朝と共に
――・・・・ぃちゃ・・・―――・き・・お・・・ん
聞き覚えのある声に呼ばれている。
だが体が応えない。
沼の中にいるみたいだ・・・。
―――ズドン‼
俺は腹にえぐりこまれた肘の衝撃で悶え起きることになった。
「いい加減に起きてね? お兄ちゃん?」
「・・・・・・今日はもう無理そうなんだが・・・?」
ベッドで蹲りながら背中越しに言うが、
「もうとっくに仕事の時間です。いい大人なら寝てないで働いてください」
歯牙にもかけない。
「・・・休みにできねぇ?」
「受付でいますよ~! って言っちゃったし無理かな?」
よくわからないがご指名の様子。
「体調不良とか・・・なんでもいいだろ・・・?」
「どうしてもお休みが欲しいなら、ギルドの始業時間より早くギルドを出て、完全に消息を絶たないと。ギルドにいる間はいつでも仕事中だからね?」
それは行方不明と何が違うんだ?
あまりにもな勤務形態に心底、先に詳しく聞いておくべきだった・・・と思わずにはいられなかった。
のろのろと起き上がると、
「それじゃ、私は受付に戻るから。早く降りて来てね?」
もう大丈夫。と思ったのかミリーが部屋から出る。
その前に、
「ちょっと待った。受付には誰が来てるんだ?」
朝も早くからやってきた客を聞く。
「二人組の駆け出しさん。教え子なんでしょ?」
小首をかしげながら言うが、二人組に覚えはない。
だが、
「あぁ。わかった。ありがとな」
パーティー組が分裂したってことはないだろう。流石に。
だから、礼を述べて引き留めていた受付を戻す。
にしても・・・昨日の今日で随分仲良くなったもんだな。と、思ったが違う。
そういえば全員が貴族学園出身だ。
それならソロ組二人も顔見知りで当然だし、一緒に来るってことは元から険悪な仲でもなかったんだろう。
貴族学園幼少部は1年は家柄や家格を見て、バランスよくなるよう男女で分ける。2年では男女で分けて、3年では1年時バラけた男女を入れ替えて全員と顔合わせするようになっている。
4、5、6年は大まかに実力順で1組に入れられていき、余りが2組になる。1クラス約30人で1学年に2クラス。
1組の方が優れている。とされているが、本当のところは家格の高低がおおいにかかわっているのは子供でも知っていた。
と、考えが逸れた。
昨夜は遅くまで作戦会議をしていたし、それでなくとも色々あったからな。
寝不足のせいで回らない頭を抱えながら、着替える。
なんの用かは知らないが、装備もつけて行くべきだろう。寝ぐせは・・・まぁ適当でいいか。あんまり待たせるのもなんだしな。
顔を洗うついでに、頭から水をかぶり、魔法で温風を起こして髪を乾かす。
貴族の身嗜みとしては微妙だが、冒険者ならこれでもいいだろう。という態にはなったので、待たせている相手のもとへ向かった。
「待たせたな?」
階段を降り、ドアを開けた先、近くの壁際で立っている二人に声をかける。
「そうですね。昨日はあれからまだ何かあったんでしょうか? でなければ遅れた理由をお聞きしたいのですが・・・」
「まぁ、色々な」
「やっぱりいきなり来たのはまずかったですかね? 確認を取った方がよかったですか?」
「そりゃぁ、出来るならそうした方がいいだろうよ。冒険者として、行き当たりばったり・・・なんてのは三流もいいとこだしな」
「そうですか。以後気を付けます」
そこにいたのは、やはりソロ組だった。
「それで・・・どうした? 昨日の今日で、なんの用だ?」
「いえ。昨日はあまり有意義とは言えない内容でしたので、別れ際にギルドマスターがおっしゃっていた通りに訪問させて頂いただけです」
リミアが言うには、ブロンソン教官が言っていた”分からないことや気になることがある時はギルドに来て、こいつに聞け!”というのを実行しただけらしい。
そして、俺の・・・というか、冒険者ギルド職員の勤務時間はギルド営業時間全て・・・なので、なるべくしてこうなったというか、こうなることも見越しておくべきだったんだろう。
「それはいいが、結局なにしに来たんだ?」
「当然、昨日の続きを」
「よろしくお願いします!」
早く! と書いている二人の顔を見ながら・・・今後、夜更かしはやめた方がいいかもしれないな、などと思いながら欠伸を一つ入れ、受付にことわってギルドを出た。