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仲間の覚悟

「それで! スイはなにをするです⁉」

 今か! まだか! と逸るスイに落ち着けと諭し、

「あくまで、どうしようもなくなったら・・・だからな」

 そう重ねて協調した上で説明していく。


「地形の不利はわかってると思う。だから魔法を使わなかったんだろ?」

「そうです! ここではスイの魔法が使えないです! いえ、使おうと思ったら使えるですけど!」

「俺達に被害が出る」

「その通りです! 水も岩も危ないです‼ 跳ね返るです‼」

「そうだ。それは後ろから来た連中相手にも同じことが言える」


 ここは窪地だ。

 高い位置に水を出せば流れ込み、岩を出せば転がり落ちてくる。

 この中にそれを防げるだろう魔法使いはスイだけだ。

 そのスイが攻撃の魔法を使ってそんな事態を引き起こせば・・・防ぐのは不可能と言ってもいい。


「だが、あらかじめ対策さえしかっりしてりゃ・・・被害は防げる」

「どういうことです?」

「先に壁を作るんだ。水が流れて来ても問題ないように高い壁をな」


 そう。問題は高低の差でものが押し寄せてくること。

 だから、そうならないように先に受け入れ皿を用意する。

 坂の下に壁を作ることで、上に陣取った連中を水で流しても被害が出ないようにする。

 流れの勢いで決壊しないように分厚く、それでいて水が溢れてこぼれないような高い壁を。


「なるほど・・・」

 スイは真剣な面持ちでうんうんと頷きながら、脳内でシミュレーションしているようだ。

「でも、それって危なくないです?」

 そうして、はじき出された結論に俺はドキリとさせられる。


「あぁ。その通りだ。成功しても、失敗しても、死人が出るだろう。だから、どうしようもなくなった時ようの、最終手段だ。俺がどうにか出来そうなら、俺がどうにかする。試してみねぇとわからねぇこともあるしな」

 スイの言う通り、この作戦とも呼べないような策はあまりにも危険だ。


 想定を失敗して強度が不足していれば、壁は決壊し被害は甚大なものになる。

 その被害をこうむるのは俺達だけでなく、俺達の後ろにいる亜人と。なにより、依頼人であるサンパダだ。

 逆に成功したとしても、水に押し流されて壁に叩きつけられる傭兵共の中には、死人が出てもおかしくはない。


 いや、おそらく結構な確率でそうなる。

 壁越しの魔法だ。視界にさえ頼れねぇ以上、手加減は出来ねぇ。

 想像するまでもなく、水の量は相当なもんになるはずだ。


 出来るなら、そんな役割を任せたくはねぇ。

 年端も行かない子供にやらせることじゃない。

 いいや。それ以上に、覚悟もなしに殺しをやらせたくなんざねぇんだ。

 だが・・・・・・。


「失礼なことを考えてる気がするです‼」

 歯切れの悪い俺に、スイが大きく声を上げる。


「もしかして! 失敗すると思ってるです⁉」

「いや、そうは思ってねぇよ・・・」

「じゃあ‼ 本当は任せたくないと思ってるですね‼」

 見事に言い当てられた。

「それは最初から出来ないと決めつけられるより心外です‼」

 言い当てられて、言葉が出ない俺にスイが憤慨する。


「なにが不満です⁉」

「不満とかじゃなくてな――」

「じゃぁ不安ですか⁉ 危ないから⁉ 人が死ぬかもしれないからです⁉」

 顔を真っ赤にして見上げるスイ。

「そりゃあスイだって怖いです‼ モンスターと戦ったことはあっても、人と戦ったことなんてほとんどないです! 殺したことなんて、一回だってないです‼」

 そう言うスイの手は震えていた。


 当たり前だ。

 怖くないわけがねぇんだ。


 一つの命を終わらせる。それはモンスター相手にだって難しいのに、ましてや同じ人間なんざ・・・。

 普通に生きてりゃそんな事態にはならねぇし、なったとしても、それが出来るのはよっぽど肝の据わった奴だけだ。

 それ以外のほとんどは環境や状況に迫られて覚悟を決めるんだ。


「でも‼ 仲間の為にって思うから‼ 頼ってくれるならって思うから‼ 他のなにより大切だって思うから‼ 仲間って、そうじゃないんです⁉」


 それを俺は・・・甘く見ていた。

 子供だからと。

 殺すための覚悟をじゃない。仲間の為に戦う覚悟をだ。


 両手の拳を強く握り締め、力説するスイの目からぽろぽろと雫がこぼれる。

 仲間を思い、出来るけど我慢して、それでもなにかと探し、なのに見つからなくて、やっと自分の出番かと期待してみれば、子供だからと蔑ろにされる。

 泣いて然るべきことを俺はやったんだ。


 いつからだ?

 いつから俺はこれほど臆病になった?


「・・・・・・悪い。お前の言う通りだ。すまない」

 スイはぐしぐしと目元を擦りながら、

「いいです。許してあげるです」

 笑って答え・・・さらに、

「でも、もし本当にスイに任せるのが不安なら、スイにそんなことさせないくらいの格好いいところを見せて欲しいです! 試したいことがあるですよね?」

 俺を気遣ってそんなことまで。

 俺なんかよりよっぽど、仲間って言葉の意味を知ってやがる。


「あの~・・・なにやら取り込み中すみませんけどねぇ? 早いとこどうにかしねぇと、コイツ死んじまいますよ?」


 俺の罪悪感など知ったことかと、もう1人の仲間思いが俺に言う。

 うちの仲間をなに泣かせてくれてんだ、と。

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