すれ違うものばかり
言ってる事の意味がさっぱり分からねぇ。
2度と、だとか。
約束が、とか。
仕舞いには―またも、と来たか。
当然。そんなことに覚えはねぇ。今までにこいつらと出会った記憶なんざねぇからな。
明らかに噛み合わない話。
なにかを誤解しているのは間違いねぇんだが・・・一体なにを?
そう思って、いや。たぶん俺は助けを求めてサンパダの方を見たんだ。
最年長であり、商人として長く交渉に携わり、なにより鑑定のスキルを持っているからだ。
鑑定のスキルは人に使えば嘘を見抜ける。
もっといえば、感情すら見透かすことが出来るはず。
むしろ演技であってほしいと、そう思って馬車を向く。
開け放ったままにしておいた御者台の狭い小窓からサンパダの顔が見える。
サンパダもこちらの視線に気付き、そして事前に話し合っていた時の事を思い出したんだろう。
一度首を振ってから頷いた。
演技ではない。言っていることは本当だ。というサインだ。
だったら、なにが?
その答えは俺の目の前にあった。
――そう。
「俺達はあの傭兵共とは関係ねぇよ‼‼‼」
心の底から湧きあがった言葉を吐き出した。
思ったよりもよほどデカい声だったせいか全員の視線が集まり、にもかかわらず辺りはシンと静まり返る。
獣人の男の言葉から、少し間が空いての俺の慟哭。
周りの連中の中にも、理解できてしまう奴が出てくる。
俺は舌打ち交じりに深呼吸。
息を吐き、吐き尽くし、集中する。
深く息を吸うと同時。なけなしの魔力をつぎ込んで周囲を探る。
周りには人の気配が多数。それと罠だ。これは初めからわかってる。
問題は、馬車の中にある通信の魔道具と同じような気配があるかどうかだ。
洞窟の奥底まで入念に浚う。
だが、
「・・・ふざけやがって」
魔道具の気配や反応はあれど、同じあるいは似たようなものを見つけることは出来なかった。
つまり俺達は全く無駄なことをしてたってわけだ。
その上、今にも死にそうな怪我人まで・・・。
「な・・・なにがふざけてなど――ッ‼」
「――うるせぇ。黙ってろ」
元はと言えばこいつが話を聞いてれば・・・。
蔑みを隠さず睨み付けてやったら男は黙った。
ざわつく周りは放っておいて、すぐにサン達・蒸気の騎乗者を集める。
「どういうことだ?」
サンは事情が呑み込めていないらしい。
「端的に言えばあいつらは敵じゃなかった。問答無用で襲ってきたのは、そうすると事前に決めてたからだ」
「決めていた? どうしてだ?」
「カイオール商会にいい様に使われるのがいやになったんだろう。それで、奮起することを決めた」
「そこへ私達が来た」
「・・・らしい」
「そんなことが本当に・・・?」
「そう言いたくなるのはわかるが、あったんだから仕方がねぇ」
「それはいいんすけど・・・こいつはどうするんで?」
未だしゃがみ込んで怪我人の手当てをしているホウが聞く。
「俺がどうにかするさ」
もう魔力は残ってねぇが回復すれば魔法は使える。そうすりゃ怪我人ぐらいどうにでもなる。
だがその場合、ほぼ確実に中毒症状、いわゆる魔力酔いが発生して俺は寝込むことになるんだが・・・。
かといって、見捨てるわけにもいかねぇ。
死人どころか、怪我人が出ただけで折れる程度の半端な覚悟とはいえ、現状を変えるために意を決して行動に出た結果で犠牲になった奴を笑うなんざ出来ねぇからな。
本来なら称賛するところなんだが・・・なんともタイミングの悪い。
「どうにかって・・・」
「俺は再生魔法も使えるんだよ」
「でも魔力がもうねぇんすよね?」
「あぁ。だから魔法を使った後は・・・情けねぇ話だが、倒れるだろうな」
「倒れるって、そんなに魔力酔いがひどいんで?」
「いや、寝るんだよ。酒に酔っても同じようになる。もうそういう体質なんだろう」
「ああ・・・そういう。って、それでもやばいでしょうよ⁉ カイオール商会が大群率いてやってくるんでしょう⁉」
「たぶんな」
「どうするんすか⁉ まさか俺達だけに戦わせるつもりで⁉」
「一応、そうはならねぇように試してみるつもりだが、どうにもならなかった時には・・・スイ。お前に任せることになる」
「スイの出番です⁉⁉」
張り切り、目を輝かせるスイに俺は。
本当に頼ってもいいものか・・・と一抹の不安を抱えることになった。