童話・ボクはきらわれもの
ボクはみんなから嫌われている。
なぜかって?
暴れん坊で、うるさくて、みんなをいじめてばかりいるからさ。だってボクの個性なんだもの。しかたがないじゃないか。なおすことなんてできないし、それをしなくなったらボクはボクじゃなくなってしまうよ。
ボクは旅が大好き。だからいろんなところに遊びにいくよ。人間も動物も植物もボクは大好きなんだけど、ボクがやってくると、みんなすごく嫌な顔をして逃げていくんだ。
ボクはいろんなものを飛ばしてしまうから、なくし物をつくるし、道を汚す。木や花をワサワサ揺らして、葉っぱや花びらをたくさん落とすよ。枝も折れちゃって、砂ぼこりもたてるよ。みんなボクには近づけない。それでもボクは友達がほしくて旅をする。
さて、今日はなにして遊ぼうかな。
遠くに小さくて黒いものものがみえた。青い空を背にして飛んでいたのは、虫?いいや、鳥さんだ!海の上をたくさんの鳥が群れをなして飛んでいた。その中で群れの後方を小さい鳥が飛んでいて、その子はどんどん仲間から離れていく。
「キミは遅いね」
ボクは話しかけてみた。小さな鳥はこれまた小さな目をボクに向けて驚いていたけど、追いつくのに必死でそれどころじゃないみたい。
「ぼくたちは渡り鳥さ。隣の町へ飛んでいるところなんだけど、ぼくは小さいからいつも一番後ろを飛んでるんだ。彼らみたいに大きな羽じゃないし、なかなかスピードがでないんだよ」
そう早口で教えてくれた。
「それは大変だね」
「きみはカラダが軽そうだね」
「そうだよ!ボクはぴゅーぴゅーどこへでも飛んでいけるんだ!」
「いいなぁ…」
悲しそうな背中をみて、ボクはそうだ!と思い、小さな鳥の後ろから「ふーふー」と吹いてみた。そうしたら、とたんに小鳥はすいすい前に進んで、大きな羽をもった仲間に追いついたよ。
「わーありがとう!」
「うん!もっとおしてあげるよ!」
ふーふー、ぴゅーぴゅー
しだいに力がはいって「びゅーびゅー」と強く吹いてしまった。
「わー強すぎるよ!」
群れに追いついた小鳥と大きな渡り鳥たちはびっくりして、羽のコントロールがきかなくなってしまった。みんなてんでバラバラに散ってしまう。
「おい、お前!なんてやつを連れてきたんだ!」
「ごめんなさい」
小さな小鳥は大きな鳥に怒られてシクシク泣いてしまった。
「もうキミなんてきらいだ!あっちいってくれ」
小さな羽とたくさんの大きな羽に追いはらわれて、ボクはあわてて逃げた。背中を押してあげただけなのに、嫌われてしまったよ。
渡り鳥たちはぐんぐん遠ざかっていく。ボクはただそれを見送った。
ふと下を見ると、船が海に浮かんでいた。ふわふわと波に揺られているだけで、ちっとも前に進んでいなかった。
「あの船はなんで動かないんだろう?」
「エンジンが壊れてしまったからだよ」
そう教えてくれたのは、青い海から細長い鼻とつるりとした頭を出したイルカさん。つぶらな瞳がボクをみる。
「やぁイルカさん。船はエンジンが動かないとダメないのかい?」
「ああそうさ。船のエンジンが壊れて、直すこともできずに、ずっとああやってゆらゆら海に浮かんだままのさ」
「それは大変だ」
動かないなんて、ボクには考えられないことだった。
「進まなきゃ人間の住む陸へと帰れない」
イルカさんが心配そうにつぶやいた。
ボクは船に近づいてみた。小さな人間が船の上でいそいそと動き回っていた。おもむろに船体に布のようなものが広がった。
「あれは、なにをやっているのかな?」
「もしかしたら帆をはって、船を進めようとしているのかもしれないね」
「へぇ、賢いね!それならボクにも手伝える」
そういってボクは鳥さん達にしてあげたように、ふーふー、と船にむかって息を吹きかけた。そのとたん帆がぴんっと張って船が徐々に動き出した。
「すごい!すごい!これならエンジンがなくても進んでいけるね!」
イルカさんが喜んだ。船の周りを泳いでキューッキューッっと鳴いて応援している。小さな人間たちも、船が進む先を指差して笑っている。
ボクは得意になってもっと
ふーっ!ふーっ!
