどの馬鹿である可能性もあり、そのことから犯人を別に用意したことがバレては・・・」
「その心配はねぇ」
「なぜでありましょうか!」
「真犯人が捕まった時点で、最初の犯人は真犯人が用意した身代わりってことになるからだ」
自分は捕まらなかったからと調子に乗れば、いずれは捕まり。そうなった時には。
真犯人は卑劣な事に、罪のない、関係のない一般人を罠に嵌め、自分の身代わりとし。その裏で、懲りずに犯行を続けた。
とか、仲間を斬り捨て、自分だけ助かりながらも犯行を続けた。
とか、今度はそんな話をでっちあげて、国民の感情を操作する。
「軍と犯人の話が違う時、国民が信じるのはどっちの台詞だろうな?」
一国の正規軍と一犯罪者。
信頼の度合いが違う。
「誰も、軍が正式に発表したことを嘘だとは思わないでありましょうな」
「そうだ。真犯人は本来よりもよほど重い刑を執行されるだろうな。言い訳すらさせてもらえず、石を投げつけられながら。軍を敵に回すってのはそう言うことだ」
絶対的な正義たる軍が国民に対して嘘などつかない。
そういう心理を利用して、時に軍は人を動かす。
それは国民だけでなく、犯罪者さえもだ。
「ですが、よろしいでありますか?」
「なにがだ?」
「我々の手柄にするということは、ノクァッド卿の手柄になるということ。グラーニン卿としては面白くないのでは?」
『なにを勘違いしているか知らねぇが、ノクァッド卿とはこの間も言った通り協力関係にある。お前らが問題を起こさねぇ限り、敵対する理由はねぇよ』
と、言えればいいんだけどな。
ズダーク閣下の一件を見るに、こいつらが問題児筆頭なのは間違いねぇ。
「ノクアッド卿の手柄? そんなわけねぇだろ? こんな簡単な解決策も思いつかねぇで、被害を拡大させたんだ。直接犯人を捕まえたお前らと違って、奴は指揮官としての能力を疑わることになるだろうよ」
そうはならないだろうと、わかる人間にならわかる適当話でごまかす。
そもそも、上の人間はこの報告を嘘の報告などとは思わねぇだろうからな。
普通にそれなりの評価を得るはずだ。
軍内部での盗みが本当だったなら尚のこと。
逆に、裏切者には舌打ちされるかもしれねぇが、それほど分かり易ければベルもなにかに気付くだろう。
それに、裏切者視点では盗みの犯人が捕まったかどうかは管理できているはず。
ベルの報告が嘘だと知っていれば、目を付けられるのはベルではなく、俺になる。
これなら、ベルに注目を集めず。むしろ、部下の嘘報告を見抜けないマヌケぐらいの位置に置きながら、軍を皇都外に出させないことが出来るだろう。
そうすりゃ、裏切者がなにを考えてようが動き難くはなるはずだ。
盗みに関しても、なにがねらいであったとしても。下手に警備が手薄になることはねぇだろう。
どこまで意味があるかは、わからねぇけどな。
「で? お前らはこの話に乗るのか?」
後はこいつらがこの話に食いつくかどうか、だが。
「了解しました! 犯人の搬送についてはくれぐれもご注意を‼」
カールとリートはバッ! っと敬礼をする。
どうやらこいつらも、ベルのことは気に入ってねぇみたいだな。
話はついた、と。
犯人確保の報告をする為に離れようとする2人へ、
「そういえば、この店に来た理由は?」
最後まで残っていた疑問をぶつける。
「隊長殿のご命令であります!」
「奴の?」
「はっ! この店にはどうにも、貧困層以外の客も多く。それに比べて、被害額があまりにも小さいことで、犯人らが密会を試みているのではないか。という嫌疑が掛かったのであります!」
「なるほど。もう行っていいぞ」
「それでは‼」
行くぞ! とリートを連れて離れていくカール達の背中を見ながら、さっきの言葉を考える。
この店はいい店だ。
素材こそ大したもんじゃねぇが、値段も手頃で、味だって悪くねぇ。
俺が皇都に来た20年以上前から、変わらねぇ店だ。
だが確かに。
昔から、俺やベル・・・だけじゃねぇ。教官や、第六とはいえ皇子のクライフ、教皇の爺さんと。錚々たる面々が利用していると言える。
しかし、なぜここか?
そうなって思い出したのは、初めてこの店に来た時の記憶。
その時。俺を隣に連れて、ここへ来たのは。
教皇になる以前のおっさん大司教グレアムだった。




