教え導くということ
「ここでいいだろう」
「ここでなにをするのでしょうか?」
昨日と同じく、二人を連れて皇都北側の森に来た。
ただ、昨日と違うのは連れて来た場所。
今日は北の街道を少し歩いた先にある、開けた台地。
街道からは高く、少し離れていて、森はそこを避ける様に弧を描いている。
俺達が駆け出しの頃に戦闘訓練と称してブロンソン教官にボコられた、ある意味思い出の場所だ。
何故そんな場所に来たのか・・・それは道中、二人が言ったモンスターを倒したい。という願いのために、俺も戦闘訓練とやらをやろうという算段だ。
「準備運動・・・と言いたいところだが、その前に」
生態調査報告書の件もある。
何をどこまで知っているのか、それを確かめておかないと昨日の二の舞になりかねない。
「戦闘スタイル、ステータス、魔法、装備。誰かに教えてもらったか?」
二人はお互いに顔を見合わせた後、
「特になにも」
「教わってないです」
という。
「・・・・・・どれ一つ?」
「そうですね。しいて言えば昨日聞いたことでしたら」
「分かることは学園で習ったことぐらいですね」
どういうことだ? 少なくとも1か月以上活動してたんじゃないのか?
「学園を卒業してから冒険者になったんだよな?」
「はい」
「そうです」
「冒険者になって1か月、なにもしてなかったのか?」
そう聞くと、またもや二人は顔を見合わせ、
「僕達が冒険者になったのは2週間前ですよ?」
などという。
いわれてみれば、適当な資料を渡されただけで、その辺りの事情はなにも知らない。
「・・・卒業からすぐにならなかったのは?」
「家庭の事情です」
「僕は個人的な理由・・・ですかね」
それぞれ、詳しく話すつもりはないらしい。
「わかった。なら、一からやるぞ」
「はい」
「おねがいします!」
学園卒業からすぐに冒険者になったわけではない。そして、その理由を話したくない。たったそれだけのことすら、俺は知らなかった。
勢いよく返事をする二人をよく見て、向き合わなければ、ものを教えることなど出来ないんだと昨日を思い返し、気を引き締める。
「じゃぁ・・・そうだな。まずはステータスについて話すか」
ステータスとは自分を簡単に、分かりやすく示したものだ。
どの数値が高いかで向き不向きがわかるし、克服すべき点なども一目瞭然だ。
戦闘スタイルや装備を決めるためにも、自分で知らなければならないことは多い。
「ギルドカードは持ってるな?」
二人がいそいそとカードを取り出す。
「そこには名前、等級のほかにステータス、スキル、加護の欄があるだろう。そしてさらに、ステータスはレベル、筋力、魔力、体力、判断力、想像力、瞬発力、運命力に分かれているはずだ。間違いないか?」
カードに目を落とし、頷いているのを確認して続ける。
「ステータスの評価は基本的にレベル100まで上昇し続ける。当然、100以降は変化しないか、年齢など衰退により下がるかだが、普通は下がるのを見ることはないから、そこは気にしなくてもいい」
ブロンソン教官のようにギルドマスターなどの職員にでもならない限り、引退した後にギルドカードを更新することはない。
「ということは、早くレベルを上げればいいってことですか?」
「それが・・・そうでもねぇんだよなぁ」
「どういうことでしょう?」
早合点するヨハンと最後まで聞こうとするリミア。
「レベルを上げる方法は知ってるか?」
「モンスターを倒す! ですよね?」
「それだけか?」
「他にもあるんですか⁉」
驚くヨハンにこっちが驚いた。
「そもそも、だ。このステータスは肉体の評価なんだ。モンスターを倒したからレベルが上がるわけじゃない。トレーニングしても上がるし、お前らの歳ならほっといても上がるさ」
「でしたら、レベル100というのは・・・?」
「そのまま成長の限界。体の完成ってことになるな」
「であれば、レベル100を超えることに意味はあるのでしょうか?」
「それこそ経験ってやつだろ? 特にお前らぐらいだと、5年後と今の身体が同じ、なんてことはありえないはずだ。なら、同じ感覚で動かしたとしても、結果は変わるんじゃないのか?」
「それはそうでしょうが・・・」
「分からないか? 肉体の完成は20代だが、衰え始めるのは30代後半。20年前後はその完成した体で過ごすことになる。つまり、その体の使い方をいかに知っているか、その力をどれだけ扱えるか、ってのが100以降ってことだ」
なるほど、とようやく腑に落ちた顔のリミア。
「それで、ステータスの評価だが、筋力、体力、瞬発力は体を鍛えれば上がる。想像力は魔法を洗練すれば上がる。判断力は・・・色々と経験していけばおのずと上がるが、上り幅は人それぞれだ。こればっかりは、なにをどうすればなんては分からねぇ」
ここまではいい。なぜなら努力でどうにかできるからだ。
問題は、
「魔力と運命力・・・これについては、生まれ持っての才能がほとんどだ」
この二つ。
「魔力と運命力は上がらないんですか⁉」
「いや。レベル・・・体の成長にあわせて評価も上がる。ただ・・・」
「いきなり飛びぬけた成長をすることはない」
「そういうことだ」
落ち着いているリミアは聞いたことがあったんだな。もしかしなくても魔力か運命力が高く、そのことを誰かから教えられていた。逆に、ヨハンはあの反応だ。それほど高い評価じゃないんだろう。
「戦闘スタイルはステータスを見て自分で決めろ。ただし、魔法使いの適正は魔力B以上。お前らの歳だと最低でもD+はないと無理だ」
それを聞いても頷くだけのリミアとガックリうなだれるヨハン。
それほど魔法使いになりたかったのか・・・? いや、あの年頃なら才能がないといわれるだけでも相当だ。
せめて、向いてる戦い方を見つけてやろう。
しばらく駆け出しと設定話になりそうです。
もっと早い段階で出すつもりだったんだけど・・・おかしいな?