乗り込み準備
「それで・・・頼みがあるんだが」
「頼み、ですか? えぇ、構いませんよ?」
「助かる。カイオール商会について、なんだが。なにか知らないか?」
「なにか・・・とは、なんでしょうか?」
少々質問が抽象的すぎたか。
「傭兵共を集めてるのがそのカイオール商会らしくてな。そこのトップがどういう人間か、多少なりともわからねぇかと思ったんだ」
「そういうことでしたか。それにしても変わったことをしますね? なぜわざわざ傭兵を・・・」
「俺もそれが気になった。表向きは奴隷狩りに対抗するためのようだが、だとしても、冒険者で事足りるはずなんだが・・・」
「そうですよね・・・。一応、私がカイオール商会について知っていることと言えば、貿易商であること。長い歴史があるわけではないこと。良くない噂があること。それと――」
その辺りは俺も聞いて知っている。
同じ商人でも、付き合いがなければそんなものか。
だとすれば・・・ちょっと手こずるかもな。
「――商会頭が元貴族であること。くらいでしょうか」
「はぁ⁉ 貴族⁉」
「えぇ。元、ですけどね」
「どこの貴族だ⁉」
「ガルバリオの。ですけど・・・?」
「うちの⁉」
流石に予想外だ。
元貴族が現商人? ないとは言わねぇが・・・珍しいにも程がある。
「はい。借金があってそれが原因だったとか、王宮で無礼があったとか、色々と噂がありますが・・・その辺りはゼネス様の方がお詳しいのでは?」
「って、言われてもな」
そんな話、聞いたこともねぇ。
ただ、少なくとも。その2つの理由で爵位剥奪の上、放逐はありえねぇ。
借金は理由にもよるかも知れないが、まともな貴族だったなら皇王様がどうにかするはず。
ガルバリオは金に困ってる国じゃない。国に貢献してきた貴族にであればそれぐらいはあるだろう。現皇王様はそういうお方だ。
無礼に関しては放逐なんかで許されるはずがねぇ。
爵位を剥奪される程のことを仕出かしたのなら、そのまま一族郎党まとめて死刑にでもなってるだろう。
しかも、ここ数年でのし上がった商会って話だからな。だとすれば、放逐もその頃の話で・・・調べりゃなにか分かるかもしれねぇが、今はガルドナット。便利な友人がいるわけでもねぇ。
だがこれで、カイオール商会がなにかを企んでるってのは確定だ。
爵位剥奪の上で放逐ってことは、政治犯だろうからな。
「顔を見ればわかるか・・・? いや、その手の集まりには、ほとんど出たことねぇからわかんねぇか。どっちにしろ、直接会えばなにか分かるかもしれねぇが・・・」
「会ってみますか?」
考えていることが口から出ていたか。
サンパダがそんな提案をする。
「・・・会えるのか?」
「そこまではなんとも。ですが、連絡すれば挨拶に行くことくらいは出来るでしょう。元々、明日は大商会へ挨拶に行く予定でしたから。カイオール商会もギリギリ大商会と言える規模にありますからね。それにもし、なにかを企んでいるとするならば・・・」
巣にこもってる可能性は高い。
「でもいいのか? ここに商会を持ちたいんだろ? 面倒なことになると思うが・・・」
「なぁに、構いませんよ! 私も、やりたいことをやるだけです! なにより、ゼネス様に恩を売る方が儲かるかもしれませんからなぁ!」
がっはっは! と笑う豪胆な姿にはその実、虚勢が見え隠れしている。
本当に俺に賭けているのか、あるいは貸し借りの精神か。
だが、
「損はさせねぇさ。たぶん、な」
仲間の為に、使えるもんは使わせてもらう。
その上で利益も出せばいい。
後悔だけさせるなんてことには、ならねぇはずだ。