と吹いてみた。
「ちょっとちょっと危ないよ!」
イルカさんがボクを止めた。よく見れば先ほどの船が、ぐわんぐわんとかたむいて、今にもひっくり返りそうになっていた。
「わわっ!ごめんよ」
「君はずいぶん乱暴なやつだね。もう船には近づかないでくれ」
イルカさんに怒られてしまった。あんなに動き回っていた人間たちも今ではしっかりと船体につかまって、恐怖に顔を強ばらせている。もう誰も笑っていなかった。
「そんなつもりはなかったんだ。ごめんよ。さようなら」
ボクはまたひとりになった。
でも小さな人間たちが動いてるのを見るのは楽しかったな。あんなに小さな体をしているのに、みんなで力を合わせればなんでもできるだ。人間ってすごいや!もっと人間がたくさんいるところにいってみたいな。
そうだ!人間が住む町に遊びにいってみよう!島がある方へとボクはびゅーびゅーと海の上を走っていった。
島が見えてきた。陸に近づき、ボクは下をのぞいてみる。ボクは力が強いから、そっと、優しくね。緑が生いしげる木がたくさんあって、その向こうから、いい香りがしてきたよ。赤青黄色、花畑がボクをむかえた。ボクが通りすぎると、花は揺れ動いて、わさわさと、より色あざやかになった。なんてきれいなんだろう!色のないボクには、とってもまぶしい光景だった。ボクは楽しくなってもっと進んでいった。
ぐるぐる、びゅーびゅー
ボクはいっぱい歌って、おどって、走ってく。ボクのスピードは遅いときもあれば、速いときもあって、気分しだいでいろんなところに遊びにいけるんだ。みんな予想がつかないからこまるっていってるよ。ボクはみんなからうーんと離れたところの上からのぞいてる。町に近づくにつれて小さな人間が増えてきた。動物たちは逃げていく。みんなが慌てるのを眺めながら、ボクはゆらゆらと上空をたゆまっていた。
そんなとき少し先の空に、赤いものがみえた。ボクよりも先に町の上空にいるなんて、あれはなんだろう?
それはとても小さく、ふわふわと頼りなく飛んでいた。お月様ほど大きくないけれど、丸くて柔らかそう。月のおしりがちょっと欠けたくらいのおも長な丸みで、下の方にしっぽがついていた。知識が広かったら、ボクはそれがひもであったと気づいただろう。ゆらゆら、右へ左へあてもなく移動して、ボクはさわってみたくて近づいた。赤ってなんてきれいな色なんだ!それに強そうだ。ボクのいるお空は青か黒、白い雲のように静かな色ばかり。人間の住む町はたくさんの色があって面白い。こんなに近くで赤色をみたことがなかったから、ボクは嬉しくて話しかけてみた。
「ねぇねぇ!キミは、とってもきれいな色をしてるね!なんて名前なんだい?」
答える声はない。
うーん、しゃべれないのかな?
生き物ではないのかなぁ、お口もないし。ボクはそっとふれてみることにした。
そよそよ、ふわふわ、さわさわ、ふるふる
ボクが距離をつめると、丸い赤は逃げていってしまう。何度ためしてもだめだった。なんで逃げるんだろう?ボクのことをよく知らないはずなのに、もうボクのこと嫌いになっちゃったの?おどかさないようにゆっくり近づいて、優しく話しかけても、ボクとは反対の方へと逃げていく。
ああさわりたい!そしてお友だちになりたい!
ボクはどこにいっても嫌われものだから、やっぱりこのコからも嫌われてしまったのかな。それでもボクはこのコから目が離せなかった。だからせめて隣にいさせてね。みているだけでワクワクして楽しいんだ。
そしてボクはいろんな話をした。鳥さんに出会って飛ぶのを手伝ったこと、動けなくなった船を移動させてあげたこと、後方に広がるお花畑がとてもきれいだったことなど。
「それでね!鳥さんもイルカさんもお礼をいってくれたよ」
頼りになるところをみせたくて、失敗した話はしなかった。そして人間のことをもっと知りたくて、遠いところから遊びに来たことを伝えた。丸い赤色はなにも話さなかったけど、ボクは楽しかったんだ。
時がたつにつれて、あのコはしだいに元気がなくなっていった。どうしたの?ボクになにかできることはないかい?きいてみるけど反応はない。みるみる細くやせていってシワができ、どんどん人間のいる土地へと下降していく。
ああ、いかないでおくれ!もっと一緒にいたいよ!
