厚きはいずれか
店の扉を押し開けて、中に入る。
そして店内を見まわし、見知った顔を見つけ、その向かいに座る。
「お話はもうよろしいのですか?」
「ああ。そっちも、もう食事は終わったんだな?」
ユノが席につくテーブルの上にはティーカップのみが置かれていた。
「はい。おいしくいただきました」
「そいつは良かった。それで? 話したいことってのは?」
「あ、はい。それなのですが――」
ユノは楽しそうに聖女になってからのことを話し始めた。
爺さんとは以前より良好な関係になり、教会についてもっと詳しく教えてくれるようになった。とか、聖女になったことで教会内にちゃんとした居場所が出来た。とか、聖女になって終わりではなく、聖女になってからの修行の方が大変だ。とか・・・。
あれから2ヵ月あまりで劇的に変化した環境に、ついていくのが大変だとしながらも、目標のある毎日は楽しいとのことだ。
元は教皇の身内でありながら、両親の件もあって腫物のような扱いだったが、それもなくなって。
一部では嫉妬のようなものも見受けられるようになったけれど、決してそれは悪いことではないと。むしろ、自分という存在のおかげで、競争が生まれるならば教会の為になると。喜んでいるようだ。
「まぁ、いいんじゃねぇか? 認められてきたってことだろ」
「はい! 私もそのように思います。今までは、その・・・・・・寂しかったので」
それは両親がいないことか、あるいはその件で遠巻きにされたことか。
一瞬の表情から察することは出来ないが、今がよければ、それでいいんだ。
「他にはねぇか?」
「そうですね。私がお話いたしたかったのはこれくらいでしょうか・・・。他に、ということでありましたら。お爺様が、是非とも顔を見せに来いと」
「用もねぇのに行くわけねぇだろ・・・ったく。暇なのか?」
「いえ。それはもう忙しそうにしていますよ? 人手が足りない~と」
「小間使いが欲しいだけか」
「あはは、そうかもしれません。でも、私もたまにで良いのでお会いしたく思います・・・」
視線をそらしながら身を捻るようにして、顔を赤らめて見せる。
もじもじする姿はあまりにもわざとらしく、役者には相当の努力が必要と言えるだろう。
「残念ながら。またしばらくは皇都を出る。顔は出せそうにねぇって言っといてくれ」
「またですか? 今度はどちらへ?」
「実家だ。甥の門出を祝いにな」
「ああ! 慶事なのですね」
「そういうことだ。こっちに戻るのは早くても春前だな」
「それでは本当にしばらくお会いできませんね。残念です・・・」
ガックリと項垂れるユノに。俺は疑問をぶつける。
「そんなに残念なことか?」
「少なくとも、私にとってはそうなります!」
「なんでだ?」
「そんなこと! ・・・私の口からは言えません。いじわるです・・・」
そっぽを向くユノ。
この反応が本物であれば、確かに。俺はひどい奴なんだろう。
だが、これは演技だ。今日だけじゃなく、初めて会った時から全て。
どこぞの爺が言っていた”孫の婿に”ってのに合わせた演技でしかねぇんだ。
周りにいる人間の加護Lvを引き上げるギフトを持っている俺を、教会に引き込むための策略だ。
「じゃぁ、今日会ったのも偶然か? この店を使ってるのも?」
「私はこのお店に来てはいけませんでしたか?」
「いいや? だが、さっきの兵士共の驚きようは見ただろ? 聖女がこんなところに1人で来るのは”おかしいこと”なんだよ。それこそ、食事の為だけ・・・なんてのはな」
ユノが聖女として知られているかどうか、は問題じゃねぇ。
そんな立場の人間が、こんな下町の、しかも盗難が相次ぐ地域に、1人で現れる。
これがおかしくないと言えるか?
それに。
この店自体には、とある嫌疑が掛けられている。
そのことを店に入る直前、カールとリートの2人から聞き出していた。




