護衛依頼に向けて
「では詳しい内容ですが・・・」
足早に話を進めようとするサンパダに、
「ちょっと待ってくれ」
と逆に俺が止めてしまうぐらいには思い切りのいい決断だ。
「・・・本当にいいのか?」
自分から言っといてなんだが、通常の5倍もの料金を出す価値が俺にあるのか?
俺自身にはそんな価値は到底見出せないんだが・・・、
「ええ。構いませんよ。もちろん、こちらからも条件を付けさせていただきますがね?」
「・・・わかった。じゃぁ、続きを頼む」
ニッコリ笑って答える辺り、考えあってのことらしい。
無茶ぶりじゃなきゃいいんだがな。
「我が商会はこの度。歯車鉄と不可思議鋼の購入に成功いたしましたので、これを西の貿易国家ガルドナットへ売りに行き、その資金をもってあちらにも拠点を持とうかと思っているのです」
歯車鉄はワンダーゴーレムの歯車から精製されたインゴットのこと。同じように、不可思議鋼はワンダーゴーレムの外装から精製されたもの。
売れば飛び切りの値段が付くだろう。
特に、ガルドナットであれば。
独立国家ガルドナット。
古くは南西の連合に従属していたガルドナット地方がガルバリオン皇国成立と時を同じくして独立し、出来た国だ。
ガルドという通貨の名はこのガルドナットから取られており、それぐらい経済に大きくかかわる国だと言える。
内海に面した港で他大陸との貿易が盛んで、ありとあらゆるものや人が集まることから、商人の国とも呼ばれるほどで、この国に商会を持つことは商人にとっては一生を懸ける価値の夢だとも言われている。
競り。いわゆるオークションが有名で、珍しいものであれば相場の数十倍の値で売れることもある。
「なるほど。大した賭けだな」
爺も言っていたが、ワンダーゴーレムの素材は数十年に1度。出るか出ないかという代物。
それが俺のせいとはいえ、近いうちに2度。日の目を見ることになった。
1度ならば運がなかったと諦められただろうが、2度ともならば、それは運などという問題ではなかったと、商人ならば強く思うだろう。
だから一早く。誰より早く売りに出ることで、商会に名声と富を得ようというわけだ。
「いえ。それほど賭けだとは思っていませんよ。十分、勝てる勝負かと」
まぁ、値段だけを吊り上げるなら最後に出すのもありだが・・・もったいぶると出し渋りで返されるかもしれねぇからな。
今後ガルドナットで活動するなら、いい意味で名前を売っといた方が賢いだろう。
「護衛の依頼は2週間。ここガルバリオン皇都からガルドナットへの商品輸送車及び、私の身の安全確保。報酬は200万。内訳は前金で100万。成功報酬で100万。そして、道中では私の指示に従っていただきたい」
皇都からガルドナットまでの護衛。
片道2週間で200万の報酬。
しかも前金100万は間違いなく破格。
ただ、気になるのは・・・、
「指示に従え?」
そう言う依頼もあるにはある。
だが、そういった場合には私設の軍隊だとか、どこぞの騎士団だとか、そういう命令系統を統一するべき相手がいる時だけだ。
冒険者に憧れがあるとはいえ、サンパダになにが出来る?
いや、それ以前にそんなことをする意味がねぇ。
だったら・・・?
「なんてことはありませんよ。また、お話を聞かせていただきたいのです」
そう言うサンパダの顔に嘘偽りは・・・なさそうだな。
純真とは言えねぇが、裏も表もない顔をしていた。
「ところで、なぜ自ら出向いてまで依頼を受けたのですか? 懐事情のお話は聞きましたが、今は実りの秋。冒険者ギルドにも、依頼なら山ほどあるでしょう?」
ある程度依頼内容が煮詰まった段階で、サンパダがふと思い出したかのように聞く。
確かに、秋といえば収穫期だ。
モンスターだってそれを知らないわけじゃねぇ。中でも、冬眠する類のモンスターは食料を求めて活発になる。
そうなれば当然、畑なんかがその標的になるわけで。
それを嫌った農家が警備、撃退。あるいは被害が出る前にさっさと収穫を終わらせたいと収穫の手伝いを冒険者ギルドに依頼を出すのは毎年のことだ。
だがそれは、
「・・・ここが皇都じゃなけりゃぁな」
畑がある地方の話。
皇都の近くにそんなにデカい畑はねぇし、活発になるモンスターもいねぇ。
だから皇都の冒険者ギルドは季節など関係なく平常運転だ。
なにしろ、少ない食料を求めてモンスターが狂暴になるはずの冬ですら、なにも変わらねぇんだからな。
「では駆け出し冒険者達はどうしているのですか?」
「適当に依頼をこなすか、地方に出向いて収穫の手伝いだな。皇都からでも馬車で2、3日も行けばそういう依頼のあるところにつく。そう言うのを誰かに教えてもらうのも重要な・・・」
と言ってて気付いた。
あいつらをどうする?
片道2週間。
護衛だけ終わらせて、急ぎで帰っても3週間は掛かるだろう。
当たり前だがその間俺は皇都にいないわけで・・・。
「ゼネス様? 如何なされましたか?」
「いや、ちょっとな」
「??」
サンパダにはなんのことだか、さっぱりわからねぇだろうが、俺にとっては結構重要な問題になりそうだ。
どうにも・・・顔を合わせ辛いまま、なのに。今度はしばらく帰りません。だからな・・・。
本当に。
どうすっかなぁ・・・?