ボクのコトバは届かない。赤色はとうとう見えなくなってしまった。そうか、キミの帰る場所は人間のところなんだね。一緒にいたかったけど、きらわれもののボクじゃ助けることもできなかったし、最後まで仲良くできないままお別れになった。さようなら、またいつか会えるといいな。
ボクはまた空を移動する。力をいっぱいつかってぐんぐん飛んでいく。
なにもいない空は、自由だもんね!
ひとり遊びに飽きたころ、声がきこえてきた。
シクシク、ポロポロ、シトシト
なんの声だろう?きいたことがある声だ。
ふと先をみると、灰色の雲のかたまりがボクの前をふさいでいた。
雨雲さんだ!
どんよりさびしそう。
「どうして泣いているの?」
「みんながワタシのことを嫌うから」
「なぜ嫌われてるんだい?」
「ワタシはみんなをびしょびしょに濡らすから。大地にとっては必要なことなのに、人間は濡れるのが嫌いなのよ」
「そうなんだ。でもボクと一緒にいれば大丈夫!ボクは力が強いんだ!キミを悲しませることはさせないよ」
「ありがとう」
一緒になったボクたちはさらに力が湧いてきた。無口な雨雲さんを連れて旅を続けた。
そんな旅が続くと、どうしても下の人間が気になってしかたがない。そっと近づいて話しかけてみた。今度はひとりじゃないから大丈夫かな?
ぴゅーぴゅー
遊びましょう
やさしく話しかけてみたけどダメだった。人間は怖がってボクから逃げていく。そんな中、小さな男の子を見つけたよ。お話してみたくて追いかけて、おいでおいでするとね、傘を持った男の子はいそいで箱の中に入っていっちゃった。そこは四角い壁に囲まれていて、上には青い三角屋根がついている。その箱はおうちといって、その中には家族がいるんだって、雨雲さんが小さな声で、シトシトと、教えてくれたよ。男の子にはお父さんとお母さんがいて、明かりを灯したおうちの中はあたたかそう。透明なガラスの窓からボクはのぞいてみる。トントンってドアを叩くと、お父さんが鍵を閉めちゃった。カタカタって窓を叩くと、お母さんがカーテンを引いてのぞけないようにしちゃったよ。つまんないの。ボクはそのおうちの周りをぐるぐる回ってお庭をかけてひとり遊び。どんなに話しかけても相手にしてくれないから、今度は隣のおうちのドアや窓を叩いてみる。
ぴゅーぴゅー
ごーごー
びゅるびゅる
どこのおうちも誰も出てきてくれなくて、外に置いてあったサッカーボールを勝手に飛ばして遊んじゃう。ずっと先の公園へ転がっていったけど、戻し方を知らないボクはそのままにした。ボクのあしあとはいつもぐちゃぐちゃで、木や花は折れて、葉っぱもたくさん落ちちゃった。動き回っていっぱい汗をかいたから、辺りはびしょびしょになって、小さい水たまりと大きい水たまりがたくさんできて、黒い雲がのぞいている。無口な雨雲さんはいつも静かによりそっている。ボクたちは一緒になってから、どんどんからだが大きくなった。だから窓にも水たまりにも、姿をうつしきることはできないんだ。人がみんなで手を繋いでも、つかまえることなんてできないよ。あたり一面をおおうくらい、ボクたちのからだはすっごく大きいから、お昼の時間でも影をつくって夜をつくるんだ。すごいでしょ?
雨雲さんを寄りそわせたボクは旅を続けた。
どのくらいの距離を走っただろうか。
ふと遠くの山が赤くなっているのがみえた。それはメラメラと真っ黒な煙と赤い火が山を這うように、なめるように動き、いじめていた。山から悲鳴がきこえた。
「山火事だわ!」
雨雲さんが驚いて叫んだ。
「熱いよ!痛いよ!」
緑いっぱいだった山が燃えて叫んでいた。火が通りすぎたところは、真っ黒い灰になっていて、あたりをモクモクと黒い煙が立ち上ぼり目隠しをする。
「かわいそうに、山が泣いているわ」
「わかるの?」
「そうよ。山だって泣くことがあるわ。火が痛みとなって傷を負わせてるの」
「かわいそうだね。ボクはなにかできないかな?」
「ワタシがなぐさめてさしあげましょう」
「いっちゃうのかい?」
「えぇ、ワタシは泣いている山のそばへいくわ。あなたは来ないほうがいいわね」
「どうして?」
「あなたは力が強いんだもの。きっと山をさらに傷つけてしまうわ。そうなったら取り返しがつかない。だからけしてワタシたちには近づかないで」
無口だった雨雲さんの強い口調にボクは突き放されてしまった。仕方がないよね。ボクは乱暴ものでみんなを悲しませてしまうんだから。
「一緒に旅ができて楽しかったわ、さようなら」
「うん、わかったよ…さようなら」
雨雲さんはまっすぐ燃えている山へと降りていった。真っ赤だった山に雨霧が落ちる。しだいにそれは白煙になって空へ舞い上がった。手を伸ばし、からめ合うように広がって、どちらの泣き声ともわからない、パラパラという響きを鳴らして、静かに消えていった。まるで眠りにつくように。
雨雲さんはすごいな!山をなぐさめることができるなんて。優しい雨雲さんみたいに、ボクもなれないかな?
