side―タン
そこには私の理想があった。
全てが計算の上で描かれた芸術的なまでの一太刀。
牽制、抑制、制御、制圧。
まるで・・・初めからそうなることが決まっていたかのような。
一糸乱れぬ集団演目にさえ見えた。
知識だけではなく経験と実感を持って、思い描いた景色をそのまま投影した一振り。
その極地までにどれだけの時間をかけたのだろう?
あの人と私にはどれ程の差がある?
年齢で言えば10しか違わないはず。
なのに・・・この差は?
どうしても、同じ人間だと思えない瞬間がある。
私も。
生まれは大きな貴族の家だ。
あの人は私同様魔力に恵まれなかった。
同じ歳の頃に同じく2人で冒険者になった。
なぜ、これ程までに違う?
ギフトの差か?
いいや。それならもっとギフトについての噂があるはずだ。
ならば―――才能?
そうであるなら、私は・・・・・・。
愕然としていた私を見たのだろう。
この場を掌握していたゼネスさんがこっちを見て、笑いながら言う。
「なに考えてんだか知らねぇが、こんなのは慣れだ。場数を踏めば誰にだって出来るようになる。それこそ、モンスター相手でもな」
嘘をついているようには見えなかった。
だから、つい口をついて出てしまった。
「どうやって・・・?」
私にはそんな未来が想像できない。
己の身体すら満足に支配できないのに、敵まで管理するなんて・・・。
そう思っていた。
けど、答えはあまりにも単純だった。
「息を合わせるんだよ。味方とやるようにな」
「息を・・・?」
どういうことだろう? それが素直な感想だった。
仲間との連携にだって合図はある。
あらかじめ決めておくものだ。
それが作戦のはず。
なのに。
「ずっと一緒に行動していればな。次第にわかってくるんだよ。今なにがしたいか、次にどうしたいかってのがな。それが息だ。行動に出るぞ! っつー意思だ。当然、それは敵にもあるし、モンスターにだってある。誰だって、考えて、考えて、覚悟して動くんだ。そういう決意はどこかしらに現れる」
ゼネスさんは話を続けつつ、切っ先を引きずりガリガリと音を立てながら、最後に残った傭兵に近寄る。
「分かりやすいのは表情だ。自分や仲間の戦力を知っていれば、敵の戦力も分かるだろう? 強いか、弱いか、敵うか、敵わねぇか・・・生き残れるか、生き残れねぇか」
ナイフを持つ傭兵の顔には恐怖と絶望が張り付いている。
もはや、構えを取ることすら敵わない。
手足は震え、重心は後ろに、今にも倒れそうだ。
「恐怖も、絶望も。表面的なもんでしかねぇんだよ。手が震えるのも、腰が抜けそうなのも、覚悟がねぇからだ。決心がつかねぇからだ。立ち向かうか、逃げ延びるか、あるいは・・・」
私ではなく、傭兵に語りかけるように。
お前はいったいどうするんだ? と問いかけるように。
あれでは挑発だ。
唇を巻き込み噛みしめる傭兵の顔がいやに目に付く。
身体は震えたまま。けれど、それは恐怖ではなく憤怒。
及び腰は喧嘩腰になり――。
「分かったか? 要は、引き出してやりゃいいんだよ。行動する理由を」
無謀にも正面から飛び掛かろうとした傭兵は、あらかじめ置かれていた切っ先に突き刺さり蹲った。
「で、どうやればいいかは経験だ。場数を踏めばそのうち気付く。目が変わる瞬間にな。そして、そういうのはモンスターの方がわかりやすい。だから、冒険者を続けていれば同じようなことは出来るようになる。悩むようなことじゃねぇよ」