冒険者として
とまぁ・・・くだらない話をしていたら、
「ゼネス」
ブロンソン教官に声をかけられた。
見れば、足元に程よいサイズで少し深い穴があった。
「ありがとうございます・・・・・・」
教官。と言おうとしたが、待ったがよぎった。
ブロンソン教官は今現在はギルドマスター。なによりも、俺自身が教育係だ。ここで呼び方を変えておかないと後々ややこしい事態になったりしないか?
「はぁ・・・。お前さんの好きに呼べ」
まるで、心を読んだかの如く、嘆息一つ入れて答えてくれた。
「・・・助かります、教官」
いや、たぶん・・・確実に顔に出ていたんだろう。
何とも言えない恥ずかしさを隠しつつ、せっかく用意してくれた穴にモンスターの亡骸を落とす。
「火よ。肉も、骨も、残さず燃やせ。灰は廻りて大地を肥やせ」
簡単な詠唱を使って火をつける。
穴の中で炎が踊り、つい先ほどまで命だったものを崩す。
さほどの時間もかからずにそれは砂と変わらない姿になり、炎はどこぞへと掻き消えた。
それを確認したブロンソン教官が穴を作った時に出たであろう土をまた、穴へと戻してくれる。
おそらく全員がその命の火を見ていたのだろう。向き直したタイミングで視線が交わる。
「ここまでやって初めてモンスター討伐になる。穴を作るのは燃やす時に延焼を防ぐためだ。多頭討伐の場合なんかは魔法使いがデカい穴を作ったりもする」
「ま、毎回やるんですか?」
「そうだな。この処理は可能な限り行う。死体を放っとくと他のモンスターが群がるからな。しかもそこから突然変異する可能性もある。だから、どうしようもない場合を除けば毎回やることになるな」
突然変異。モンスターが別種族の特徴を取り入れることをそう呼んでいる。
詳しい原因は不明。
だが、その中の一つに別種を喰らうと姿を変えた。という前例があるため、モンスターの死骸はそのままにせず出来る限りの処理をすることが冒険者ギルドの取り決めだ。
「モンスター討伐で冒険者に必要なことはこれぐらいだ。後は実地で覚えろ。そのために今日は森にまで来てるわけだからな」
本題はここからだ。
話だけじゃなく、自身で体験することが実感になる。百聞は一見に如かず、とはよく言ったものだ。というか、命のやり取りを言葉だけで伝わると思う方がどうかしている。
それを分からせるのが指導の目的だ。
「ああ! それと、自己紹介はやっておけよ。さっきはあー言ったが、実力が近いうちはよく顔を合わせることになる。討伐依頼とか緊急招集とかな。そういう時に騙されたりしないよう、相手のことを知っておくってのも必要なことだからな」
いわれた6人はそれとなく周りをうかがっている。
ただ、一人は実力が近いという言葉に引っ掛かりを覚えたのか、明らかに不満顔だが。
「あの・・・?」
「どうした?」
「こういう場合ってステータスなどは伝えた方がよいのでしょうか?」
一番小さな、しかし確かな意思を感じさせる少女が問う。
ステータス。
冒険者にとっては一つの命綱だ。
基本Lvと加護Lv以外は筋力・魔力・体力・判断力・想像力・瞬発力・運命力と大雑把な情報しか無い上に、どことなく被ってそうな言葉で表現されるそれらをさらに、S+~G-まででそれとなく評価するという、なんとも言えないものだがそれでも、なにが得意でなにが不得意か・・・それぐらいは分かる。
それを知られるということは、命を懸けるものにとって一大事といっていい。だからこそ、これを教えることで得られる信頼もある。
そして、伝え方にもいくつか方法があり、基本的には口頭かギルドカードを見せるかの二択になる。
二つの違いは、口頭であれば偽ることが簡単で、ギルドカードではスキルなど他の情報まで開示することになる。
当然二つの信用度は段違いだ。
一応、スキル欄などを隠すことも出来るがその場合は余計な不信感が残るだろう。他にも更新をかけていない状態で見せるという手もある。
そういう駆け引きにも使われる扱いの難しいものがステータスだ。
なので、
「今は必要ない。背中を預けられると思った相手以外にはわざわざ教える必要もない」
ということになる。
「わかりました。それでは・・・・・・」
一度区切って、胸を張りスカートの端を持ち上げて膝を曲げ頭を下げる。その一連の動作は貴族の淑女として恥ずかしくないものだろう。
「リミアと申します。以後お見知りおきを」
これを皮切りにそれぞれが自己紹介を行っていった。