VSスライム 観戦
大きさは・・・ちょっとした岩ぐらいか?
近くで見たなら結構な迫力だろう。
動く液体の塊。
代表的な魔法生物。スライム。
その大きさによって脅威度が極端に変わるモンスターだが、今回のはかなり手強いだろうな。
なにせ、デカい上に核が見えねぇ。
相当機転を利かせなきゃ勝てねぇような相手だ。
にもかかわらず・・・調子に乗ったな? キューティーが早速スライムを切り裂く。
そうするとどうなるかと言えば、
「おい‼ 両方動き出したぞ⁉」
と、まぁ・・・分裂する。
「視えなくても、スライムにだって核はあるはず‼ みんなで探しましょう‼」
動揺をかき消す様に、仲間に声をかけるエイラは良く周りが見えてるな。
つっても、
「そうは言いますけれど・・・」
「な、なにも・・・」
「ない、よね?」
「ありませんね」
スライムの体は透明な液体で出来ていた。故に、一目でそれがわかったがための動揺。
そんなことを言ったって・・・となるのは仕方ねぇことだろう。
結局、前に出てたジェイド、キューティー、ヨハンが襲い掛かられ・・・武器を持たないジェイドを除いて、2人がつい反応して武器を振るった結果、スライムはその数を増やしていった。
スライムはなんにでも襲い掛かる。それは知覚器官を持たず、感情も持たねぇからだと言われてる。そして、その特性は図体がデカい程、強い傾向にある。
だから、適当に戦ってようが、大体同じような大きさのスライムが出来上がるんだ。
今回もその例に漏れず、全員が同じような大きさのスライムを、それぞれ1匹ずつ受け持つ形になった。
お互いが干渉しないように、ある程度距離を保った上で、個々人で撃破を試みる。
全員が同じような実力なら無難な作戦だが・・・。
お前らにそれが出来るか?
なにより、数が増えても元は一匹。核を持ってるのは1体だ。
そいつを見極めて狙うか、全部まとめて消し飛ばした方が早いと思うけどな?
とはいえ、ここで口出しなんざするわけもなく、経過を見守る。
まぁ・・・、色々試してはいるようだが・・・。
ジェイドは盾で受けて、スライムの伸縮から核の有無を測ってるみたいだが・・・成果はなさそうだ。
ヨハンは器用だな。突き抜けない程度の突きで分裂させないように攻撃してる。核があったら当たってたかもな。
キューティーは・・・無茶苦茶だな。剣の腹だからってそんな思いっきり叩いたら分裂するぞ?
エイラは躱してるだけか。周りを見てはいるみたいだが・・・。
リミア。それは無理があるぞ。液体のモンスターに水をかけてもどうにもならねぇだろう。
ケイトは・・・どうしたんだ? 魔力が集まってるのは感じるが・・・なにかしてるわけじゃねぇよな? それで、スライムが動かねぇのも気になるとこだが。
そんな調子で気付けるのか? 核が見えねぇ理由に。
核見えねぇのはおそらく、光の加減だ。
スライムが出てくる時、やけに足元の魔法陣が光ったなと思ったんだ。
あれがタネだろう。
おそらく核も透明で、この部屋のライトとスライムの核にかけられた魔法を連動させることで、光の屈折現象を使って隠してる。とか、そんなところだろう。
距離感がおかしく感じるような真っ白な部屋で、壁に張り付いてるライトの微妙な光量の差なんて、誰が気付く?
敵を目の前にしてりゃ、そんな余裕あるわけねぇよな。
けど、気付いて欲しいんだよなぁ。
正直。この部屋での戦闘だけじゃねぇ。ここに来るまでの探索ですら、そこらの中堅冒険者でも苦労するような内容だった。
こんなほとんど一色みたいな迷宮の攻略が簡単なわけがねぇ。
探索は俺が率先したとはいえ、ここでの戦闘には手を出してねぇし、口も出してねぇ。
なにかしら違和感を見つけた時ように、色を付けるって方法も教えておいたはずだ。
なんとかしてくれる・・・よな?
