巣立ちへ向けて
「アンタ、こんなところで油売ってていいのかよ?」
「どこぞの馬鹿のせいで余儀なくされてな。そういうそっちこそ、アドレス攻略はどうした?」
「こっちもどっかの馬鹿のせいで家から呼び出されたんだよ。世話になった相手の大手柄は祝うべきだろう――ってな」
ジーナを封殺するべく戻った皇都で、ついでに冒険者ギルドへ顔を見せに行った先でジェイドと出会う。
「流石は伯爵閣下だ。人ができてるな」
「今や閣下はアンタだろ? 大公様よ。親より偉くなった気分はどうだ?」
「おかげで海千山千のお貴族様が引っ切り無しに擦り寄ってきやがる。立場なんざ得るもんじゃねぇな」
「羨ましい悲鳴だな。婚姻についても、国一番の才女から爵位を奪ってでも強引に手に入れたとか・・・」
「あの野郎ッ――そんなくだらねぇ嘘まで流してやがんのか‼‼」
「ハハハッ! なんだよ、その顔! でも、嘘吐きのアンタにはお似合いの相手じゃねぇか?」
「誰が嘘吐きだって?」
「アンタ以外に他の誰が居るんだよ? 皇都で待ってるって言ってた癖に」
本気で言ってる目じゃねぇのは見りゃわかる。
北の方角を遠く見つめてる。
「寂しいか?」
「馬鹿言うなよ!」
「なら不安なのか?」
「そうじゃねぇよ‼ ただ、認めさせに行くには遠いだろ‼」
「そこで朗報だ」
おどける道化のように手を開いてみせる。
「その内、北大陸に皇都移そうって考えがあるらしい」
「はぁ⁉ 聞いてねぇぞ‼ そんなこと‼」
「そりゃぁそうだろ。お前は冒険者なんだから」
「そういう問題かよ‼」
「さぁな? ま、いつになるかはわからねぇ話だ。俺を嘘吐きにしたいなら、それだけ早くアドレスを攻略したって言えるようになることだな」
「~ッ‼ 誰になに言ってやがる⁉ 攻略したって言えるように? そんな生ぬるい成果でアンタを認めさせようなんて思ってねぇよ‼ 俺達は、未だに誰も見たことねぇ頂上まで登って、そこでなにを見たのか、アンタに自慢してやるよ‼ すぐにでもな‼‼ 分かったかよ‼‼」
軽く会話しただけで、面白いように意気込むジェイドは、
「行くぞ‼ お前ら‼」
丁度ギルドに入ってきたエイラ、キューティー、ケイトを連れて行こうとする。
「ちょっとなによ⁉ 私達はまだ挨拶もしてないわよ⁉」
「そうですわ! ジェイド様! いくらなんでも、それは不躾というものではありませんの⁉」
「急ぎ過ぎるのは、よくない! せめてジーナ様の居場所くらい・・・」
「お前らの分もよろしく言っといた! いいから行くぞ‼」
3人が抗議しようとも、ジェイドは頑なに聞き入れず、無理やりにでも腕を引いて出ていく。
「え⁉ あッ、もう‼ それじゃあまた‼」
「ジェイド様に力強く腕を引かれ―――ッ⁉⁉ 失礼しますわあ‼‼」
「え、え、あの⁉ ジーナ様はどこにッ―――」
三者三様の言葉を残して引きずられていった。
「・・・寂しくなるな」
「気のせいじゃないですか?」
「まったく、誰のせいだと思っておる」
「職員の顔触れは変わらないでしょう?」
「いいや、おかげさまで増員が決まった」
「だったら寂しいなんざ言うなっての」
「なんだ、殊勝な態度はもう終わりか」
ハゲ頭をさすりながらブロンソン教官が笑った。
「なんなら北大陸に来ますか? しばらくは暇ですよ」
「そうやって、そこら中で勧誘しとるらしいな。この大嘘つきめ!」
「嘘なんて・・・人聞きの悪い。仕事ができねぇのは本当のことですよ」
「日常に苦労することのどこが暇なんだ? ええ?」
「充実した生活じゃぁないですか。なにか不満でも?」
「不満しかないわ! 儂はな、面倒を見てやった駆け出しが成長していく姿が見たいんだ。誰が日常に手を焼いてまで、自然の相手なんぞしようと思うか!」
「これも歳って奴か・・・勧誘した相手全員が似たようなことを」
「誰を誘ったのか言ってみろ!」
「教会の枢機卿と鍛冶屋のバルシム、あとは下町の首領ことアンナの母親」
「どんな人選だ‼‼ その全員にお前さんが老いぼれと宣っておったこと、伝えておくぞ‼‼」
「それは卑怯だろ‼ このハゲ‼‼ 寂しいとか抜かすから、寛大な心で誘ってやったってのに――ッ」
「頼んどらんわ! この馬鹿タレが‼ お前さんの影響でこの皇都は大きく変わった‼ 新たな波が押し寄せてくる‼ 儂はそれを楽しむのだ‼ ここに顔を見せにくる面子が減ろうともな‼」
「だったら寂しいとか嘘じゃねぇかよ‼‼ このボケ‼‼ 髪と一緒に記憶も抜け落ちたか⁉ 髭も減っちまってるから取り返しもつかねぇな‼」
「見飽きた顔がうるさいのう‼ さっさと新天地にでも飛び出してしまえ‼ この支部からA級のパーティーが居なくなり、お得意の取引先も引き抜かれちまったが、それでもどうにでもなるわ‼ 心配なぞ、するでないぞ‼‼ 決してお前さんのせいなどではないのだからな‼‼」
「そんなもん、するわけねぇだろ‼‼ 茹った頭を冷やすために、外にでも出たらどうだ? 直で冷却できるんだ、他の奴らより効果的だろ?」
「喧しいわ‼ 表へ出ろ‼ その鼻っ柱、圧し折ってくれるわ‼‼」
「やれんのか⁉ 老いぼれが‼ 無理してもいいことないぜ? 怒っても天を衝く髪は生えねぇんだからな‼」
くだらない応酬を繰り返しながら外へ出る。
当然ながら、注目を集めるだろう。
マンサ商会は北大陸の販路に興味を持った。
それに伴い冒険者ギルドへの依頼は自ずと減る。
俺の活躍によって新人が増えても、依頼がなけりゃぁ続かず根付かず。
だったら去り際に火種ぐらい置いて行こう。
喧嘩の火花じゃ小せぇだろうが、ちょっとした見世物くらいにはなるさ。
誰かの明日を照らすぐらいの灯には――。




