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宿題

「まず俺が皇都にいない期間が1か月ちょっと。その期間中は教官、ギルドマスターにお前らのことを頼んでおく」


 教官だって俺以上に忙しいだろうが、こればっかりは仕方がねぇ。

 責任者に責任を取ってもらうのは当たり前のことだ。

 どうにかして時間は作ってもらう。


「その間にお前らのやるべきことは1つ・・・個人C級への昇格。それが宿題だ」

 そう告げると全員が真剣な表情を見せる。

「すでに何回も言ったと思うが、個人C級は冒険者にとって駆け出しの卒業、一人前を意味する。つまり、俺はお前らにそれぐらいの実力があると思ってるってことだ」

 迷宮攻略の時の力が発揮できれば個人C級どころか、パーティーB級だって余裕なはずだ。個人B級は・・・まだ無理だろうけどな。


「それで、じゃぁどうやって個人C級になるのかって話だが、当然ギルドで試験を受ける。基本的に内容は個人での討伐任務。皇都だとナックルベア辺りがよく対象になってるし、今なら時期的にもほぼ確実だろう。どんなモンスターか気になるならギルドの生態調査報告書で確認しとけ」


 ナックルベアはその名の通り、拳の発達した熊だ。

 特筆するような性質も持ち合わせちゃいねぇが、単純に熊ってだけで人間よりは強い。

 森に生息し、単独で生活することから戦闘は1対1になりやすく、攻撃方法も爪ではなく拳打であるため即死の危険も少なく、邪魔になる爪をよく砥ぐことから痕跡も発見しやすい。

 駆け出しの登竜門にされがちなモンスターだ。


「それに合わせてジェイド。お前は武器を解禁、攻撃を許可する」

「ッ‼ よし‼ ようやくか‼」

「1人で戦ったことはあるのか?」

「心配されなくても余裕なんだよ‼」

「別に心配はしてねぇよ」

 エイラ達の方を見りゃわかるからな。

 頷きが返ってくるんなら、まぁ大丈夫だろう。


「エイラはサポートで申請すれば能力試験になる可能性が高いんだが・・・どうする? 教官はゴリゴリのインファイターだから、そっちで習って討伐を受けてもいい」

「能力試験ってなにをするの?」

「使える魔法や道具の種類を見る・・・とかだったはずだ。一通りの強化魔法と治療・回復魔法を使えるなら問題ねぇよ」


 確か5、6種類の魔法及び道具の管理と使用。それと、効果時間と効果量の検証。だったと思うが、受けたことねぇからうろ覚えなんだよな・・・それでも。

 強化魔法の4種類。身体強化。魔法強化。装備強化。属性強化。

 それに加えて、治療魔法と回復魔法が使えるなら条件は満たしてる・・・はず。

 俺の記憶が見当違いじゃなければ、だけどな。


「ナックルベア・・・よね? 私に勝てると思う?」

「身体強化と装備強化か魔法強化を維持したまま戦えれば、負けることはねぇだろうな。一番手っ取り早いのは融合強化を使えるようになることだが・・・」


 融合強化は強化魔法を全て、あるいは3つ同時に発動する魔法だ。

 よく勘違いされているが、2つじゃなく3つだ。

 省いていいのは魔法強化か装備強化。

 どっちで攻撃するかによって選択し、もう片方の効果を削ることで消費魔力を減らすって寸法だ。あくまで効率を追求しただけの劣化魔法だが。


「そもそも融合強化が使えりゃ能力試験で落とされることもねぇから、そう言う意味でも好きな方を選んでいいぞ」

「そう、よね。わかったわ。じゃ、私も戦うことにするわ。守られてばっかりじゃ嫌だから」

「そうか。だったら、教官に身体強化のコツも聞いておけ。俺も身体強化はあの人に教わった。身体強化だけは飛び切りだからな。他の強化はからっきしだが・・・」

「わかったわ。でも、最後の一言は言わないであげた方がいいんじゃないかしら?」

「本当のことだからな。それに、他のも教えてください! なんて、言った後に気まずそうに説明させんのも可哀想だろ?」

「・・・。確かに、それもそうね」


 そんな教官の姿を想像したのか口に手を当てて笑うエイラ。

 楽しそうなのはいいんだが、それにしても。

 すっかり敬語じゃなくなったな。最初から気付いちゃいたが・・・。

 まぁ、迷宮でのことを考えれば尊敬なんざされるはずもねぇか。別に、敬意を払ってほしいわけでもねぇしな。


「で・・・リミア、キューティー、ケイト。お前らは、後でギルドカードの討伐履歴をギルドカウンターで見せて申請用紙をもらっとけ。用紙に必要事項を記入すれば、晴れて個人C級だ」

「どういうことでしょう?」

「お前ら3人は迷宮でそれぞれガーゴイル・ゴーレム・スライムをほぼ単独で撃破してる。どいつもナックルベアよりはよっぽど強い相手だからな。わざわざ試験を受ける必要もねぇよ」

