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3・王子様と私(※赤の他人です)

「王家の男は魔女に呪われているんだ」





 私は廊下を歩いていた。


 後ろから肩をトントンと叩かれる。


 振り返ったら満面の笑顔の美男子が立っていて、上記のセリフを言い放った。





「…………は?」





 まさか挨拶もすっ飛ばしてくるとは思わなかったわ。こいつ、やりよる。








 ★ ★ ★ ★ ★








 仕方なく、本当に仕方がなく、私は話を聞くために談話室へと入った。


 目の前には美男子こと、我が国の王子様がニコニコと笑って座っている。遂に対峙する時が来てしまったのだ。





「忙しんで、簡潔にお願いします」


「ちょ、おま、殿下に向かって…!」


「下っ端Aはお茶。熱いの苦手だからちょっと温めで。下っ端Bはお菓子。今日の気分はレモンタルト、クリーム大盛り。下っ端Cは購買でパン買ってきて」


「コイツ、ここぞとばかりに遠慮なく要求を突き付けてくるぞ!?」


「レモンタルトって学園内で売ってないだろ!?」


「いや、茶と菓子はともかく、パンは全くいらなくないか!? もう放課後なのに!」





 下っ端共は今日も煩い。基本はスルーで、王子の顔を見る。





「…今日は随分と血色がいいですね。レバーでも食べましたか?」


「レバーより、君からの贈り物のお陰だと思うよ」


「贈り物?」





 何も上げた覚えなどないのだが。


 首を傾げれば、王子は優雅に微笑んで大きな袋を持ち上げた。








「君が私に贈ってくれた『幸せになれる白い粉』のお陰だよ」


「塩って言いましょうか」








 誤解を招く言い方は止めて欲しい。





「ありがとう。これのお陰で毎日何の憂いもなく過ごすことが出来ている。もう私はこの白い粉が無ければ生きていける気がしないよ」


「わざとですか? わざとですよね?」





 私がヤバい粉のバイヤーのような言い方をするのは止めろ。


 風評被害待ったなしだ。父は別にいいが、義母と可愛い私の天使(義弟)に迷惑が掛かったらどうしてくれる。


 ジロリと睨んでも、ニコニコ笑うだけ。初めてまともに顔を合わせたが、何だか得体の知れない何かがある。関わったら絶対ダメな奴だ。


 私は無言で立ち上がった。








「じゃ、あっしはこの辺で!」


「待て、逃げるな除霊係!」








 下っ端Cが私をサスマタで止める。


 ちょっと待て。うら若き乙女、それも貴族令嬢に対してこの扱いは何だ。訴えるぞ。





「だってお前、近づいて止めようとすると力技で押し通るだろう?」


「エスパーかよ」


「本気でやる気だったのか!?」





 仕方なく、本当に仕方なく私は席に戻る。





「とりあえず、初めまして。私は…」


「あ、知ってます」


「そ、そうか。知っているのか…そうか…」





 何故か王子が嬉しそうだ。


 勿論、知っている。





「いつも取り憑かれてる人ですよね?」


「ま、まぁ、それで合ってるが…そうか、それくらいの認識なのか…」


「殿下! その程度で凹んでいてはこの女とは付き合えませんよ! しっかり!」





 今度は何故か凹んでいるが、知った事ではないので話を進める。私は早く帰りたいのだ。早く帰って天使の泥遊びに付き合わねばならないのだから。





「それで殿下。先ほど、非常に聞きたくない裏事情を耳に挟んでしまったのですが、知りたくないので、聞かなかった事にしても宜しいですね?」


「宜しくないだろ。聞けよ」


「いや…っ! そんな言葉、聞きたくない…!」


「こんなに嫌がっているのだ。可哀想だし、彼女の言う通りにしてあげたらどうだろう?」


「誰の為にやってると思ってるんですか! 殿下、しっかりして下さい! ここで諦めたら、現実的に生涯独身ですよ!」


「う、うん、そうだった…ちゃんと説明しよう」





 殿下は下っ端に説得され、申し訳なさそうに私に話し始めた。いや、話さなくても良かったのだけれど。何説得されてるんだ。もっと粘れよ。





「先ほども言ったが…王家の男は魔女に呪われている。全ての始まりは初代王の頃に遡る―――」








 初代王は非常に優秀な美男子だった。


 相思相愛の王妃と共に、国の為に尽力していたのだが、ある日、その美男子ぶりが魔女の目に留まってしまう。


 王に一目惚れした魔女は、王に自分の恋人になる様に言ったが、王はアッサリと断った。








「伝わっている話によると、生理的に無理だったらしい」


