待ちわびしモノ
倒れる獣人の隣に俺のしゃがむ。
呼吸も脈もあるが・・・かなり弱くなっている。
確かに。急いだほうがよさそうだ。
「じゃぁまぁ、俺が倒れたら後は頼む」
「任せろです!」
スイは力強く言ってくれ、
「出来れば勘弁願いたいんすけどねぇ?」
皮肉るように返すホウも、本気でそう思って言ってるわけじゃなさそうだ。
さて、後顧の憂いは頼もしい仲間に任せるとして。
俺は神経を研ぎ澄ませ、さっきから感じていた、いつぞやの感覚をより鋭敏にする。
全身に残る僅かな魔力。その搾りカスのような魔力を、今度は右手の拳に集める。
そうあの時と。忌々しきワンダーゴーレムと殴り合った時と同じように。
するとどうだ。
まさしく、あの時と同じ感覚が伝わってくる。
吸い寄せるような、引き寄せるような。そんな感触だ。
そうやって、繋がっているような感覚の先にあるのは罠だ。
至るところに配置されていた罠。
その使われずに設置だけされていた罠から、魔力が流れ込んでくる。
瞬く間に。空っぽだったはずの俺の魔力は溢れ、漲る。
問題はここからだ。
あの時は魔法の発動には失敗した。
失敗して、倒れた。
あの時繋がったのは移動用の転移門。使おうとしたのは魔力をそのまま打ち出す力技。
魔法とも呼べねぇような力技が悪かったのか。
魔力のすべてを込めたのが悪かったのか。
それとも、もっと別の理由があるのか。
いずれにせよ、これでなにかしらはわかるだろう。
「此の姿は正しく非ず、彼の雄姿こそ今に在るべし」
最盛の魔法。
ケイトが回想再現と呼んでいた魔法を唱える。
身体から魔力が抜け落ちる感覚があった。
倒れている獣人にも変化はない。
だが―――これは。
「ふぅううう・・・」
心の底から、腹の奥から、胸の中から、熱を逃がすように、大きく、長く、息を吐く。
「それで? どうなったんで? コイツはもう大丈夫なんすか?」
「あぁ。問題ねぇ。・・・問題ねぇよ」
倒れている獣人の見た目こそ変わらねぇが、魔法は間違いなく発動した。
目覚めさえすれば、自身の体の調子の良さにさぞ驚くことだろう。
だが。
だが、そんなことはどうでもいい‼
魔法が発動した‼
魔法が発動することで使った魔力。俺の全魔力量のうち約半分は消費されたが、それでもまだ、半分残ってる。
そして。
俺は倒れちゃいねぇ。
多少頭が沸騰しそうなぐらい興奮してて、視界の端に靄がかかっている気がするが、問題ねぇ‼
新しい魔力の回復法。
しかも、魔力酔いが起きねぇとなれば‼
俺の。長年の足枷だった魔力不足を解消出来る‼
そうすりゃぁ――‼
と、そこへ。
「こんなところで、いったいなにをしている?」
鼻の下に髭を蓄えた瘦身の長身男、ディーノが坂の上に佇んでいた。
前日のメンテを忘れていて執筆、投稿が遅れました
すみません