お願い!
「円運動?」
「っつーと別のもんになるから、遠心力の使い方・・・とかになるんじゃねぇか? 要するに、直線より曲線の方が使い勝手がいい、みてぇな」
「よくわからないですけど、今やってるそれのことですか?」
「まぁそうだ。直線に突き出す腕を横から押すだけで簡単に軌道を変えられるし、押すのに必要な力は腰の回転だけだから、そう疲れることもねぇはずだ。今狙ってるのは手首だが、長物相手なら切っ先でもいい。相手の踏み込みに合わせて前に出るのがコツだな。体に近い方が押す力も強くなる。手を伸ばすより肘の辺りで押し込む感じだ。注意点としてはモンスター相手にはほとんど使えないってことぐらいか」
「よそ見しながら説明しつつ、色んなパターンを見せるのやめてくださいよ⁉ どうすればいいんですかこれ⁉」
「それは自分で工夫しろ」
「ひどくないですか⁉」
「視界専有?」
「眼潰しとか、目くらましとかだな。こう、手を広げて相手の前に出すとか」
「うわっ⁉」
「地面を転がる振りをして、砂を握り込んどいてぶちまけるとか」
「それはやりませんよね⁉ やらないでくださいよ⁉」
「お前がビビってどうすんだよ・・・。お前は相手にそういうことをさせないような立ち回りを考えろ!」
「そんなこといったっ――痛っい‼ 目がぁ‼⁉ やらないでって言ったのに⁉」
「やめてくださいで敵がやめてくれるかよ。情けねぇこと言ってるからだ!」
「それは流石にあんまりだと思いますよ・・・?」
「地形利用って・・・」
「この間もちょっと話したが・・・って、ここじゃどうにもならねぇな」
「ただの広場ですからね。あそことか、どうですか?」
「――まぁ森じゃなくても、木ぐらいならどこにでもあるだろう。使い方としては・・・距離を離して木に隠れ、素早く登るだ。きっちり視界が切れてりゃ一瞬で消えたように見える。上手くいけば隙が作れるし、少なくとも動揺は誘えるだろう。相当のバカでもなけりゃすぐに気付くだろうが、木の上まで確認できねぇ相手なら、時間も稼げるし諦める可能性もある。強化魔法が使えるなら、こういう上下の移動は常に頭に入れておけ」
「早く降りてきてくださいよ先生‼ 僕は強化魔法使えないんだから登れないんですよ⁉」
「甘えんな! こうなった時にどうすんのかも決めとけ! お前はソロなんだからな!」
「ええ⁉ なんで僕にだけそんなに厳しいんですか⁉ ・・・・・・もしかして! 僕のお願いを聞きたくないからですか⁉」
「んなわけねぇだろ‼」
そんな感じで3日間、特訓の日々が過ぎた。
その間に、
「どういうことでしょう? 先生。ケイトさんには詠唱を教えたみたいですが、私の時はなんて言ってましたっけ? ご説明頂きたいのですが・・・」
「ゼ、ゼネスさん・・・詠唱無しの魔法を教えてくれないのはどうして、ですか? 私、には出来ないと、そういうこと・・・でしょうか?」
「私が勝ったのにジェイド様が言うことを聞いてくれませんの‼ これでは頑張った意味がございませんわ‼ どうにかして頂きたいのですわ‼」
「俺様は負けてない‼ というか、もっとコツを教えろ‼ なにかこう、あるんだろう⁉ これさえやっていればいい、みたいな絶対的なのが‼」
とかなんとか、口々に文句ばっかり言いやがって・・・適当な理由を考えるこっちの身にもなって欲しいもんだ。
出来そうだと思ったことを教えただけだが、なにがそんなに不満だったのか。
後、ジェイドには、
「約束も守れねぇとは。男らしさの欠片もねぇな?」
そう言って、煽ってやればいけるかと思ったんだが・・・。
「こんな勝負で今すぐ結婚とか‼ 流石に理不尽だろ⁉」
と、泣き言をいうのでキューティーには別の命令にしろと言っておいた。
男らしさの欠片もなかったが・・・確かに、こんなつまんねぇ勝負の景品にしては重すぎる内容だからな。致し方なしだ。
他にも、特定の組み合わせで対抗戦のようなことをしてみたり、全員まとめて相手をしてみたりしたが・・・まぁ悪くない。
拙いところはもちろんあるが、連携も形になってきて、それぞれの役割も板についてきた・・・なんて、振り返っていたら。
ギギッ、と左手の籠手に擦れる感触。
「やった‼」
見れば、ヨハンが小躍りの如く喜んでいた。
「やりましたよ‼ 当てましたよ、先生‼ 当たってましたよね⁉ これで、僕のお願い・・・聞いてもらえるんですよね⁉」
跳ね回って喜んでる姿を見ると、なにかしら理由をつけて反故にしたらどんな顔をするだろう? なんて、思わねぇでもねぇが・・・ジェイドに約束も守れねぇとは。と煽った手前、冗談でも言えねぇな。
「ああ、わかったから落ち着け。で? 願いはなんだ? 決めてたんだろ?」
「はい! その・・・必殺技を教えて欲しいんです!」
「必殺技ぁ⁉」
「はい!」
キラキラした・・・というより、最早ギラついた期待の目で俺を見るヨハン。
「ダガーの扱いを教えてくれた人が言ってたんです! ここぞっていう場面で信頼できる技があると良い・・・って。女王蟻との戦いの時を思い出しても、皆そういうのを持ってたし僕も欲しいなって!」
女王っつーと、サンとリミア・・・後は俺もか。確かに全員大技っぽいのを使ってたな、そういえば。
「まぁ、大技はあるに越したことねぇってのは確かだが・・・」
とはいえ、
「そういう話なら今すぐには無理だな」
「どうしてですか⁉」
「そんな1日2日で出来るようなもんが必殺技か?」
「・・・じゃぁ、先生のあの技を教えてもらうのは駄目なんですか?」
あの技・・・というのもおかしな力技は誰にでもマネできるが、
「やめとけ。使い勝手が悪すぎる・・・なにより、その籠手じゃ無理だ」
威力を求めるならば俺と同等か、それ以上の装備が必要になる。ヨハンに渡した籠手は俺が使ったもんだが、所詮は試作品。同じことは出来ない。
「そう・・・ですか・・・」
「そんなに落ち込むなよ。ちゃんと考えてやるから」
「でもそれって、迷宮攻略に間に合いますか?」
なるほど。
いいとこ見せたいとか、役に立ちたいってとこか・・・つっても、
「なにも戦闘するって決まってるわけじゃねぇ。今でもお前は十分強ぇよ」
流石にそいつは不可能だ。
あんまりユノを待たせるわけにもいかねぇからな。もうすぐにでも始めるつもりだ。最低限のラインには到達したからな。




