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2・王子様はトラブルメーカー(※割と不憫)

「除霊係。我々と一緒に来てもらおうか」


「人違いです」





 私は怪訝そうな顔をして、首を傾げる。


 私のこの反応は当然の事だ。私はそんなよく分からない係についた覚えはないのだから。








 ★ ★ ★ ★ ★








 人の迷惑を顧みず、堂々と道を塞ぐ障害物に向かって私は堂々と言った。





「どなたかとお間違いじゃないですか?」


「お前以外に誰もいないだろ、除霊係」


「ちょっとよく分かりませんね。私、急いでますので」


「逃がすと思うのか。殿下が大変なんだ。一緒に来てもらう」





 令嬢は、王子の下っ端A、B、Cに囲まれた。





   戦う。


   逃げる。


 → 先制パンチ。





 令嬢の先制パンチ。


 令嬢は下っ端Aを倒した。(たらららったったー)





「って、おいいいいい!? しっかりしろぉぉぉぉ!」


「お前、いきなり何やってるんだ!? 普通、いきなり殴るか!? どこの野蛮人だよ、お前は!」


「だって、早くしないとお昼ごはん食べ損ねるし…私だってこんな事、したくなかった…っ!」


「何でコイツ、被害者ぶってるの!? 何で加害者なのに被害者ぶってんの!?」





 今日も無能という名の王子の取り巻きはギャアギャア煩い。


 余りにも煩いから、仕方がなくついて行ってあげる事にした。





「全くもう忙しいのに…五分だけですからね!」


「騎士団長の息子をワンパンで昏倒させて、宰相の息子をパン買いに走らせてる癖に、更に上から目線とか…畜生、殿下があんなじゃなければ、オレだって…」


「殿下って、まさか『アレ』の事ですか?」





 ブツブツ言っている男を無視して、指をさす。


 そこには王子がいる筈だった。








 目の前にあるのは、真っ黒な靄で覆われている何かである。








「――――12時12分」


「おい、時間を確認して、手を合わせるな! まだ生きてる! まだ生きてる筈だから、諦めずに何とかして下さいお願いします!」





 ついに土下座された。いや、毎日のようにされている訳なので、別にありがたみもないけども。





「凄いわぁ。何がどうなったら、ここまで取り憑かれるの? 凄い不思議」


「感心してないで、どうにかしてくれ! 朝はまだ姿が見えたのに、昼にはこの有様だ! オレでもこの状態がまずいという事は何となく分かる!」


「うーん、そうだなぁ。このままだと、あぶれた奴が近くの人間に取り憑き放題だもんねぇ」





 私がそう言った途端、近くにいた生徒たちが蜘蛛の子を散らすように悲鳴を上げて逃げていく。


 泡を吹いて倒れている令嬢も、誰か運んであげて下さい。





「どうにかねぇ」





 私は溜息を吐いて、黒い塊の周りに盛り塩をしていく。


 四方を盛り塩で囲み、やれやれと首を振った。





「これで大丈夫だよ」


「本当か?」


「本当本当」





 私は軽く頷いて、息を切らしてパンを運んできた下っ端Bからパンの袋を受け取る。





「あ、代金は下っ端Cから貰って」


「誰が下っ端Cだ。オレは…」


「あ、関わりたくないので結構です」


「せめて名乗らせろよ!」





 私はパンを片手にその場を去った。











 ――――放課後。











「おい、除霊マシーン! どういうことだ!?」


「人違いです」





 私は怪訝そうな顔をして、首を傾げる。


 私のこの反応は当然の事だ。私は人間を辞めた覚えはないのだから。





「お前以外に誰がいる!? 殿下が全く元に戻らないぞ!? 大丈夫だと言ったのは嘘か!?」


「いや? ちゃんとやったけど」





 そう、私はちゃんと処置した。








「ちゃんと他の人が憑りつかれないように、盛り塩で悪霊を閉じ込めたでしょ?」


「殿下も一緒に閉じ込めてどうするんだ!? バカなの!?」








 下っ端たちが叫ぶように私の名誉を棄損してくるので、ムッとする。





「殿下を戻してほしかったの? それをちゃんと言わないから」


「言わなくても明らかだろ!? 明らかに面倒くさいから無視しただろ!?」


「エスパーかよ」


「せめて否定しろぉぉぉぉぉぉぉ!!」





 放課後も王子の腰巾着共は煩い。





「でも、私、忙しいんだよね。今日は早く家に帰って義弟という名の天使と綺麗な葉っぱを集めなきゃいけないから、明日でもいい?」


「いい訳あるか!」


「今すぐ何とかしてくれ!」


「お願いします! どうかお願いしますぅぅぅぅ!」





 ついに泣きが入りながらの五体投地が出た。


 これ、一見すると私が悪いみたいに見えるから嫌なんだよね。


 仕方がないから、渋々付き合ってやる事にする。








 件の現場へ向かうと、そこには盛り塩で囲まれた真っ黒な柱が立っていた。








「――――15時13分」


「だから、時間を確認して、手を合わせるな! まだ生きてる! まだ生きてる筈だよな? なぁ、生きてるって言ってくれ!」





 鬱陶しい下っ端を無視して、私は懐から塩を取り出すと、パラパラと黒い柱に投げつける。





「ほら、あんた達も一緒にこれ撒いて。私も忙しいんだから」


「え、オレ達も?」


「これ撒けばいいのか?」


「こ、こうか?」





 四人で柱を取り囲み、塩を撒いた。


 塩のお陰で、靄は少しづつ晴れて、内部も透けて見えるようになる。


 完全に靄が消えるまで、どんどん塩を盛っていき、靄が完全に消えた時、その場所には塩に埋もれる様に倒れている王子が現れた。





「殿下!」


「殿下、よくご無事で…!」


「殿下、しっかりなさってください! 殿下…!」


「う、ううん…き、君は…?」





 殿下の目がゆっくりと開かれ、初めてその視線が真っ直ぐ私を捉えた。








「ソルト・スプラッシュ!!」


「ブフゥッ!?」


「殿下ぁぁぁ!?」








 私は伝家の宝刀である必殺技で殿下の視覚を奪い、素早く背後に回り込むと、ドスッと首元に手刀を落とし、手際よく殿下の意識を刈り取る。


 殿下の体が、クタリと塩へと倒れ込んだ。








「よし、落ちた。―――あ、殿下、安心して眠っちゃったみたい! うふ!」


「今、『よし、落ちた』って言った!」


「明らかに故意だろ!? 意図的に殿下に目潰しして、意識刈り取っただろ!?」


「いや、何で出来るのかは知りたくないが!」


「いつか憎き父を…」


「やめろ! 聞きたくない!」








 私は眠ってしまった殿下を預け、何も告げず、静かに立ち去った。








 殿下、早く良くなるといいなぁ。(棒読み)


 後、絶対私の顔は覚えないで欲しい。認識しないで。絶対に。(真顔)








 ★ ★ ★ ★ ★








 ――――翌日。





「おい、除霊係。殿下がお呼びだぞ」


「おい、除霊マシーン。殿下、お前に興味津々だぞ」


「おい、殿下の除霊婚約者(ほぼ確定)。殿下が初めて生身の女に興味を持ったって王宮ではお祭り騒ぎだぞ」








「人違いです」








 私は怪訝そうな顔をして、首を傾げる。


 私のこの反応は当然の事だ。私は何の事か全く身に覚えはないのだから。











 ………首じゃなく、頭を殴っておくべきだった。不覚。


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