ボクはまたひとりになった。雨雲さんたちから遠ざかるように、ボクはいきおいよく飛んでいった。痛々しい山肌からいつもの緑のよくこえた豊かな山並みがみえてきた。少し先には人の住む町があって、ふさふさと波打つように揺れる稲穂の連ねた平野は、田園地帯。建物もいくつかみえる。人の作る風景の美しさにみとれ、ふらりとそちらに向かおうとしたとき、下の方から声が聞こえてきた。
「あー困った、困った。どうしたもんかなぁ。目が痛くてかなわんよ。いつまで続くんだ?あいつをたおせるものはいないものかのう」
声の主は黒いクマだった。体は大きく、丸っこい。目をショボショボさせて、のしのしと怠慢に動き、山をうろついていた。
「どうしたの?」
そのクマの切実をはらんだ声に、ボクは思わず声をかけてしまった。
「おー!なんだお前さんは、空から来たのかい?」
「そうだよ。さっきから困った困ったって、なにが困ったんだい?」
「実はえんとつからのぼる煙が目に染みて痛いのだよ。ここに住む動物はみんな目を赤くして涙をながしてるんだ。それに木や花も植物だって、臭い煙を浴びて、のびのび成長できずに苦しんでる。あのえんとつから立ちのぼる煙をなんとか止める手だてはないものかと考えていたんだよ」
「えんとつ?」
「そう、あそこに立つ3つのえんとつから煙が出てるのが見えるだろ?」
そういわれて山のふもとから遠くをのぞくと、田園地帯の先に丸い筒の棒が平均間隔で3本立って並んでいるのがみえた。それはとても大きく固そうで、ボクが通りすぎただけではびくともしない。その横を同じ高さで鳥が飛んでいた。
「あのえんとつができてから、ここいらの環境は変わってしまった。煙は臭いし、目も痛くてしみる。空気は汚くなって、植物も弱ってるし僕たち森に住む動物もみんな迷惑してるんだ」
「どうにかできないの?」
「あれは頑丈で僕たちじゃどうにも動かせないよ」
「きみの手や足は太くて強そうだけど?」
「いや、僕の力じゃびくともしない」
「そんなにあのえんとつは強いんだ」
「ああ、困った困った。なぁ君、アレを動かせる強いやつを知らないかい?」
「うーん、知らないことはないけど…」
「なんだ!知ってるのか!教えておくれ、そいつはどこだ」
ボクは迷った。ボクがみんなのためにしようとすると、いつも失敗して彼らを困らせてばかりいたから、今度もそうなるんじゃないかと思っていた。あのえんとつは強そうだけど、ボクだってきっと負けてない。いろんなところを旅してきたけど、ボクは一度も力で負けたことがないんだ。
できることと、助けたいことは同じじゃない。今までの旅でボクが学んだことだ。去っていった雨雲さんだって、山火事を退治してたけど、それまで泣いてばかりで弱そうだった。なのにすぐに声を上げ、そのときばかりはとても頼もしくみえた。みんなから嫌われていたはずの雨雲さんとボクとでは、何が違うのかな?今わかることは雨雲さんはみんなから嫌われていなかったということだ。好きになってもらうには、ボクを必要としてるところにいくしかないのかもしれない。
「ねぇクマさん、きみはボクのことが必要かい?」
「なんでそんなことを聞くんだい?」
「ボクならきっとあのえんとつを倒すことができるよ」
「本当かい!」
「うん、もし倒したら友達になってくれるかい?」
「もちろんだよ!」
クマさんは喜んだ。
「僕たちのためにあのえんとつを倒しておくれ!」
「まかせてよ!」
ボクはえんとつのそばへ行って、息を思いっきりそいつらにむけて吹いた。
びゅーびゅー、ゴォーゴォー
