終着5
「なんでもいいが、そっちのを処理するのにも、手を貸してもらうぞ?」
虫の息でまだ生きているドラゴンの肉体を指して言う。
「もちろん、研究の素材にさせてもらうつもりだよ」
「いっそのことギルドまで巻き込んだらどうだ? こっちで冒険の続きだ」
「いいですね! ドラゴン達が住む島に行くとかどうですか⁉」
「同じようなことが起きないよう、宗教の統一を目指すも良いのではないでしょうか? 北大陸の実情を知れば、精霊信仰が根強い南西大陸から流れてくる人達もいるでしょうから」
「アンタがやりたいこともやればいいのよ! 装備作りか、久々にやってみたらどう? 折角いい素材が手に入ったんだし」
「待ちたまえアンナ君! 生きたドラゴンの肉体は実験のためにだね――」
「そんなの他のに協力させればいいだけでしょ⁉ 大丈夫よ‼ ゼネスならできるわ‼」
飛んでもねぇ無茶振りだが、”他の”っつー部分で思い出した。
「取り敢えず外の様子も確認しとかねぇとな」
「そういえば外のことは、ここまで運んでくれた龍王に任せたままだった。でも、どうやって戻るんだ? ゼネス」
「あの龍王の魔力は虹霓玉と同じだからな。それに合わせて空間転移すれば、たぶん大丈夫だ。どうやら動きも止まってるみたいだしな」
クライフも他のドラゴンの存在を思い出したらしい。
「魔力の方は大丈夫ですか? 僕らの残りだけでこのドラゴンも運ぶんですよね?」
「そっちも心配いらねぇよ。今なら、コイツの魔力も使えるからな」
エリックの不安を払拭するように倒れ伏すドラゴンを示す。
精神が世界から切り離された辺りからか、魔力的繋がりを感じ取れるようになってた。防衛機能が働いてねぇのは衰弱のせいか、それとも精神が完全に分離したせいか。
肉体を動かしていたもう1つの精神がどうなってるかわからねぇが、ただ魔力を吸い上げられることは確かだった。
「いつの間にかイーターが姿を消していますので、酸素が足りなくなってしまう前に移動してはどうでしょうか?」
「その意見に反対するところはねぇんだが、まずはアイツらに言ってきてくれねぇか?」
非の打ちどころのない意見を出すフェリシアに、未だ醜く言い争う2人を指差して言う。
一瞥の後に、
「もう置いていきましょう。大丈夫ですよ、怪物と天才なんですから!」
ニッコリと笑うフェリシア。
ほとんど見た覚えがねぇ対応に、強くなったなと。
事の終わりを実感した。
「それで唐突に、我が前に現れたというのか?」
「まぁそうだ」
外で待っていた龍王の隣に、俺達はドラゴンを連れて空間ごと飛んだ。
「我もある程度は覚悟をして居ったが、だからと言って加護を奪われるのは本意ではないのだ。それを打ちのめしたからと、本体を連れて来てくれるな。その姿もまた、目に入れたいものではない」
「ギフトについては未知数だからな。俺のギフトで打ち消せてることを期待しておいてくれ」
「我らの不始末を押し付けた手前、致し方ない部分は許容するしかないが、聞いても良いか?」
「なんだ?」
「1つはその死に体をどうするつもりなのか、もう1つは・・・」
龍王の視線の先には、ほとんど見覚えのドラゴンが3匹。どれも若いのか、龍王と比べると体が小さい。
「このドラゴンについてはこっちで利用させてもらう。所謂、戦果や戦利品として頂戴するって形だな。それで、そっちのドラゴンだが・・・」
3匹は呼吸こそしているが、意識や精神といった部分を感じられねぇ。
そして原因は言うまでもなく、精神操作を受けた結果だ。
「もう、戻ることはねぇだろう」
「・・・・・・そうか」
どっかでわかっていたんだろう。
わずかに俯くだけに留まる。
「奪われた意識はこのドラゴンが作った精神世界に収容、利用されてたんだ。その精神がこの世界から消えた以上、被害にあった側は・・・・・・」
「済まないことをした」
それはどっちの意味だろうな。
俺に業を背負わせたことか、あるいは3匹の部下への負い目か。
訊く気はねぇがな。
「疑わねぇんだな?」
「仮にも龍王の器に選ばれたのだ。その程度の能力は持ち合わせていよう」
とんでもねぇ能力だと思うが、龍王からすりゃその程度――なんだな。
「そう、だ・・・! 我は――りゅう、おう・・・」
言葉に反応したのか、死に体のドラゴンが声をあげるが、
「貴様は龍王などではない‼ 戯言を宣うことは許さぬぞ‼ 痴れ者が‼」
龍王が一蹴する。
「其奴を持ち帰るのは構わぬが、ここで息の根を止め、恥を広めぬようにはできぬのか?」
「申し訳ないけれど、ギフトの研究もしようと思うと生存は必須。その要求を飲むことはできないね‼」
横から、勝因を嗅ぎつけたジーナがつけ込む。
ギフトの研究。
これで生存を前提にした交渉になり、アンナの素材案を取り下げさせたいんだろう。
そのことにアンナはなにかを言おうとして、ぐっと堪えた。
勝手なことだと糾弾するには、ギフトの件は見過ごせない。
かといって、そっちの3匹なら素材にしていいわよね⁉ なんつー非常識極まりねぇ台詞は口が裂けても言えやしねぇ。
渋々でも、負けを認めるしかなかったってわけだ。
こう見ると、決着ってのはいつだって突然のものなのかもしれねぇな。




