旅のお供は思い出話
「売りに出されたワンダーゴーレムがどうした?」
「単純な疑問ですよ・・・・・・ワンダーゴーレムなんて珍しく、強すぎるモンスターの素材がなぜ、いきなり皇都などで販売されることになったのか」
その理由は俺にあるが・・・ まずいな。
「以前のワンダーゴーレムの出品はゼネス様のパーティーが討伐した時、少量ながら市場に流れました。当然少量ですから、今回の出品がその時の残りだったという可能性はあります。ですが、私は商人ですから。貨物の出入りには人一倍詳しい。にもかかわらず、そのような荷物の存在は見た覚えがなく・・・そして、ゼネス様を皇都までお運びしたのは私です。その時にそのような荷物を持っていなかったのは確認済み。では、わざわざ荷物だけを遅れさせて。しかも、出所不明品にしてまで売るでしょうか? なにより、そんな人が私のところにまで依頼の話をしに来るのでしょうか?」
教会の秘密に関わる以上、詳しいことを知られるわけにはいかねぇ。かといって、サンパダは鑑定スキルを持っている。嘘で通せるとも思えねぇ。
それに、
「「「「・・・・・・・・・」」」」
話を変えようにも俺以外が多すぎる。
こいつらだって冒険者だ。
解体の場面に居合わせたんだから、そこに至るまでの経緯や詳細を知りたがってもおかしくはねぇ。
なら、仕方ねぇな。
「さぁな・・・・・・・・・・・・」
それだけ言って黙ってしまおう。
知らないという体で黙れば、話すつもりがねぇってのは伝わるだろう。そうすりゃ無理にそれ以上を知ろうとはしねぇはず・・・。
そう思っていたんだがな。
甘かった。
「そうですか・・・。では、新しい冒険譚をお聞かせ願えますか? 出来れば・・・そうですね。死を覚悟したような、そんな自慢の冒険譚を」
サンパダは何気なく言って見せるが――――やられた。
「そいつは命令か?」
「そうなりますかね。私は冒険譚がなによりも好きでして」
なるほど。
命令に従うっつー契約はこのためか。油断した。
南の霊峰から皇都まで数か月。
毎日同じように冒険譚をねだられた。
15年の冒険者歴があろうとも、それだけ話せば最早話すようなネタは残っちゃいない。
もちろん、ワンダーゴーレムの話もすでに聞かせた後だ。
素材の使い道なんかもガッツリ話しておいて、実はその残りが~・・・なんて通用するわけねぇ。
蟻の話で2週間?
それは不可能にもほどがある。
これは・・・・・・、
「・・・はぁ。わかった。話はするが・・・なにかに気付いたとしても、黙っといてくれよ?」
「もちろんです。商人の口は堅い方がいい。命と商機を逃しますからなぁ」
「と・・・いうことは、まさか本当にお一人で?」
「状況的にはそうなるな。正直、実感なんざねぇけどな」
「俺達が現場に行ったときにはすでに決着がついてたし、そこにはゼネスさん以外いませんでしたよ。現場に行くための鍵・・・十字架ですけど、それも1つしかなかったので、たぶん間違いないと思います」
おかげで解体した素材の運び出しに苦労しました。とサンパダに視線を送られたサンが付け加えた。
「あまりにも驚きの真実ですな。教会のことも含めて・・・もし、誰かに話したとしても信じてなどもらえないでしょうな」
「俺だって、人からそんな話を聞かされたら冗談だと思うだろうよ。実際、コイツが無けりゃ勝ち目すらなかっただろうしな」
俺は手を、それを包んでいる籠手を見る。
「なるほど。それは確かワンダーゴーレムの・・・」
「あぁ。不可思議鋼で出来てる」
「しかし、同じ硬度のものとぶつけ合ったのでしょう? 壊れたりはしなかったので?」
「殴りつけたのは柔らかい歯車の部分だけで・・・それ以外は弾いたり、逸らしたりして真っ向勝負ってわけじゃなかったからな。むしろ、俺の拳が壊れたぐらいだ」
「そんな状態で今回の護衛を? 5倍の料金をお支払いしているのですから、しっかり働いていただきたいのですが?」
「問題ねぇよ。もう治した後だ」
「それもまた、おかしな話だと思いますがねぇ・・・」
ふざけた態度に適当に返したら呆れられた。
それほどおかしいことだとは思わねぇんだけどな? 再生魔法でも治せるんだし・・・。
「お金に困っている人は治療など後回しになるものですよ・・・」
俺の考えでも読んだかのように補足してくれるが、
「自前で出来るんでな」
と大したことじゃないと返すと、
「それが、おかしいのですよ」
なにを当たり前のことを・・・と肩をすくめ、首を振られた。
そこへ、
「ちょ~っと待ったッ‼ 今、聞き捨てならねぇことを言いやしませんでしたか⁉ 5倍⁉ 報酬が⁉ それは流石に贔屓が過ぎるってもんでしょう‼ 俺達5人分の報酬を1人でなんて・・・」
ホウが5倍報酬に食いついた。
意外だな。そんなことを気にするタイプなのか・・・というか、俺の報酬のことは聞いてなかったのか?
