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言いたくなる

「正直。当て方はあっても避け方はねぇんだ。突き詰めれば全部、勘だの運だのになる。もちろん、それを引き出すために経験は必要になってくるがな」

 どれだけ用心してようが当たれば不正解で、なんにも考えてなくても当たらなければそれが正解なんだ。

 絶対に当たらない状況っつーのはある。ただしそれは攻撃側に限れば、で相手の攻撃範囲内にいる限り、避ける側には当たっちまう可能性は消せねぇ。

 だから結果論で語られる。


「例えば――」

 ヨハンに来い! と合図を送る。

 それに気付いたヨハンが素早い突きを繰り出す。

 それを俺は一歩下がり、さらに体を仰け反らせることで数センチ。首とダガーの間に隙間を作る。そしてヨハンの手首を掴んで動きを止める。

「この避け方・・・これはちゃんと計算して、届かないと思ったからこうやって避けた。けどな? たった数センチ。これが届いてりゃ俺は死んでるし、この避け方は間違ってたことになる。届かなかったのは俺がヨハンのことをよく知ってたからだ。性格、体格、戦い方、武器種、実際に使う武器の機能まで、運の絡まる余地を出来る限り排除した上で、実力差があって攻撃を予測できたからだ」

 実際はこうはいかねぇ。

 なぜなら、手に入る情報には限りがあるからだ。わからないことは計算には入れられねぇ。それが運の領分であり、勘の使いどころになる。


「だったらどうすんだって話だよな?」

 理論に正解はなく、感覚は教えられねぇ。

 なら答えは?

「逃げるしかねぇ。より正確に言うなら攻撃範囲内から出る、だ。昨日も言ったが、別に迎え撃つ必要はねぇ。離れたところから攻撃すりゃぁいい。そのための魔法も覚えるんだ。無理はするな」

「だったらなんで回避の話なんか?」

 確かに、エイラとしては率直な疑問だろう。それなら今やる必要はないんじゃないかと。だが、言いたくなったんだ。こいつは俺と同じ・・・サポートだから。


「知らねぇままだと無理だとは思わなかったんじゃねぇか?」

「それは・・・そうかも。でもそれは言ってもらえれば・・・それだけのために、あんなに時間を使うことはなかったんじゃ?」

「それだけ、じゃねぇよ。この後も回避の話をするしな」

「なんで・・・?」

「時間を稼ぐなら邪魔をすればいい。そういったよな?」

「え? はい。だから逃げるための方法を聞いてるわけですし・・・」

「それは嘘じゃねぇ・・・だけどな? 出てくるんだよ。その邪魔を、邪魔だとも思わねぇような奴が」

 モンスターは人よりデカい。特に強いと言われる奴は。攻撃の手段も手数も桁違いで、こっちの妨害を片手間で止めながら、本命を攻撃さえしてくる。


「そうなったら、どうしても前に出たくなるんだよ。仲間の為に・・・自分の為に。命を懸けるっつー決断の時だ」

 知らなくていいことなんざねぇ。知らないまま、死んでいいことなんかあるわけねぇ。知っていれば出来ることがある。やってみるだけの価値がある。

「だから、今度は技術の話だ」

  そんな時に迷わないで済むように。

「対人で感覚を掴めば、モンスター相手でもそこそこどうにかなるし、知らなかったで後悔はしたくねぇだろ?」

 諦めなくていいように。

「・・・そうですね。お願いします」

 ほんの一瞬、仲間に目をやってエイラは納得した。


 技術的なことなら言葉に出来るし、ヨハンもいるんだ実演も出来る。

 それじゃぁ早速・・・というところで、

「僕もまだ聞きたいことがあるんですけど!」

 ヨハンが待ったを掛ける。

「なんだ?」

「攻撃を当てる場所です! 方法はわかりました! 精神的な事で動きを操る・・・考えてもみなかったことです。だからこそ聞きたいんです! どこを狙えばいいのか!」

 そんなもん、当たりゃどこでもいいんだが・・・ついでだな。回避と合わせて話すか。


「狙いはどこでもいい。ただ、どんな生物もそうだが、体の末端の方が大きく、よく動く。逆に、体の中心、胴体はそれほど動かねぇ・・・。どっちが当てやすいと思う?」

「胴体! ですよね?」

「まぁそうだ。なら逆に、狙われる方はどうだ? 手足と胴体。どっちの方が止めやすい?」

「私ですか? えっと、止めやすいのは・・・胴体、ですかね?」

「え⁉ そうなんですか⁉」

「え? えぇ、たぶん。止めるのなら体を狙われた方が難しくはないかしら」

「そう。攻撃側からしてみれば、よく動く手足なんかの末端は狙いにくい。だが、狙われる側からすれば、手足を狙った攻撃なんざ止めようがねぇ。その点、胴狙いは止める分には簡単なんだ。盾や鎧があるならそれで受けるだけでいいわけだからな」

 よかった、あってた。といきなり話を振られたエイラが安堵する。


「受ける・・・そっか、避けなきゃいけないわけじゃないのか・・・」

「そのための装備だからな」

「先生は籠手ぐらいしか着けてないじゃないですか・・・」

「バカ言うなよ? この服は生半可な力じゃ裂けも破れもしねぇよ。ま、避けれる攻撃をわざわざ受ける気もねぇけどな」

「なんでですか? 受ける方が簡単なんですよね?」

「当たるけど防がれんのと全く当たらねぇのなら、当たらねぇ方が鬱陶しいだろ? 本当は、当たっても効かねぇ。が一番鬱陶しくて、それを演出するためのこの服だったんだが・・・人間の耐久力じゃ無理があってな」

 どう頑張っても一回、場合によっては回想再現まで使ってようやく・・・って感じだった。素材を集めるのに時間も金も費やした割には使えず、当時はがっかりしたもんだ。


「どうしてそこまでして?」

 エイラがさぞ不思議そうに言う。


「鬱陶しい奴は無視し辛いだろ? なんせ鬱陶しいからなぁ。目の前で余裕な面して邪魔までしてくる。そんな奴は殺したくなるんだよ。どんな奴だって、な。だから、時間を稼ぐにはうってつけってわけだ。そうやって俺がどれだけ敵を煽っても、最後には仲間がどうにかしてくれるんなら、楽しまなきゃ損じゃねぇか?」

 そう言って笑って見せると二人は。うわぁ・・・って顔で半歩程後ずさる。「だが、それが心理だ」

 なんて、茶化して見せるが・・・本当は俺に出来ることが、他になかっただけだ。

 つっても、そんなことは言うだけ無駄だ。前途ある若者に諦めた者の言葉なんざ必要ねぇ。


「続きだ。狙うのはどこでもいい。自分の近くに来たところから削り取っていくイメージだ。人間なら手足だろうし、モンスターなら尻尾や顔ってこともあるだろう。よく動くんなら、その動線に攻撃を置きに行くでもいい。そういう想像で試してみろ」

「試してみろって・・・先生にですか? 危なくないですか?」

「普通は武器に魔法をかけて安全対策するが、今は武器の感覚を鈍らせるのはよくねぇし、この服は半端な攻撃は通さねぇつったろ? 籠手は言わずもがなだ。そもそも当たんねぇよ!」

「え⁉ 当たってくれないんですか⁉」


「回避の実演だっつっただろ?」

「えー・・・」

「えー、じゃねぇんだよ! ったく・・・そうだな。もし、一撃当てられたなら」

「当てられたなら?」

「願い事を一つ聞いてやるよ」

「本当ですか⁉」

「ああ。だからさっさと始めるぞ!」

「はい!」

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