なにをするか
「それで? いったいなにを手伝えばいい?」
どこから説明したものか・・・それとも気にせず根本から投げるか・・・
知りたい情報は冒険者ギルドにかけられている圧力の出どころと、その理由。だが、ギルドマスターの調べでは裏で政治屋が動いているということだ。それならそこから調べても・・・。
いや、
「ここ数年、冒険者ギルドに圧力がかかってるらしい」
「冒険者ギルドに?」
「あぁ。その結果、職員が逃げるって実害が出てる」
「その出どころを調べるのか?」
驚くベルが聞くが、そうじゃない。
「いや。その辺はギルドマスターが調べたらしい。引っ掛かったのは政治屋だ」
「政治屋・・・なんでまた・・・?」
「さぁな。だが、気味が悪いだろ?」
「確かに、な。その政治屋を調べればいいんだな?」
何かに納得したように言うが、そうでもない。
「いーや。そいつを使ってるのが十中八九どこぞのお貴族様らしくてな」
「まったく・・・それなら最初からその貴族がどこの貴族か調べてくれって言えばいいだろう」
呆れた、と聞こえてくるが、まだ早い。
「残念ハズレだ」
「なに?」
怪訝な表情とはまさに、というベルに、
「全部だ」
俺は要求する。
「は?」
ある程度予想していたが、時が止まったのに気付いたような顔で、しかしその実、自身が止まっている悪友に告げる。
「どこの貴族が、誰を使って、なにをやったか・・・。全部、調べてくれ」
静止から数秒。
「―――おっ前なあ‼‼ 言うに事欠いて全部だと⁉ 普通どれか一つじゃないのか‼」
「一つぐらいなら俺でも調べられるだろ?」
「調べてから言ったらどうだ⁉ 人の苦労というものを考えているのか‼」
「外交長官のコネなら言うほど苦労はしねぇだろう」
土石流のような勢いだった言葉が止まる。
「・・・・・・本気か?」
外交長官はベルザフォンの父、ノクァッド侯爵のことだ。
そして、そのコネということはつまり、家の力を使ってでも調べろ。そう言ったに等しい。
「本気だよ。考えてみろ。冒険者ギルドに喧嘩を売る理由を」
冒険者ギルドに喧嘩を売る。
冒険者一個人ならば、喧嘩なんぞはよくあることだ。誰も気には留めないだろう。
だが、ギルドを相手取るとなれば、その意味は一変する。
冒険者ギルドなんてのは、元はこの国には存在しなかった。はるか昔に、悠然と佇む霊峰の向こう側からやってきたものだ。
初めはなかったもの、なくてもいいもの。それが次第に、あれば便利なもの、あると助かるものになり、あるべきもの、なくてはならないものにまで至ったのだ。
今の・・・皇都に限らず冒険者ギルドの支部が置かれている場所では、冒険者がいなければ立ち行かないというところまで、来てしまっている。
モンスターの間引き、民の小さな要望、拠点の防衛。冒険者が担っているこれらを失えば、小さな町なら滅びるだろう。
皇都に限っても、街中に増やした兵士が余っていても、冒険者ギルドがなくなれば、都外の警備や隊商の護衛までは手が回らない。
なにより、もしそんなことになろうものなら、冒険者も民も黙っちゃいない。すぐにでも奮起し、暴動が起こる可能性が高い。
そうなった場合、皇都にいる国軍兵だけでは止められないだろうし、それを聞きつけた冒険者が押し寄せれば、それに対抗するためにさらに兵を集めることになる。
そこまでくれば、もはや内乱だ。
そうなれば、この機に乗じて・・・と考えるものがいる。
本来ならば起こりえない仮説。
「・・・・・・戦争が起こる? まさか」
だが、今の皇都の雰囲気がありえないとは言わせない。
そして、それがわからない悪友ではない。
「言いたいことは分かった。けど、どうする? そっちに時間をさけるほど、今のオレは自由じゃないぞ・・・」
「街のことは任せろ。派手にやればしばらくは黙るだろ?」
自信ありげに言い放つが、
「なにをする気だ?」
「なにをしようか?」
特に策があるわけではない。
しばしの無音を挟んで、笑い合う。
その顔は当時の学園関係者が見れば、どうしようもない悪童たちが、またくだらないことを企んでるぞ! と警戒したことだろう。