胸中など知らず
すっかり闇一色に染まった森を俺達は突き進む。
馬車を下りて、馬車を囲むように、馬車を引いて、安全を確保しながら先へ進む。
サンが先頭を務め、ホウが馬の手綱を預かり、俺が殿だ。残りは左右の警戒にあたる。
馬車の中にはサンパダが一人。
流石に、碌に前も見えないような夜の森へ素人を連れ出すわけにはいかないからだ。
くどいほどの足止めを超えて、踏み込んだ森には大量の罠が設置されていた。
だが、拠点らしき場所へと続く道の中には設置されていない道があり、俺達はそれを選ぶことで印の場所へと、無事にたどり着く。
罠を避けられたのは罠の位置が俺にはなぜか、やけにはっきりとわかったからだ。
元々魔力を帯びているものである以上、察知自体は難しくないんだが、それにしても手に取るように分かったのは・・・・・・それほど、ぎっちり魔力を込めていたりするからだろうか?
いや、それほどの存在感を感じたりはしないんだが・・・。
まぁいい。
印があった場所には洞窟のような横穴があった。
その入り口には松明が設置されてるし、おそらく拠点で間違いねぇ。
周りの地形は・・・多少厄介だな。
洞窟がある場所は一面が壁。しかもそれなりに高さもある。
入り口手前の木は伐採されたのか、少しばかりだが見晴らしがいい。
それでいて、窪地だ。
俺達は今、見下ろす形で洞窟を捉えている。
今いる位置から下り坂になっていて、洞窟前に狭い平地があるだけ。その平地にすら木々が生えていて、罠もしっかり設置されてる。
開けている場所の広さはといえば、馬車が2台置けるかどうかという程度の範囲。
背後から追手が来た場合、逃げることは困難を極めるだろう。
つっても・・・――、
サンと目が合う。
引き下がる謂れはねぇ。
俺が一つ頷くと、サンが下る。
そろそろと長い坂を下り終え、さぁどうだというところで声が上がる。
「止まれ‼」
野太い声に松明の火が震える。
「いったい・・・何の用だ‼」
暗い洞窟の中から現れたのは予想通り、亜人だった。
体格は並。頭に耳。尖った犬歯。
それこそ、どこにでもいる獣人種だ。
「・・・こんなところで、なにをしているんですか・・・?」
サンはずっと考えていたであろう台詞を、戸惑いながらも口にする。
目の前のことを信じきれてねぇっつーか、本当にこんなことが! みたいな驚きが隠せてねぇ。
しかも、
「お前たちになんの関係がある‼⁉」
亜人共は聞く耳持たず。
洞窟奥からぞろぞろ現れる。
全員が手に武器を持ち、周りに隠れていた連中も敵意を見せ始める。
最悪だな。
「構えろ!」
「待ってくれ‼ まだ話が・・・⁉」
「そいつは無理だ。諦めろ‼」
「どうしてそんなことが―――ッ⁉」
「――わかれよ。俺達は傭兵共の馬車を奪ってきたんだぜ? 話を聞く気がねぇってことは、俺達のことを知ってるってことだ」
つまり、傭兵共と亜人共はグルだったってこった。
先だっての足止めも全部、連中の指示だったと考えた方が納得がいく。
当然、時間をかければ確実に後ろを取られる。
こんな地形でそうなれば・・・上に形成された陣地を崩すのは難しく、周りには亜人。
傭兵共がどれだけ弱かろうが、そこまでの差になっちまえば、ひっくり返せるかどうか。
「くっ・・・‼」
とサンは苦い顔で、それでも構える。
俺の考えてることが理解できたんだろう。
つられるように蒸気の騎乗者が戦闘態勢を取る。
視界が悪い中、気配は多く。
だが、馬車には傷一つ付けさせるわけにはいかねぇ。
迅速に制圧し、歓待の準備をしておくとしようじゃねぇか。
こんな、くだらねぇことを企んでくれた奴になぁ‼