今までで一番強く吹いた。はじめは振動するだけで、灰色の筒はぶるぶるいっていたけど、ボクがびゅーびゅーくり返すうちに、しだいにぐらぐらしはじめた。まずは一番近いえんとつが根元からポッキリと折れた。それにつられて隣のえんとつも一緒にガラガラと崩れていった。最後の一本、と思っていたら人間がたくさんでてきた。こんなに近くに人間がいただなんて知らなかったよ。彼らはえんとつを守るように、梯子や補強をしはじめて、えんとつを守っていた。小さな人たちの小さな抵抗は、呆気なくボクの一吹きで崩れ去った。人間は集まればなんでもできるんだ、と思っていたボクは、彼らの努力を台無しにした。クマさんはなにも言ってなかった。でもそれはクマさんのせいじゃない。ボクは自分の力が強いことを知っていて、それを利用した。いつも嫌われてばかりだったから、頼られてすごく嬉しかったんだ。だからクマさんの言葉をそのまま受けとって、そのまま実行した。そのえんとつがなんのためにあるのか、誰が必要としてるのか考えることもしなくて。このえんとつは人間たちにとって必要なものだけど、森に住む動物や植物には必要のないもの。ボクのやったことは人間たちを悲しませて困らせることだった。
つかわない、という選択を考えもせずに。
クマさんたちには「ありがとう」と感謝されたけど、友達になることも忘れてボクはボクの知らないところへいくことにした。なんだか心にスースーとすきまができて、飛ぶ力も踊る気力もわかなくて、ボクは弱くふらふらと空を漂うものになった。
これがさびしいってことなのかな。
なんだかつかれちゃった。そろそろ空に帰ろうかな…
そうだ!空の仲間を紹介するよ。
ボクの憧れの、太陽くん。
太陽くんはね、いつもボクのずっと上を浮かんでる。ボクにもあそこまで昇ることはできないよ。もしかしたらボクよりずっと強いのかも。かくれんぼをしたら太陽くんの勝ちさ。誰よりも大きな山の後ろに、太陽くんが隠れたら、もうみつけられない。なんだかずるいよね。でもね追いかけっこなら負けないよ。太陽くんが昇るころにはボクはもう逃げたあと。逃げ足は早いんだ。
太陽くんはみんなの人気もの。同じお空にすんでるのに不思議だね。みんな太陽くんに会いたくて上を向く。なのにボクが太陽くんの邪魔をするから、みんな不満そうな顔をして、下ばかり見るようになる。雨が降れば足元を、曇りの日には明るい室内へ、まるで心を閉じてるみたいだ。みんなボクにも背中を向ける。
太陽くんが姿を表すとみんな喜んでお外に出てきて手をのばす。動物も植物も人間も楽しそうに動きだす。たくさんのひとが笑ってる。いいなぁ。ボクもいつかあんなふうにみんなを笑わせてあげたいな。
あーあ、もう時間だからいかないと。けっきょく友達もできなかったし、だれも遊んでくれなかったな。お空に帰ってまた元気になって戻ってくるよ。そのときこそは、みんなボクと遊んでね。
それじゃ、さようなら。
*
わたしたちは、力の弱い植物です。種はわたしのこどもたち。無力で弱いあの子たちは、あなた様が吹いて飛ばしてくれたことで、生きのびることができました。
ほんとうに、ありがとう。
あのかたはどこへ?
あら?感謝を伝えたい相手はもういないのね。
さぁこどもたち、起きる時間よ。おはようして、からだをいっぱい広げて遊びなさい。今度こそカレに会ったら、お礼をいえるといいわね。色あざやかな笑顔でお迎えいたしましょう。それがわたしたちの個性で、愛される理由なのだから。
さらさらと、なにかがとおりすぎる。
朝夕に凪を導き、土をさらい、花たちをなでる。葉が重なり、ささやき、笑っていた。巻き立つひびきを空へよこし、きらわれものを呼び寄せる吹き笛になった。
ぴゅーぴゅー
ねぇ、遊ぼうよ…
~おわり~
読了ありがとうございました。
ボクとの空の旅はいかがでしたか?
少しでもお心がホッとできる物語になっていることを願っています。またどこかでお会いいたしましょう。