 十分な実績は裏付けさえ取れれば〇〇相当として扱われ、試験なんかの代わりに出来る。 

 しかも今回の依頼主は俺自身だ。

 確認作業もすぐに終わる。


「じゃ、じゃぁ・・・私達の宿題は・・・?」

「もちろん無しに決まってますわ!」

「んなわけねぇだろ‼ お前らには別のことを頼む」

「別のこと・・・。一体なんでしょうか?」

「お前らには他の3人を鍛えてもらう」

「他の・・・」

「さ、3人を・・・」

「鍛える・・・ですの?」


「そうだ。お前らは先に個人C級になる。だから、出遅れた奴らの面倒を見てやれ。出来の悪い仲間たちの面倒を、な」

「おい! どういう意味だ‼ 俺様に実績がないのはアンタが俺様から武器を奪ったからだろ⁉ そうじゃなかったら――」

「――そう喚くなよ。文句があるならこの。キューティーに勝ってからにしてくれ」

 こんなことを言えばジェイドが噛みついてくるのなんざわかりきってた。だから、俺はキューティーをくるりと反転させながら肩を掴んで前に出る。


「私が⁉ ですの⁉」


 驚くキューティーを引き寄せ、耳打ちする。

「あぁ、そうだ。お前がジェイドの相手をするんだ。なぁに、冒険者の世界は実力社会。格の違いを見せつけてやれば、言うことの1つぐらいは聞かせられる」

「それではジェイド様との結婚も⁉」

「それは流石に厳しいだろうが、押し倒すぐらいなら出来るかもなぁ?」

 やる気にさせるため、適当に唆してみる。

 結婚は貴族社会的に難しいだろうが、1度の過ちぐらいなら冒険者の肩書が許してくれるだろう。


「おい‼ なにを吹き込んでいる‼ 作戦会議のつもりか⁉」

「D級のお前相手に作戦なんざいるわけねぇだろ?」

「なんだと⁉ 俺様がキューティーなんかに負けるとでも⁉」

「さぁな? だが、なんかっつってる相手に負けたら・・・わかってるよな?」

「そっちこそ‼ 俺様が勝ったらどうなるか・・・わかっているんだろうな⁉」

 鼻息荒く返すジェイドは今の意味に気付いているのか・・・。


「言質は取ったぜ」

「後はお任せいただきますわ!」

「まだ早ぇよ! あくまでも俺が出発した後、個人練の時の話だ! お前はまだC級にもなってねぇだろうが‼」

 いざ! と、ここでいきなりおっぱじめようとする2人を止める。


「私はなにをすればいいでしょう?」

「え? あ、あぁリミアか。お前はエイラの相手だ」

「私の?」

「あぁ。お前ら2人は教官に習って近接戦闘の訓練だ。お互い碌に経験もないんだ。どっちが先に、より強くなれるか。試してみろ」


 二人の共通点は性別と近接戦闘素人という点ぐらいだが、同時期に始める同じような初心者がいればお互い意識はするもんだ。

 それが、相乗効果になればよし。そうでなくても、自分を見つめなおすきっかけになれば十分な収穫だ。


「なるほど・・・競争。ですか」

「わかりやすいだろ?」

「えぇ。でも、いいのかしら?」

「なにがだ?」

「年齢も上だし、体格も私の方がいいのよ? 強化魔法だって・・・。怪我させちゃうかもしれないし、そうしたら接近戦が怖くなっちゃわないかしら?」


 言ってる意味は分かる。

 16と13。数字で見れば3つしか変わらないが、年齢・・・しかも10代の、と考えればその差は結構なもんだ。

 だが、リミアは武器と盾を持ってるし、なにより。


「コイツはそんなにヤワじゃねぇよ。強化魔法も教官に聞けば使えるようになるだろ」

 エイラと向き合うリミアの頭を撫でる。

 頑固で諦めが悪い。納得できなけりゃどこまでも食い下がる。

 ある意味一番冒険者らしいのがこのリミアだ。


「そのやり方で失敗したんじゃなかったかしら? 学ばないのね・・・?」

「・・・・・・悪いが、他にやり方を知らねぇもんでな」

「それについてはご安心を。私は絶対に投げ出したりしませんので」

「どういう意味かしら?」

「いえ、特に深い意味はないのですが」


 なにやらこっちもバチバチし始めたな。

 いや、アレはそれだけの事件だった。それまでの関係性を変えるような。

 俺にとっても苦い記憶として残り続けるだろう。


「それで・・・・・・ケイトだが」

「・・・は、はい」

「お前は・・・ヨハンに魔法を教えてやってくれ」

「「え?」」

 2人の声が重なる。


「あの、先生・・・っ!」

 ヨハンがなにかを言いたそうに、けれど遠慮しているような・・・その態度はどこかケイトとダブる。

 言いたいことはわかる。

「約束のことを忘れたわけじゃねぇ。つっても、直接教えてやれそうにもねぇ。だから、ヒントだけでも置いていく。後は・・・お前自身の力で完成させるんだ」


 それがきっと自信になる。

 諦めない理由になる。

 誰かに頼らなくてもいいんだと、思える力になる。


「・・・・・・・・・わかりました」

 どこか寂しそうに。それでも、決意を滲ませた目でヨハンが頷く。

 すまん。

 そう思っても口には出さない。

 代わりに。

「ヨハンを頼む」

「で、でも・・・その、私でいいん、ですか・・・?」

 ケイトは意気を上げるリミアに視線を送りながら迷ってるようだ。


「アイツは確かに凄いが、人に教えられるほどじゃねぇ」

「そんなこと、ないですよ。それに・・・ほ、他の人だって・・・」


 そうは言うが、リミアの魔法知識なんて学園の授業に毛が生えた程度。

 他の奴らだって、学園の教師は授業内容から論外だし、それ以外となれば冒険者か個人教室だが・・・個人教室なんてほとんどは学園以下だ。じゃなきゃ学園に入れる意味がねぇ。

 残るは冒険者だが・・・皇都の冒険者の中に自分を対象に攻撃魔法を撃てる奴なんかいねぇだろう。アレはそれだけの知識がないと出来ねぇようになってるんだ。事故防止の為にな。

 それを突破して魔法を撃ったケイトの知識は本物なんだ。


 だから、

「そんなことねぇんだよ。今、皇都で俺の代わりにヨハンに魔法を教えてやれるのはケイト・・・お前だけなんだ」

「私・・・だけ? ほ、本当に・・・?」

「あぁ。嘘なんかじゃねぇよ」

「そ・・・それなら、わかり・・・ました」

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