面倒は見ない
「俺にはなにかないのか?」
隣で同じく剣を振っていたサンがタンと入れ替わりで来る。
「お前は真面目にやれ」
「やってるよ‼ というか、不真面目に見えたのか・・・?」
「アレに比べりゃぁな」
剣を振っては一時的に動きを止め、瞼を閉じて数秒。また同じように剣を振る。
そんなタンの一心不乱な鍛錬を顎で指す。
「まぁ、そうかもしれないけど。そうじゃなくて‼ その・・・ほら! アドバイスというかさ‼」
「んなこと言われてもな・・・」
サンの動きはそもそもがよくない。
タンと比べるのもなんだが・・・よく言えば実戦的。悪く言うなら、
「基礎がなってねぇ。もっと自分の動きに集中しろ」
精度がない、と言えばいいか。
「自分の動きに・・・?」
「お前は同じ振りでも軌道が毎回バラバラで、最後の腕を止める位置すら曖昧だ。手の返しも、その時の角度さえ気分で変わってる。アドバイスとか、それ以前の問題だ」
安定感の欠片もねぇ。
そんな状態で自己流なんてやりだしたら、もう終わりだ。
「まずは基礎をきっちりやる。話はそれからだ」
これでパーティーのリーダーってんだからな・・・・・・どっかジェイドに通じるもんがあるな。
「いやでも、基礎って・・・そんなのどうすれば・・・」
確かに。本来ならどこぞでしっかり教えてもらうもんだが、
「手本ならあるだろ」
俺は再度、悩みながらも止まらない人物を指す。
サンの武器は片手半剣。
片手でも両手でも扱えるバスタードソード。
タンの両手剣とはまた少し違うが、それでも意味はあるだろう。
「何年の付き合いかは知らねぇが、今まで一緒にやってきたんなら鍛錬ぐらい何回も見て来ただろ? よぉく思い出して真似してみろ。どうしても納得いかねぇなら本人に聞きゃいいしな」
「本人にって・・・付き合いは確かに長いけど、その・・・自分の鍛錬があるだろうし、やっぱり迷惑だろう? だから・・・」
「おいタン‼」
ここで俺に基礎を教えて欲しいなんて言われたら面倒が過ぎる。
なにより、そんな数日で教え込めるなら道場なんて流行らねぇだろう。
そう思ってさっさとタンに声をかけた。
「なに?」
「サンに剣の基礎を教えてやれ」
「いまさら?」
「うっ⁉ そうだよな。いや、やっぱり・・・」
「別に構わない。むしろ、私は何度もそういっていた。だから、なんで今なのか・・・と思ったくらい」
そう言ってタンが俺の方を見るが、別になんにもしちゃいねぇ。
「それはその・・・」
「でも、やる気になったならいい」
さぁ、早く! とサンの手を引く顔は少し嬉しそうで。
まぁ、自分より弱いリーダーじゃ不安にもなるよな。
それが解消とまではいかなくても、やる気になれば嬉しいもんか。
面倒の回避に成功した俺はそんな2人を見送りつつ、スイの隣に座る。
「あの2人をくっつけるとは・・・流石です!」
「狙ってやったわけじゃねぇけどな?」
「じゃあ、もっとすごいです!」
「そういうもんか?」
「そういうもんです!」
胸の前に拳を握り力説するスイを見ると本当にそんな気がしてくるのは、どうしてだろうな?
にしても、
「あいつらってどういう関係なんだ?」
「幼馴染らしいです、よ?」
「あれで?」
「です!」
遠目に見る2人は、タンの指摘をサンが理解できておらず、
『どうしてそんなことがわからない?』
『もっとわかるように言ってくれよ‼』
と、さっきから喧嘩のようになっていて、失敗だったも知れねぇとさえ思っているんだが?
「長いこと同じ時間を過ごせば、もうちょっと・・・言葉じゃない、感覚でも伝わるようになると思うんだけどな?」
「あの2人は真逆なんです」
そう言われれば・・・・・・。
「もしかして、あいつら魔法も・・・?」
「です! リーダーは魔法得意ですけど、タンは・・・」
なるほどな。
そこまで食い違うってのも珍しい気がするな。
いや、そいつらが同じパーティーにいるってのが珍しいのか。
「でも、スイはあの2人。お似合いだと思うです! だって・・・」
「「ゼネスさん‼ 交代‼」」
ほらね? という顔をしたスイが、
「お断りです‼ 今はスイの番です‼」
と2人を追い返した。