サイレン
「どこに行くんです?」
はぐれないように手を繋いで歩いているスイが顔を上げて聞く。
「冒険者ギルドだ」
「ギルド・・・? どうしてです?」
「たぶん、一番話が早いからだ」
独立国家ガルドナットは非王政の国だ。
だからだろう。貴族だのと言う身分は見向きもされず、むしろ煙たがられる傾向にある。
逆に、どこに所属する人間なのか。その身分さえしっかりしていれば、ある程度の敬意をもって接してもらえる。なんとか商会の商人だとか、どこの国の軍人だとかな。
そして、その中にも区分があり・・・例えば。ガルドナットに商会本部を置く大商会の会長ともなれば、どこぞの王族のように扱われる。
では、冒険者は?
ガルバリオ皇国では大して良くは見られず、むしろ蔑まれる事さえある冒険はどうかといえば・・・実はこれが中々に悪く無ねぇ。
それには理由がある。
ガルドナットという国は非王政であるため、正規の国軍というものが存在しない。
あるのは民間の傭兵団みてぇな武装組織だけ。
当然、実績のあるところならまだしも、中にはならず者の寄せ集めのようなものもあり、問題を起こす側になっている事すら間々あることだそうだ。
だから、依頼があればなんでもこなし、それらをも取り締まってくれる冒険者という存在は、ガルドナットにおいて重要な位置にある。
つまり、
「こっちの冒険者ギルドに話をつければ、ある程度は無理が通せるってわけだ」
「なるほどです! でも・・・・・」
そういうことで、ギルドを探してるんだが・・・見当たらねぇな?
ガルドナットでは辺鄙な村にすらギルドがあるって話だったが・・・?
「迷子です?」
「どうやらな」
結構回ったはずだが、それらしい建物は見当たらねぇ。
デカ目の建物は見逃してねぇはずだが・・・ここの支部は小さいのか?
「どうするです? 高いところから探して見るです?」
建物を探す上で高いところから見るっつー行為にそれほどの意味はないが、
「そうだな。あの丘にでも登ってみるか」
気分転換は必要だ。
あてもなく歩くのは疲れるしな。
それに、もし慌ててる奴でもいりゃぁ、そいつの行く先に冒険者ギルドがあるかもしれねぇ。
つっても、さっきから碌に人なんざいやしねぇんだけどな。
誰かに聞くのが一番手っ取り早いが、いねぇもんはどうにもならねぇ。
俺達は街の外れにある、街を一望できそうな丘の上へと向かった。
歩き回った身体に丘の上を撫ぜる秋風が気持ちいい。
だが、
「ちょっと寒いです!」
子供の体にはそうでもなかったのか、スイは寒さを訴え、ローブのフードをかぶる。
それに、
「わかっちゃいたが・・・なにもわからねぇな」
上からの眺めは悪いもんじゃなかったが、予想通少建物の違いこそあれど、そこから冒険者ギルドを突き止めることは不可能だった。
ついでに、慌てる人影も・・・つーか、街中に人影そのものが見当たらねぇ。
・・・なにかあったか?
そうは思うが、それほど異質な雰囲気があるわけでもない。
どうしたもんかと考え始めた瞬間、
「あれって・・・なんです?」
スイが遠く、町の中心から少しずれたところを指差す。
そこには、今まで1つとしてなかったはずの人影が。広場のような場所に群がっていた。広場のような、というのはあまりにも人が多すぎて、なにか分からなくなっているからだ。
「わからねぇが・・・・・・行ってみるか?」
なにがあったのかは知らねぇが、街の連中全員を集めたみてぇな光景だ。
近付けば、なにかしらに巻き込まれる可能性は高い。
それでも、
「そうするです!」
他に手掛かりもなし。
なにより、ここで怯むは冒険者に非ず、だ。
凄まじい雑踏の中、聞こえてくるのは・・・、
「本当なのかい?」
「嘘じゃねぇだろうな‼」
「間違いねぇ‼ 俺はこの目で見たんだ‼」
というような押し問答。
それがこの規模になるってことは、それはもう大層な理由があるんだろう。
と言っても、なんの話かはわからねぇ。
最初から聞いてたわけじゃないしな。さっきのが聞こえるのも群衆の裏に回り込んだからだ。初めは表側、群衆のケツに付けたんだが・・・足音と怒号しか聞こえなかった。
それにしても・・・どうするか。
冒険者ギルドの位置だけきけりゃそれでいいんだが・・・この中に割って入るのはあまりにも面倒だし。
一緒に来たスイは、
「うるさい、です‼」
と両手で耳をふさいでいる。
話の内容もわからねぇし、いったん離れるか? そう考えていた時、
「だから本当だって‼ このくらいの身長で‼ ローブとフードでわかりにくかったが、アレは間違いなく、亜人だった‼‼」
広場の端、即席の台の上で、興奮した様子の男が身振り手振りを使いながらそう断言する。
俺達がいる通りのすぐ近くで。
「おい、待てよ・・・それって・・・」
「あんな感じかい?」
それを聞いた群衆の一部が、俺達の・・・いや。スイのことを指差して・・・、
「あぁそうだ‼ まさに、あんな感じ・・・の・・・・・・」
それを見た台の上の男は肯定しながら、顔色を赤から青へと変えていき、
「亜人だぁああーーーー‼‼ 亜人が出たぞぉおおおーーーー‼‼⁉」
大声で叫びを上げた。