「生理的に」








 魔女は怒り悲しみ、王に呪いをかける。


 しかし、王は愛する王妃と共にその呪いを無効化する事に成功した。








「何でも初代王は『痛みが快楽へと変わってしまう呪い』を掛けられたらしいのだが、王妃が頑張って王の性癖に合わせて事なきを得たとか」


「今、何て?」








 だが、王家への不幸はこれに止まらない。


 魔女は王家に男が生まれる度にやって来ては呪いをかけていった。








「どうも王家の男の顔が魔女の好みらしい。だが、王家の男は誰一人として魔女を受け入れなかった」


「誰一人として」


「私の元にも魔女はきたが私も断った。どうしても無理だった。十三の時の事だ。最早、遺伝子レベルで嫌なのだろうな」


「遺伝子レベルで」








『スミマセン、無理です』


『ごめんなさい。好みとはかけ離れているんです』


『妥協も出来ないほど無理だ』


『無理の極み』


『最早、笑止』


『帰って。どうぞ』





 王家の男は誰一人として魔女を受け入れない。


 妃がいるからだ、婚約者がいるからだ。


 色々考えて、魔女がやって来るタイミングはどんどん早くなった。けれど―――








「そういう問題じゃなかった。無理なものは無理だったのだ」


「無理なものは無理だった」








 魔女は嘆き悲しみ、王家の男達に呪いをかけ続けた。








「あるものは『幼い少女しか愛せなくなり』、あるものは『男性しか愛せなくなり』、又あるものは『昆虫にしか愛情を感じなくなった』」


「今、何て?」


「幸いな事に呪いは外見のみが対象だったので、幼女しか愛せなかった王は幼女のような見た目の女性と出逢い、男しか愛せなくなった王は男よりも男らしい女性と出逢い、昆虫しか愛せなくなった王は昆虫に激似の女性と出会うことが出来たから事なきを得た」


「最後の詳しく」





 壮絶な話を聞きながら、私は夕飯の事を考える。


 今日の夕飯は、義母が特製オムライスを作ってくれると言っていた。ソースはケチャップかデミグラスか…





「とても悩ましいですね」


「分かってくれるか」





 いや、ごめん。話聞いてなかった。





「私は初代王に似ているらしい。その為か、念入りに掛けられた呪いは『生身の女性に魅力を感じなくなる事』、『誘惑に対して耐性が皆無になる事』だ」


「ああ、それが悪霊ハーレムに繋がるのですか」


「あ、悪霊ハーレム…ま、まぁ、そうだな」





 王子は苦笑を浮かべる。





「私から見ると生身の女性は姿がぼやけていてよく分からないのだ。けれど、魂のみの存在はとてもはっきりと美しく見える。それでつい見てしまうと、あっという間に魅入られてしまうようで…気が付けば憑りつかれているようだ」


「ご愁傷様です」


「けれど、君は…はっきりと見えたんだ。いつも女性はぼやけているのに」





 そう言ってはにかむ王子。


 私は押し黙った。押し黙った私の後ろで、昔の家族たちがケラケラと笑っている。





『そりゃよく見えるだろうさ。そもそも普段ぼやけるのは、霊が視界を遮っているからなんだからな』


『言霊の巫女を前に、霊は怯えて道を開ける。だから、この子は良く見えるのさ』





 いらん説明をありがとう。


 私にはカラクリが分かったが、とりあえず誤魔化そう。





「偶然だと思います」


「いや、君が私に白い粉をくれた日から悪霊は私に近づけなくなったのだ。君と白い粉のお陰だ」


「塩って言えや」





 白い粉は止めろ。





「魅了されている間の記憶は曖昧なのだが、君はいつも私の為に尽力してくれていたと聞く。ありがとう。どうか、これからも力を貸して欲しい」


「前向きに検討して、精一杯善処させて頂きます」


「凄く丁寧に断ってないか、お前」





 下っ端が余計な事を言ったが、ニッコリ笑っておいた。


 何故か、王子と下っ端の顔が赤くなる。何でだ。風邪か。





「では、この辺で…」


「ああ、引き留めてすまなかった。では又」


「さようなら、殿下」





 次の約束はしないでさっさと立ち去る。


 廊下へ出ようとした時、殿下が呼び止めた。





「一つ言い忘れていた事があった。」





 やめろ。いうな。聞くなと私の勘が言っている。











「魔女は筋骨隆々で青髭で顎が二股に分かれた『男』だ」





 それ魔女じゃなくて『魔男』じゃね?


 呼んで字のごとく『まおとこ』。誰が上手く言えと。


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