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無茶な依頼

「それで・・・本日はどういったご用件でしょうか?」

 教会を後にした俺はマンサ商会に赴いていた。

 そこにはなんとも運のいいことにサンパダが居て、面倒なやり取りを省いて奥の部屋に通してくれた。


「護衛を探してるって噂を耳にしてな」

「どこでそれを?」

 サンパダは少しばかり驚いた様子だ。

「最近は随分とうさん臭くなった爺さんに、な」

 俺は来た道を振り返るように視線で辿ると、

「なんと。グレアム教皇とも懇意だとは・・・やはり、ただものではありませんね」

 意に介することもなく納得してしまう。


「アンタこそ、大したもんだよ。今のでわかるんだからな」

「いえいえ。滅相もございません。所詮は商人の浅知恵ですよ」

 謙遜まで含めて、全ての流れを読んでいたかのようなやり取りだ。

 商人というよりは利権にガメツい貴族でも相手にしている感覚に近い。


 長々話してたら主導権を握られそうなので単刀直入に切り出す。

「護衛の噂が本当で、もし問題ねぇなら・・・俺を使う気はねぇか? と思ってな」

 それを聞いたサンパダはさっきよりもよほど驚いた顔で、

「ゼネス様はワンダーゴーレムを倒したパーティーにいた元個人A級冒険者。その実力につきましても、以前の皇都までの道のりでお見せいただいていますし、こちらとしては願ってもない提案ですが・・・どんな条件をご所望でしょうか?」

 けれど真剣な声で言う。


「報酬を前払いにして欲しい」

「前払い? そんなことですか?」

 なんだ・・・と、サンパダは拍子抜けしたようだが、問題はその額だ。

「1週間で100万。日割りなら15万だ」

「100万ですか⁉」


 そう。100万。

 護衛報酬としては破格も破格。

 通常の5倍は吹っ掛けている値段だ。


「待ってください‼ なぜそれほどまでに高額なのですか⁉ しかもそれを前払いなど・・・‼ なにより、私共の護衛依頼は最低でも2週間を予定しています。なのでその値段を前払いというのは・・・・・・」

 まぁそうだろう。

 2週間なら2倍の200万。

 田舎なら新しい支店が立てられる値段だ。


「・・・・・・前払いは100万でもいい。報酬額を変える気はねぇがな」

 100万あれば俺の手持ちの200万弱と合わせりゃ、今月分のギルド職員の給料ならどうにかなるだろう。

 仮に残りの分が成功報酬だったとしても問題はねぇ。

「なぜそこまでして100万の前払いにこだわるのです?」

 その疑問は当然だが・・・どうする?


 話してしまってもいいのか?

 部外者にこういった事情を話すのは基本的に良しとされないが・・・。

 つっても、ここで黙ったり、はぐらかしたところで状況がよくなるわけもねぇ。

 なにより、ここを逃すと本気で後がねぇ。

 と、なれば仕方ねぇよな。


「金がねぇのさ。ギルドにな」

「どういうことです⁉」

「言葉通りの意味だ。このまま行きゃぁ職員の給料も払えなくてな」

「なぜそうなるのです⁉」

「なんでって・・・・・・元は蟻のせいだが――」

「――そうではなくて!」


 どこか嚙み合わない会話にサンパダが一度、流れを切る。

「あのワンダーゴーレムの素材は冒険者ギルドが売りに出したはずでしょう⁉ それのおかげで私共だけでなく、多くの商会が資金繰りに走っているのですよ? それがどうして金欠になるのです⁉」

 あぁ、なるほど。

 そう言う話か。


「落ち着けよ。落ち着いて思い出せ。ワンダーゴーレムの販売方法を」

「販売方法・・・? ッ‼ そうか‼ 証文取引‼ ・・・いえ! でしたら、なぜ‼ 現金の動かないあのような販売方法にしたのですか⁉」

「アレは出所不明品だ。利権のこともあってそのまま売るには躊躇があったんだろう・・・それに、ここは皇都だからな」


 ワンダーゴーレムの素材は確かに本物だが、教会であったことを大々的に触れ回ることなど出来はしない。

 だからこその出所不明品。


 なんだが・・・証拠を出せねぇ以上、言いがかりが消えることはねぇし、そこに売らなかったとしても、本当は偽物だったなどという噂を流されては冒険者ギルドのメンツにかかわる。

 そこで思いついたのが証文取引だったんだろう。

 証人を皇国・・・つまり皇王様にすることで本物だという証拠にしたんだ。

 もちろん多少は国庫に入る事になるだろうが、それでも十分な結果になると見越してのこと。


 そして、皇都での販売。

 皇都に本店を置く店は多いが、だからといって金を本店に置いているかと言えばそうじゃねぇ。

 皇都では信用で取引が出来る。それこそ証文取引のように。

 だが、地方や田舎じゃそうはいかねぇし、国外ではそもそも現金以外での取引は不可能と言っていい。

 だから、皇都の懐事情の事も考えての証文取引だったんだろう。


「そう・・・言われれば確かに。その通りかもしれませんね。いえ、おかげで私共も幻と言われているワンダーゴーレムの素材を買い付けられたのですが・・・」

 サンパダはすべてを理解したようだが、問題はここからだ。


 どうやらマンサ商会もワンダーゴーレムの素材を買ったらしい。

 確かに珍しいもんだし、加工さえ出来るなら最高の素材でもある。

 故に、相応の値段が付く。

 懐事情が厳しいのはどこも同じ。


 ここで断られたら・・・・・・最悪なにかしらを売るしか・・・つっても、倉庫の肥やしにならねぇ回復薬さえ売れねぇんじゃ、望み薄だよな。


「・・・わかりました」

 ダメだった時のことを考え始めていた俺に、

「護衛を依頼してもよろしいでしょうか?」

 サンパダは依頼した。

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