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PTSDトラウマン!!

作者: Taka
掲載日:2019/04/29

むしゃくしゃしてやった。今は反省してる。




 やぁ、おはよう諸君。私の名前はトラウマンだ。

 さて、何を隠そう私は世界の平和を守るため、日夜、悪の組織と戦っているのだ。その憎むべき悪の組織の名前は『フゥ帝国』。奴らのせいで街の人々が眠れぬ夜に怯えているのだ。


 「あぁ、あれね。ていうかあれ撮影じゃないんだ…」


 「いつもいい大人たちが騒いで。もう少し落ち着いてほしいですよね」


 「今このご時世でしょ?昔は許されてかも知れないけど、今は、ねぇ?」


 などと、街の人たちの恐怖がヒシヒシと伝わってくるようではないか。

 そういえば、先日もこのようなビラがポストに投函されていたのだ。



幹部候補募集!!!


 我々『フゥ帝国』は常により良い人材を求めている。ブラック企業で泣いている君も、時間を持て余しているそこのあなたも!!

 是非我々の大いなる意思の礎となって貰いたい。

無論我々の目的、世界征服を達成した暁には充分に見合う対価を支払うつもりだ。

さぁ、意思強き者どもよ。今こそ我らと共に立ち上がれ!!



待遇   契約社員(幹部候補から幹部に登用後、正社員となります)


勤務地  〇〇市


勤務体系 1週間ごとのシフト性(夜勤は原則ありません)

     年間休日 115日以上(GW、お盆、正月休みあり)


給与   初任給160,000から (経験者は230,000から)


福利厚生 昇給 1回(4月)

賞与 2回(6月、11月)  

交通費全額支給。社保完備。労働組合有。

 アルバイト随時募集(時給900円から)



 考えてみて欲しい。このような物が早朝家のポストに投函されているのだ。街の人達はきっと部屋の隅で怯えていた事だろう!!

これがその街の声だ!!!


「…意外とホワイトなんだ…」


「俺、行こうかな?」


「年間休日もう少し欲しいよね」


分かる、分かるぞ!!皆の嘆きが、苦しみが!!!こうしてはおれん。一刻も早く奴らを潰すためにパトロールに出かけなければ。では行くぞ!!とう!!




 「田中(仮名)さん。居るんでしょ」


 老婆がどんどんとドアを叩く。だが反応は無い。溜息を吐くと持っていた合鍵でドアを開け、中に入る。誰もいない。もぬけの殻だ。


 「あの野郎!!いい加減家賃を払え!!!」


 ハハハ。許せ、老婆よ。世界平和を守るためには犠牲は付き物なのだ。トラウマ号(ママチャリ)からチリンチリンとベルが鳴った。



  街のとある公園。そこに怪人がいた。海老の様な安っぽい着ぐるみを着た二本足の怪人だ。

 「ぎしゃああぁああ!!!」

 うなる様に人を恐怖に陥れる雄たけびを上げる。くそ、もう奴らが活動を始めていたか。くっ、果たして私は間に合うか?


 「…奥さん、あれ何?」


 「あぁ、最近やってる何かの撮影じゃない?」


 「随分安っぽいわね…」


 公園の奥様方の視線に恐怖が宿っているのが分かる。急がねばならない。


 「……もう嫌だぁ!!」


 突然海老の怪人が叫んだ。おぉ、彼は正義に目覚めたのか。

 着ぐるみを脱げば、中から青年が現れた。彼は正義による奇跡で人の姿を手に入れたのだ。


 「社長!!俺もう辞めます!!」


 「待て!怪人エビール!!いや広瀬君!!君が辞めたら誰がエビールになるのだ!?」


 「知りませんよ!!ってうか名前で呼ぶな!!」


 そう言い残し、広瀬君は去って行った。しかし何たる幸運か。ここにフゥ帝国総帥タケーメがいるとは!!


 「そこまでだ!!タケーメ!!」


 「その声は…!?」


公園の外、トラウマ号(ママチャリ)から私は降りて叫んだ。この公園は自転車進入禁止なのだ。

しっかりと施錠を確認。よし、行くぞ!!


 「トラウマックル。セット!!変身!!」


 説明しよう!!私トラウマンは腰に装着したベルト『トラウマックル』の力により真の戦士P(パーフェクト)T(トラウマ)S(ソルジャー)D(ダイナミック)トラウマンに変身するのだ。無論大きな力を得るには対価が必要。その対価とはまさに私のトラウマなのだ。

 フフ。そんな心配な目で私を見ることは無い。世界平和のためには犠牲は付き物なのだ。その犠牲が私のトラウマであるということだけだ。

過去のトラウマが私を強くする。さぁ、そのトラウマとは。


「やーい、やーい。田中(仮名)の家貧乏」


これは私の幼少期の記憶か。


「へっへ。コイツの家貧乏だから肉も食べられないんだろ」


「そんなことないやい!!」


「いいだろー。今日の俺の夕ご飯ステーキだぜ」「俺もー」「俺唐揚げー」


そうだ。私は彼等に対抗するためにこう言ったのだ。


「俺ん家今日はソーセージチャーハンだ!!!」


 そして先生が私の肩に手を置き、悲しげな表情で見つめたのだ。


 「田中(仮名)君。ソーセージはね……」









 ―魚肉なのよ―。







 イヤアアァアアァアアァア!!!!!


 それは私の悲鳴か、ベルトの音か。ともかく私の心を揺さぶられるようなトラウマによって、私は変身が完了したのだ。


 「くっ、来たな。トラウマン!!」


 全身白のスーツに身を包み、白のマントをなびかせる。まさしく正義を執行する大いなる力、トラウマンだ!!!


 「今日こそフゥ帝国に引導を渡してやる。来い、タケーメ!!」


 「調子に乗るなよ。小童が!!出でよ戦闘員!!」


 指をぱちんと鳴らしたかったのだろうか。しかし鳴らない。当然戦闘員も現れない。

これはチャンスだ!!


 「おのれ!!もうよい!!」


 指を鳴らすのを諦めたのか、今度は手を打ち鳴らした。戦闘員が来るのか!?

だが現れたのは一人だ。


 「ええい。他の者はどうした!?」


 「いや、広瀬君と皆帰りましたよ」


 俺も帰るんで。失礼します。と最後の戦闘員も去って行った。これは…

皆が悪の虚しさに気付いたに違いない。ならば今こそこの技を放つ時だ!!


 「喰らえ!!我が奥義。トラウマビッグバン!!」


 渾身の力と思い(トラウマ)を拳に籠め、タケーメを打つ!!


 「これで終わりだ……」







 ―父さん。







その呟きは果たして聞こえたのかだろうか。


 「見事だ…」


 ばたりと倒れた。それはフゥ帝国の最後を意味するのだ。私の胸に去来するこの思いは何なのか。

 しかし安心はできない。また第二第三のフゥ帝国が現れないとも限らないのだ。だが今はひと時の平和を噛みしめよう。

 夕日と共に去る私を街の人達は悲し気な視線を送る。


 「これ片付けて欲しいわよね」


 「っていうか何なのこれ?」


 「ねぇママー」「これ、近づいちゃいけません」


 こうしてトラウマンの戦いはひとまずの終焉を迎えたのだ。



 だが―。




 「くっくっくっ。そっちがその気ならこっちにも考えがあるよ」


 薄暗い闇の中。老婆の口の端が持ち上がった。


 ―家賃。払ってもらうよ


 それは新たな戦いの予兆だった。




                                        ―続かない―


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