両手に乗せるは期待か、それとも?
「それで? なんであんな場所にいた? 任務ってのはなんだ?」
俺は狭い路地で2人の兵士へ詰め寄るようにして尋ねる。
「そ、そんなこと。言えるわけがないでありましょう・・・」
「しょう・・・」
どうにか視線をそらしながら答える2人。
つーか、もう片方の奴はやっぱ後に続くだけなんだな。まぁ気にしなけりゃいいか。
だが、
「いいのか? さっき見たことをそのまま教皇に直訴するぞ?」
「な――ッ⁉」
その言葉を聞いてカール上等兵が顔色を変える。
「あいつは成りたてとはいえ聖女だ。そいつを蔑ろにしたとなれば軍に苦情の一つでも寄せられるだろうな? もし、そんなことになったら・・・どうなると思う?」
教会ってのは敵に回すと相当厄介だ。
加護を信仰している人間の数は思っているよりずっと多いし、なにより薬の製造や祈祷の大半を担当してるんだ。
それらの恩恵はたとえ一国家の軍隊だとしても、馬鹿には出来ない。
祈祷がなくなれば怪我をする確率は上がり、薬がなければそれが治せない。
そんなことがわからねぇ奴なんざいねぇ。
そして当然ながら、そんなことを引き起こした人物だと知れ渡ったらどうなるか・・・なんてのは、語るまでもねぇはずだ。
「待ってください! 聖女というのは本当のことなのでありますか⁉」
「俺が依頼を受けて認定試験に同行したからな。間違いはねぇよ」
「そんな・・・⁉ いやでも、見たことがないでありますよ⁉」
「それは知らねぇよ。周知させてるかどうかも俺は知らねぇしな。なんなら呼びつけてみるか?」
「誰を、でありますか?」
「あの爺に決まってんだろ。教皇っつー最高権力者だ。冗談で嘘なんざ吐かねぇだろ」
「呼びつけるって・・・、本当にそんなことが出来るのでありますか?」
「まぁな。なんなら試してみるか? ただその場合は、さっきのことを全て。包み隠さず話さなきゃならねぇがな」
「いえそんな! 滅相もないであります‼」
カールは十分にビビってくれているようで。
たまには、あの爺さんの教皇って肩書も役に立つな。普段は面倒事ばかり言ってくれるが。
「しかしでありますが、任務を外部の人間に話すのはその・・・わかるでありますよね?」
「軍規違反、か?」
「そうであります‼」
「なら仕方ねぇ。爺を呼ぶ」
「どうか! ご勘弁を‼」
必死に頭を下げる2人を見下ろし。
ああ、態度の悪かった連中を好き勝手弄ぶのは本当に楽しいな。
なんて、悦に浸ってる場合じゃねぇか。
「だったら、お前ら2人で任務の確認をしろ。俺はそれを盗み聞くだけだ」
「うっ・・・いや、しかし・・・・・・」
ひとしきり悩んだ末、カールはもう一人に声をかける。
「リート一等兵。ここでの任務はなんだったか?」
「ッ⁉」
リートと呼ばれたもう一人は明らかに驚いた顔をした。
それほど、カールのこの対応は珍しいのかもしれない。
「最近。我らが皇都軍を馬鹿にするような、盗難事件を繰り返し発生させる犯人の確保。又はその協力者のあぶり出しであります!」
あぶり出し、ねぇ。
軍の方でも協力者の可能性については気付いてるのか。
「犯人とその協力者についての情報は?」
「犯人の特徴、及び協力者を見つけるための方法はなんだ!」
「犯人の特徴は犯行の粗雑さから素人集団、もしくは貧困層の住人と考えられており、協力者こそが盗賊である可能性から、盗賊と住民が密会できそうな場所を虱潰しにするように指示が出ているであります!」
俺の言葉を聞いてカールが同じようなことをリートに聞く。
カールも盗み聞き、という事の意味を分かっているようだ。
それにしても、軍も同じように犯行の素人臭さを感じていて、さらには実力のある盗賊がいるかもしれねぇってことに気付いてるとはな。
「指示を出したのは誰だ?」
「我々は誰からの指示で任務を遂行するのか!」
「ベルザフォン皇都防衛鎮圧部隊長の指示であります!」
ベルか。
まぁそうだよな。こいつらはおもり隊なわけだしな。
にしても、いい読みしてやがるな。
「他の皇都軍との連携状況は?」
「皇都軍各隊の割り振りはどうなっている!」
「守衛隊は数を増やし監視を強め、警邏隊は当該区画を巡回! 連絡は定時で行い、緊急時はタグにメッセージを飛ばします!」
タグってのはドックタグのことだな。
首だったり腰だったりに付けるアクセサリーで、どの隊に所属している誰なのかがわかりやすく記されている。
認証識別の他、冒険者のギルドカード同様、狭い範囲なら個人同士の連絡が可能で、隊長クラスになると広域メッセージなんかも飛ばせるようになる。そのための魔道具もドックタグに似た形で作られ、タグ並んで付けられていることからタグが豪華だと偉い。というような風潮があったりする。
兵士が唯一出来るオシャレとも言われているらしいが、今はいいか。
それにしても、各部隊はそれぞれでまとまって動いてるのか。
確かにその方が指揮はしやすいだろうが・・・いや、単にこいつらが避けられてる可能性もあるな。なんせ、おもり隊だ。
「その割り振りを考えたのは誰だ?」
「お偉方の考えとは奥深いであるな!」
「全くであります!」
これは、知らねぇってことだな。知らねぇことは答えられねぇと。
しっかし。
そうなってくると、余計に怪しいな。
こいつらの指揮を取ってるのがベルだっつーんなら。いくらおもり隊とは言え、手は抜いてねぇはずだ。
守衛も数が増えたんだから、押さえられる範囲も広がってるに違いねぇ。
そこに警邏。
各陣が連携を無視した勝手な動きをしたとしても、犯人が捕らえられねぇのはどう考えてもおかしいだろう。
つまり、怪しいのはこの割り振りを考えて、全陣営から報告を受け取っている人物。
「・・・・・・?」
「・・・?」
俺が考え込んでいるからだろう。
次の質問はまだか? と頼りなさそうな視線が送られてくる。
だが、こいつらはその人物を知らねぇんだよな。使えねぇ。
ベルから直接聞き出すか?
いや。報告を上げている先のその人物だって、木っ端の可能性がある。
もっと上の人間が黒幕だった場合、蜥蜴の尻尾斬りで終わっちまうな。
最悪、ベル自身が睨まれることに・・・。
そうなると俺としてもやり辛くなる。パイプは重要だ。
ただ・・・――北か。
気は重いが。致し方あるまい。
手紙のことを思えば、いつかはどうせで遠くもねぇ。
そうと決まれば、
「よぉお前ら。上手い話があるだが・・・・・・聞く気はあるか?」
さも、今来ましたよと言わんばかりの態度で、カールとリートの両名の肩に手を乗せ、ニッコリ笑顔で話しかけてやる。
「責任は俺が取って、手柄はお前らのモンだ。どうだ? 乗る気はねぇか?」
まるで、詐欺師のように。




