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なにがしたい?

「で? お前らは結局・・・なにがしてぇんだよ?」

 あんまりにも気になって、まんま聞いちまった。


 俺の予想では、俺が話し出すタイミングで襲い掛かってくる予定だったんだ。それぐらいには追い込んだと思っていた。

 そこから、習性の話から入って、行動原理に触れつつ、癖や反射を引き出して、そこを崩すことで有利を取る。

 そういう制圧術を披露、解説するつもりだった。


 にもかかわらず、こいつらが一向に動かねぇ。

 拳を開いて、両手を広げて、視線を外しても尚、微動だにしない。

 気付けばもう息がかかる程真近くまで来ちまった。


 そうまでして、なにを待ってやがる?

 後続の仲間か?

 残念だが、そいつらの気配は微塵もないぞ?


 わざわざ真ん中先頭に居たリーダー格っぽい奴の前に来たってのに。

 いい加減、動いたらどうなんだ?

 そう思いを込めて瞳を凝視する。

 揺れる動向など気にせず、一点だけを眺め続ける。


 どれぐらいたったか。

 たぶん数秒なんだろうが。

「ぁぁあああああああああ‼‼」

 早まる浅い呼吸から矢継ぎ早に叫びをあげ、目の前の傭兵が手に持っていた短刀を突き出す。

 やっとか。


「余裕がねぇ相手の行動は読みやすい。なにしろ余裕がねぇからな。選択の余地が少ないんだ」

 狙いは心臓だ。

 腰のあたりから突き上げるように腕を伸ばす。

「こういう場合は反射的に慣れた動きが出る。癖って奴だ。刃渡りの短い武器なら突き、振り切り、引き裂き。狙い急所。もっと言やぁ首か心臓だ」

 俺はそれに右手を上から被せ、押し込む形で左脇の下に短刀を吸い込み、左腕で脇を締めて刃を固定。さらに相手の腕を取る。


 その傭兵の叫びを合図にして、横並びに広がっていた他の連中も動き出した。

「「うぉおおおおお‼」」

 左右から槍と片手剣が勢いよく飛び出してくる。

 面倒なのは槍だな。

「複数を同時に相手するのは得策じゃぁない。可能な限り分断してやれ。よっぽどじゃなけりゃ仲間を使えばどうにかなる」


 短刀を持った傭兵を掴んだまま左を向き、腹を蹴り飛ばす。

 蹴られた傭兵はそのまま後ろへ。固く握り締めていたはずの短刀はすっぽ抜けるようにして取り残される。緊張で体が硬直していたんだろう。

 槍を持った傭兵は不意の仲間の登場に戸惑う。

 構えた槍を引いて仲間に刺さらないように、突撃の勢いも衝突前には殺していた。


 脇に挟まった短刀を右手で握って振り返る。

 片手剣を振り上げたまま必死の形相で声を張る。

 そこまでしねぇと動けねぇなら逃げてりゃ良かったんじゃねぇか、と思うのは野暮だろうか?

 手に取った短刀を見る。刃渡りは20㎝ちょっとか。普段俺が使ってるナイフよりは少々長いが、問題はねぇ。


「受ける時はキッチリ止めろ。変化をつけてくる相手もいるからな。動きを止めてから反撃だ」

 袈裟気味の振り下ろし。片手剣の剣先に切っ先を下げた短刀の根本を当てて止める。そして、手首を返し、鎬を刃の下で滑らせ詰める。

 片手剣なら詰める距離は一歩だ。

 鍔元まで滑らせた後は鍔に引っ掛からないように軽く弾き上げ、ついでとばかりに短刀を振り切り下ろす。


「ぎゃ‼」

 剣を持った腕を引き裂かれて短い悲鳴を上げた傭兵が武器を取り落とす。

「攻撃の隙は一瞬でいい。離れ際を狙うのがベストだ。弾くなり引き落とすなりで体勢を崩して武器を奪え! 武器が使えなくなりゃ、ほとんど無力化したのと同じだからな。ただ、油断はするなよ? 自爆覚悟で拘束してくる奴もいるぞ!」

 痛がる傭兵にハイキックをくれている間に槍が帰ってくる。


「はああああぁぁぁあああああ‼‼‼」

 連続した突きを間断なく繰り出す槍使いの傭兵。

 右に左に、上に下に。胴体と足元を狙ったいいコンビネーションだ。動き自体も存外悪くない。


 本当は足元への攻撃は靴というか脛当てというかにワンダーゴーレムの素材を使っているから無視してもいいんだが、

「困った時には相手の様子をよく見ろ。表情や息遣いを観察しろ。そこから情報を探せ! 余裕があるか、狙いがあるか、それとも・・・なんにもねぇのか」

 槍を振り回す傭兵の顔は精一杯といった表情だ。


 余裕はなく、狙いもない。ただがむしゃらになって身体を動かしているんだろう。

 放っておいてもそのうち息切れして崩れるだろうが・・・。

「分かったら試せ。そこで起きる変化こそが最大の情報だ。見逃さずに狙い続けろ! それが敵を追い込む鍵だ! 余裕のない奴の動きは単調になる。狙いのない奴の動きは自信を持ってるものだけになる。パターンに気付いたら、割り込んで崩せ‼」


 右突き、左突き、縦斬り下ろし、下横払い、下突き、刃を返して切り上げ。ここまでが一連の動きだ。終わると腕を引いて右突きから再開。

 左、右、一歩下がって、足を上げ――ここだ‼

 足元への突きに合わせて足を下ろす! 穂先を地面に突き刺すように、けら首を踏みぬく。


 槍を持っていた傭兵が驚き、顔を上げるがもう遅い。

 刃を上に逆手に持った短刀を投げる。


「ぐ、ああああああああ⁉⁉」

 それほど遠い距離でもない。狙い通り短刀は肩口に突き刺さった。

 この傭兵はこう考えていたはずだ。


 魔法を使ってこないのならば、槍のリーチがあれば踏み込まれても捌いて下がれる、と。

 自分が槍を振り続ける限り、傷付くことはないだろう、と。


 だが、

「考えが読めれば予想外のことは簡単に起こせる。有利は一瞬で覆る。単調な動きがどれぐらい危険なのか理解しろ! 考えを悟らせるな! 余裕ってのは隙をさらすことじゃねぇぞ‼」

 そういう甘い考えこそ、身を亡ぼすことになるんだ。

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