頼むぜ、マジで。
それがお前らの自信になるんだからな。
とかなんとか思ってたらまた、目が合った。
ヨハンから始まって、リミア、ジェイド。次はお前か? エイラ。
「・・・なんだ?」
だが、その表情は断トツでおかしかった。
なんつーか、焦ってる?
「どうかしましたか?」
「あ? あぁ・・・いや・・・」
声に出てたか。ユノに不審がられた。
「いや‼」
一瞬ユノの方を見ていた間に状況が動く。
エイラがスライムの攻撃を喰らった。
つっても、手で受けて弾き飛ばしたが。
「ちょっと⁉ どういうことでして⁉」
弾かれたスライムはキューティーが相手をしていたスライムの1匹とくっついた。
というかお前、また増やしてたのか。
それを確認したエイラが、
「スライムはぶつけあったりしたらくっつくみたい! だから一か所にまとめて! さっきは水魔法を吸収してたし、通路の時みたいに、色のついた水を吸収させればなにかわかるかも‼」
いきなり当たりを引く。
そうだ! それだよ‼
声には出さなかったが、身体は反応していたようで、壁に預けていた背中はまたひとりでに立ち、さらには拳も握りしめていた。
そんな俺を見てたんだろう。
「嬉しそうですね?」
ユノがおかしそうに笑う。
「ハッ、まぁな」
恥ずかしくなって、短く息を吐くように笑ってしまったが、ユノはその後に続けず、俺はさらになんとも言えない恥ずかしさに飲まれた。
あいつらは・・・もうスライムを集めたのか。
気まずさから少し目を離した隙に事態が進行していた。
それぞれがスライムを追い込んだ後、リミアが黒い水をぶっかける。
スライムはその黒い水と分裂した己の体を吸収し、急激に肥大化する。
元よりも大きく、そして黒を取り込んだスライムの身体には、
「あったぞ‼ アレだろ‼」
核の存在が浮き上がっていた。
「後は簡単ですわね! って⁉ どういうことですの⁉」
それを見たキューティーが核の辺りを切り裂いて・・・分裂させようとでも思ったんだろう。だが、スライムは分裂することなく、斬られた端からくっついて、元の巨体に戻る。
こうなったらもう、キューティーやヨハンの攻撃じゃ核には届かねぇ。
かといって、リミアの魔法は相性が悪い。
必然。
全員の視線はケイトに集まる。
そして、そのケイトはとっくの昔から魔力を集め続けてて・・・。
最初から強力な一撃で仕留めるつもりためにそうしてたのか?
だったら、なかなかに考えたもんだな。
だが、それでいい。
ケイトは下手に2つの魔法を使おうとしたり、さらには複雑さを出そうとしたり、目指す形なんだろうが魔法使いとして回り道が過ぎた。
まずは威力だ。
それが魔法使いに必要な一番の要素。
あれだけ魔力を集めて放つ魔法なら十分なはず。
それで、無理な同時魔法にこだわらなくとも、一つ一つ覚えていけばいいんだとわかってくれりゃぁ、あんだけ煽った甲斐もあるってもんだ。
魔力を集め、高まったケイトが、ゆっくりとスライムに近寄る。
ゆっくりと、一歩ずつ、確かめるように、噛みしめるように。
間に立ってたジェイド達が道を開け、後退る。
近付きすぎじゃねぇか・・・?
的がデカいとはいえ、巨大なスライムを消し飛ばすには威力がいる。
外さねぇようにってのはわかるが・・・・・・いや、
―――まさか‼
空間を裂くような雷光が駆ける。
ただ一瞬。細く。速く。真っ直ぐに。
次の瞬間。
稲妻とは思えないような直線的な光が降りる。
初めから、そこにあったかのように。
あるいは湧き出るように。
上もなく、下もなく、敵もなく、味方もなく、もはや音すら消し去って、溢れる光は暴れ狂った。
全てを裁き、浄化せしめんと。