「5倍というのは通常料金の5倍です。あなた達には2倍の報酬を払っているので2・5倍といったところですよ」
たしなめるようにサンパダが言うが、そうじゃねぇだろ・・・。
「いえ、それはいいんですが・・・」
逆にサンは平静だ。反応的にはコイツも知らなかったみたいだが・・・?
「そんなに金に困ってたのか?」
間のサンパダを超えて俺に直接聞いてくる。
ギルドの運営に関することだから安易に伝えるのもどうかと思ったが、もう解決した話だし、別にいいか。
「ギルドの金が足りなくてな。それで困ってたってだけだ」
「なんで言わなかったんだ⁉ 言ってくれれば・・・ッ‼」
「お前は職員じゃねぇだろ? それに、もう解決したんだよ」
「・・・・・・そうか」
なんでそんなに残念そうなのか。
「というより、そういうのはギルドマスターの仕事なのでは?」
「俺がやるって言ったんだよ。自分からな。教官は・・・あの人には頭を下げるぐらいしか出来ねぇからな」
それが悪いことだとは言わない。
責任の為に頭を下げられるのは上司として立派なことだ。
だが、金の無心となれば話は別だ。
人柄や人徳である程度は集まるだろうが、印象がよくねぇし、そういうのはいつまでもついて回るからな。可能な限り避けるのが鉄則だ。
「なるほど。理解しました」
簡単な説明だったが、タンがそれ以上聞いてくることはなかった。純粋には疑問だっただけなんだろう。
この感じ・・・少しだが、懐かしいな。
そんな感傷に浸っていると、
「スイにはよくわからないです! でも、ゼネスさんはお金持ちです? だったらスイはおいしいものが食べたいです‼」
「こらっ‼ スイ‼」
全てをぶち壊すような、何の関係ものないチビッ子の欲望だけによる発言をサンが叱ろうするが、
「悪いが、今はまだ無一文でな。ガルドナットについて報酬が出てからなら、いいぜ?」
「そうなんです? お金もないのに旅なんて・・・かわいそうです! お腹がすいたらスイのを分けてあげるです! だから、ガルドナットについたらいおいしいもの。いっぱい食べたいです‼」
「あぁ、そのかわり・・・困った時は頼むぞ?」
「任せろです!」
俺は可愛い申し出に是非よろしく頼むと答えながら、またも懐かしさを噛みしめていた。
「いいのか?」
リーダーとしての責任感か。気まずそうな顔でサンが聞いてくる。
「構わねぇよ。昔から、年下にはたかられてたからな」
ミリーやアンナ。エリックにフェリシア。全員年下で、初めの頃はなにかと理由をつけて、アレが欲し位これが欲しいと言われたもんだ。
そうやって1つ1つ思い出していったが・・・よくよく思い出してみれば、こんな可愛いもんじゃなかったなと、噛みしめた懐かしさの中に嘘の味を見つけてしまった。