表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
205/945

side―とある傭兵1

 俺は北大陸からやってきた傭兵だ。

 向こうはもう駄目だ。

 モンスターの侵攻が激しいせいで、人間同士の戦場が無くなってしまった。


 モンスターと戦うなんて冗談じゃない。

 命が幾つあっても足りないに決まっている。

 あんなのは軍人にでも相手させていればいいのだ。

 そう思って、俺は大陸を飛び出した。



 こっちへ来てしばらくの間、俺は仕事の無さに驚いた。

 このガルドナットという国は商人が集まり、活気に溢れていると聞いていたからだ。

 だからこの国に来たというのに、俺には仕事がなかった。


 ただ、先程の噂は嘘ではなかった。

 行き交う人の数は多く、皆なにかを求めている。

 そのせいもあって、確かに活気はあふれていて、それに応えるように、商人は数えきれない程いる国だ。


 しかし、傭兵は求められていなかった。

 この地を治めているのは商人で、協力しているのは冒険者。

 誰もが横の繋がりで仕事を受け、そこに割り込めるような隙など無かった。



 気付けば俺は貧民街で生活してた。

 だが、苦しくはなかった。貧しくはあったけれど。


 なぜなら、生まれも育ちも貧民街だったからだ。

 むしろ、生まれ育った北大陸の貧民街と違って、寒さに震えないでいい分、快適でさえあった。

 今の同じ季節であっても、元の町でなら凍死の恐れがある程なのだから。


 ゴミ山に囲まれての生活は懐かしさすらあった。

 けれど、同時に落ちぶれていくのを肌で感じていた。

 この状況から抜け出そうと、傭兵になったはずだった。


 死体あさりだと嘲りを受けても、戦場に赴いては生き残り。

 稼いだ金で読み書きを学んだ。

 本を借り、知識を得て、一般的を目指した。

 それが・・・またこの場所に。


 俺は憂いた。

 なに者にも慣れないのか、と。



 そんな俺に。いや、俺達に。転機が訪れる。

 俺達を、傭兵を雇いたいという人物が現れたのだ。

 それを聞いたのは、いつの間にか絡むようになっていた同じ北大陸から来た傭兵の1人。

 普通なら疑わしい話に、俺は一も二もなく飛びついた。


 案内されたのはある商会の倉庫だった。

 そこには同じような事情を抱える傭兵達が、びっしりと空間を埋めていた。

 少し肌寒さを感じ出したこの時期には、珍しいほどの蒸し暑さが倉庫内にはあった。

 ひしめく傭兵達の前に、その人物が現れる。



 内容は非常に簡潔で、理解しやすい話だったと思う。

 曰く、全員には私の支配下になってもらう旨。

 曰く、命令に従わないもの、違反したものは解雇する旨。

 曰く、仕事内容に是非はなく、時には知らされずとも行動する旨。

 曰く、知り過ぎた者の離反は死を招く旨。


 要約すれば――私兵になり仕事を選ばず働け。出来なければクビ。一定期間後にやめようとすれば処分する。

 と、こんなところか。


 元から怪しいのは分かっていた。

 その上で殊更言われれば、どんなことをさせられるのかも大体分かった。

 それでも、ゴミ溜めのその日暮らしから抜け出したい気持ちが強かった。

 だから俺は従うことにした。


 なにをさせられるかまでは分からなくとも、やりたくないことは誰かに押し付ければいい。それくらいの考えで。

 俺はこの仕事を受けたのだ。



 意外にも、俺にはそれなりの地位が宛がわれた。

 理由は、読み書きができる傭兵が珍しかったからだと思う。

 もしかしたら、知能指数の問題だったかもしれないが、そうだったとしても、あまり違いはないか。

 雇われた傭兵達を見て、そう感じた。


 ほとんどが最低限の会話すら怪しい連中ばかりだった。

 命令についても。理解しているのか、していないのか。

 規定違反でクビになった奴も多くいた。


”市場で問題を起こしてはならない”

 それすら守れなかったのだ。


 全く嘆かわしい限りだ。雇い主はそう言って。

 俺を含めた数名に教育しろと命じた。

 その数名は俺と同じ役職か、俺より上の役職だった。

 全員で顔を合わせて、ため息をついたのを覚えている。



 それなりの月日が流れ、仕事にも慣れた。

 規定の徹底。各隊との連絡、連携。そして、亜人への指示出し。

 初めて聞かされたときにはなんでそんなことを、と思ったものだが、その効果が表れだしてからはそんな疑問も吹き飛んだ。


 人気も、評判も、仕事でさえも、自分達の手で作れるのか。と、感嘆の域だ。

 蔑まれ疎まれていたころとは打って変わり、すれ違う人々から、労いと感謝の声を掛けられるのだ。

 それは嬉しくもあり、恐ろしくもあった。

 いつまでもこんな日々が続けばいいと、思おうとも思えないのだ。

 いつか、全てがバレる日に怯えた。


 そして・・・化け物が現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