プロローグ
人生はいくつもの分岐点が存在する。高校から大学へ進学、あるいは就職。これは分岐点と呼べるだろう。
会社を退職して新たな人生を歩む。これもまた分岐点。
分岐点というのは木の枝のように多数存在する。一つ間違えれば地獄、正しければ天国と言っても過言ではない分岐点もあるかもしれない。そして、そこから生み出される星の数ほどの物語。
そして今もまた一人の少年がその分岐点の中にいた。彼が天国へと行くのか、地獄へ行くのか、それは分からない。
だが、だからこそ人生とは楽しいものなのである。
微かに目に掛かるほどの前髪に、後ろは肩に掛かるか掛からないかぐらいの黒髪の少年。
―彼の名は、清水隼人。中学三年生である。
今、彼は悩んでいた。高校に進学するか、それとも家業を継ぐのかだ。
彼の家は先代から続く飲食店を営んでいる。それこそ何処にでもありそうな飲食店だが、昔からの常連客などが数多くいるため、そこそこ儲かっている。
小さい頃から父親の背中を見てきた隼人は料理の勉強をして、店を継ぐだけの力はある。だが、高校生活というのもまた経験したい魅力的な人生。彼は本当に悩んでいた。
ここからは主人公の視点で話を進めることにしよう。
進路室で悩んでいた俺は近づいてくる人の気配に全く気付かなかった。
「よう、隼人。進路は決まったのか?」
いきなり声を掛けられた俺は椅子から落ちそうになった。
「相変わらず大袈裟なリアクションだな」
苦笑しながら落ちそうになっている俺の腕を掴んで阻止してくれた。
「ありがとう。お前には心配かけるな…」
「心配なんかこれぽっちもしていないさ」
指と指の隙間を広げてみせ、ジェスチャーしてきた。当然、それは彼の気遣いだということは既に理解している。
ちなみに、敦は高校に進学だ。 ここらでは有名な女子校だったが、三、四年前に共学になった。女好きの敦にとってはパラダイスのような場所だ。当然、その高校に決めた理由は女子が多いから、だということは言うまでもないだろう。まったく、そのような不純な理由で良く進学を認めたものだ、と担任と敦の親に言いたい。
「冗談抜きで、高校生活は送っといたほうがいいぜ。人生でたった一度限りなんだからよ」
「まぁ…な」
時に正論を唱える敦は、長年付き合っている俺でも苦笑を漏らしてしまう。
「確かに家を継ぐのは高校卒業してからでも遅くないしな」
「だろ、だろ!だから俺と一緒にパラダイス人生を送ろうぜ」
何故か進学する高校が敦と一緒になっている。俺は一言も同じ学校に行くなど言っていないぞ。
「よし、俺とお前で聖フィアル学園の女子を虜にしよう!だから何故そうなる!?
聖フィアル学園とは敦が進学する高校だ。
「俺とお前なら出来る!」
その自信と根拠は一体何処から出てくるのやら。それ以前に俺は聖フィアル学園に進学するのは決定事項なのか!?
「当たり前だ!」
だから何でお前が決めるんだ…。
「親友だからだ!」
「無理矢理だな…おい…」
無理矢理な理屈で、無理矢理に進路のプリントに進学、そして進学先を書かされた。
「本当にこれでよかったのだろうか…」
プリントが担任の手に渡り終えるまでその気持ちで一杯だった。だが担任に提出してしまった以上、訂正はできない。何故ならこの学校は担任が絶対からである。反感すればどうなるのか、…考えるだけで鳥肌がたつ。
そんなグダグダ感を出しながら俺の進路は決まった。
だが、それが俺の人生の波乱の幕開けになるとは、その時は知る由もなかった。