決断の日
その日は休みだった。
後日に控えるパーティーランク昇格試験に向けた準備期間の最終日。
俺は親友でありパーティーリーダーのクライフに呼び出され、普段は使いもしない夜の酒場に顔を出していた。
だが、
「で? ずっと黙って・・・どうするんだ?」
呼び出したはずの男は、固い表情でグラスを見つめたまま動かない。
いや、分かってはいるのだ。
お互いに。
こうなる事はとっくの昔に気付いていたし、覚悟もとうに決めていた。
それでも、せめて・・・
「いつからだっただろうな?」
俺は笑って見せ、
「表に出ろよ。喧嘩を売りに来たんだろ?」
立ち上がり、促す。
悲しそうな顔で見上げる親友はやはり困ったような顔のまま、ゆっくりと立ち上がる。
まだ夜も早いというのに、碌に客入りのない酒場を出て、すぐ正面の広場に立つ。
遅い時間ではないにもかかわらず、周囲に人の気配はない。
「今日はいい夜だな」
酒場に行くだけなら決して、必要なことなどないはずの得物を、構えて見せる。長らく共に戦ってきたナイフは、恐ろしく手に馴染む俺の相棒だ。
それを見て、親友も愛用の剣を抜き構える。
合図もなく、ただ俺は駆け出した。
「新月の夜に決闘とは、おあつらえ向きだな‼」
素早く回り込み、背中を切りつけるが、手ごたえはない。
籠手の装置を起動させて射撃による追撃。そこからさらに踏み込み、肉薄してみせる。
開けた場所も、狭い間合いも、暗い視界さえも、俺にとっては好都合だ。
「わざわざ今日を狙ったんだろ⁉」
突き込み、引き切り、殴り付け、蹴り飛ばし、狙い撃って・・・
それでも尚、親友は無傷だった。
最後に俺は体ごと突っ込む。それはさながら、浮気を許せなかった女のように、凶器を腹に据え、感情だけをただぶつけるかの如く。
ギンッ‼ という金属音の後に俺は倒れ込んだ。
そして、首筋にはヒヤリとした刃が添えられていた。
「すまない・・・」
俺を見下ろし剣を向ける親友の顔はどこまでも苦しそうで、もはや言葉も出ないほどだというのが、ゆうに見て取れた。
「構わねぇよ。これが現実だ」
月すら顔を隠す現実に。だがそれでも・・・俺たちは目を背けられなかった。見て見ぬふりなど出来なかったのだ。
見上げた空は、そこにあるのかすら分からなかったが、それでもそこに・・・確かにそこにあったのだ。夢と現実の境目が。どうしようもない壁が。
そこにはあったのだ。
あの日と同じように、差し伸べられた手を取って、
「決まりだな」
あの日と同じように言う。
違うことがあるとすれば、それは・・・
「すまない・・・本当に・・・」
親友の表情だけだろう。
「・・・仕方ねぇよ」
そう、仕方がないのだ。
そこへ、
「当然よね‼」
その言葉同様、顔に当然と書いてある女が歩いてきていた。
「今までだって、散々だったんだから、これ以上なんて無理に決まってるじゃない‼」
腕を組み胸を張る姿は昔から変わらずにそこにあった。
「アンナ‼ そんな言い方はないだろう‼」
クライフが声を荒げるが、
「分かってるから、だからこんなことしたんでしょ⁉」
「それは・・・」
「それに、本人だって何も言わないじゃない‼」
きつく射殺すような視線が飛んでくる。
「まぁ・・・いい加減、な?」
仕方がないというのはそういうことなのだ。
夢を見ていられる程の実力がなく、それを追いかけていられる歳でもない。
「僕もそう思います」
「私もです」
と、さっきの決闘もどこかで見ていたのか。残りのパーティーメンバーまで集まってきてしまった。
「それでも・・・・・・俺はッ‼」
ここ数日のクライフはずっと苦しそうな顔をしていた。
きっと、さっきの戦いで俺に勝ってほしかったんだろう。
だからわざわざ俺に有利になるように、月のない夜を選んで、自分だけ酒を飲んで、人払いまで済ませて、武器や道具すべてを使いやすいようにまでしたんだろう。
それは多分、この旅を二人で始めたからで、自分から誘ったからで・・・
だからこそ、俺が言わなければならないのだ。
「俺は今日でこのパーティーを抜ける」
どこまでやれるかは分かりません。
軽い気持ちで投稿してしまいました。
反省はしていません




