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1・私は平凡な男爵令嬢(※自称)

全力でふざけていく作品です。会話文多め。頭を空っぽにしてお楽しみください。

「ああ、ジェシー。君が一番綺麗だよ」


「………」


「何だい? やきもちを妬いているのかい? ふふ、私には君だけだというのに」


「………」


「可愛いジェシー。私のたった一人の女神。どうかわたしを愛していると言っておくれ。ずっと、傍にいると」


「………………」





 ウットリとした顔で虚空に話しかけ続ける王子。


 ザワザワが収まらない聴衆たち。


 悲鳴を上げて倒れる王子の婚約者候補。


 真っ青な顔で、縋るように私を見る王子の側近たち。いや、お前ら見てないで何とかしろよ。私に丸投げすんな。


 そう思っていても、声には出せない。なんせ私はただの男爵令嬢。しかも庶子で、最近まで平民だったのだ。つまりお上は逆らえない。そんな事をすれば冗談でなく、一家諸共首が乱れ飛ぶ。(物理的に)


 私は深く深くため息をついてから、深く深く息を吸い込んだ。








「とっとと消えろ! 悪霊退散―――!!」


『ぎゃあああああああああああ!!』


「ジェシィィィィィ―――!」








 持っていた塩を壺ごと王子に振りかけると、王子に張り付いていた女の悪霊が絶叫を上げて黒い煙を巻き上げながら蒸発していく。


 王子は悲痛な悲鳴を上げた後、涙を流しながら項垂れた。


 そんな王子を心底呆れた目で私は眺める。不敬? 知るもんか。こっちがどれほど迷惑を掛けられていると思うのか。





「ああ、ジェシー、私のジェシーが…」


「殿下、いい加減に目を覚ましてください。貴方と彼女たちは生きる世界が違うのです」





 この言葉で分かるだろう。


 彼は常習犯である。


 何のかって?








 悪霊に取り憑かれる事のだよ!!!








 ★ ★ ★ ★ ★








 事の始まりは、私がこの学園に転入して間もなくの事だったと思う。





 私の母は下町にある定食屋の看板娘だった。


 母は中々の器量よしだったので、お忍びで下町へ遊びに来ていた父に見初められ、二人は恋に落ち、私が生まれた。


 まぁ、割とよくある話だ。


 そして、ここからもよくある話で、父は男爵家の嫡男だったから貴族令嬢と結婚し、家を守らねばならず、二人の結婚は許されなかった。


 父と母は泣く泣く引き剥がされ、母は私を一人で育ててくれたのだ。





 …と、最近まで思っていたのだが、実際には違う。





 実の所、父は婚約者であった伯爵令嬢と母、二人の女性を同時期に二股掛けていた。


 それを知った母は大激怒。


 父と縁を切り、私を連れて出ていったというのが真相だった。本当に駄目父である。


 一方、そんな父の婚約者である伯爵令嬢は大変出来た人物であった。


 父の不実を母に詫び、自ら身を引く事すら提案してみせたのだ。


 誇り高い貴族の令嬢が、平民の母に対して対等に接してくれたことに母は感銘を受けたが、父の元に戻る事はせず、伯爵令嬢に父を任せ、自分は下町で生きる事を決めた。


 伯爵令嬢―――今は男爵夫人であるその人は、下町で生きる私たち親子を陰から支援し続けてくれて、母が病で亡くなった時には真っ先に駆け付け、私を男爵家へと迎え入れてくれた。本当に頭が上がらない。


 そんな彼女は今では私の自慢の義母である。可愛い義弟まで出来て、『ねーたま』と甘えられる度に幸せを噛みしめる毎日だ。あ、父は近寄らないで下さい。二股野郎はお呼びじゃないです。





 長々と語ってしまったが、そんな訳で、義母に恥をかかせない為にも、元平民の私は必死で勉強しなければいけない状況だった。


 最低限の事は引き取られてからつけて貰った家庭教師に学んだが、それで学園の授業についていける程、世の中は甘くない。


 私は必死で勉強していた。だが、家で勉強していると、義母が色々気遣ってくれるし、義弟が可愛く甘えてくる。義母とのお茶会は楽しすぎるし、義弟は天使過ぎた。ずっとお茶飲んでいたい。ずっと義弟と遊んでいたい。でも、勉強しなければ。


 そこで、誘惑から逃れる為に学園の図書室で自主勉強してから帰る事にしている。


 その日もガリガリと血走った目でペンを走らせていると、ヒソヒソと妙に耳障りな声が聞こえてきた。


 クスクスと笑う、甘ったるい声。


 下町育ちの私は耳年増で、このような声を出しているものがどういう状況か直ぐに分かった。





 おのれ…こっちは必死で勉強しているというのに…神聖なる図書室でイチャイチャと逢引きだと…?


 ふざけんな。空き教室にでも連れ込めばいいだろ。ぶっ殺す。





 連日の猛勉強で私の精神は荒み切っていた。優しさは擦り減り、最早義母と義弟の微笑みでしか回復しないレベルにまで達している。父を見たら、即座に斬りかかるレベルだ。相当やばい。


 お分かりだろうか。そんな私がこんな状況に置かれたらどうなるか。


 私は深く深く息を吸い込んだ。








「こんな場所で盛ってんじゃねぇぇえ!!」


『ぎゃああああああああああああああ!!』


「ヴェデリィィィィン―――!」








 物陰にいるらしい男女を私が一喝すれば、何故か女の絶叫が聞こえ、凄い勢いで黒い煙が上がる。え、火事? 私、発火能力でもあったの? 嘘だろ…まさか死んでないよね?


 ビクビクしながら物陰を覗けば、そこには妙に高そうな服を着た、妙に顔の綺麗な男がいた。





「ヴェデリーン…ああ、私のヴェデリーンが…」





 メソメソと泣く鬱陶しい男。


 それが王子殿下だと知ったのは、その翌日の事だった。








 ★ ★ ★ ★ ★








「今回もありがとうございました」


「はい。いい迷惑でした。いい加減にしてください」


「申し訳ありません」





 王子の側近にスッと差し出されたお金の入った小袋を受け取りながら、私はウンザリした顔をする。


 因みにこのお金は王子の除霊をした事への謝礼だ。私の勉強の邪魔をしたお詫びでもあるので、ありがたく頂いて義母と義弟へのお土産代にする。残ったら貯めておくことも忘れない。





「今まで誰も治すことの出来なかった殿下の『病』を治してくださり、感謝の言葉も尽くしきれません。貴女がいなかったら、殿下はどうなっていた事か…」





 多分、取り憑かれたままだったら、生命力を吸い取られ続けて衰弱死してたと思う。


 …とは、言わないし、教えない。


 言えば、絶対面倒臭い事になるのは目に見えている。





「まぁ、ある意味『病』ともいえるけど。全く何であんなことになるんだか…」





 王子の『憑り憑かれ癖』は相当やばい。私の勉強に疲れ切った時の精神状況並みにやばい。


 何せ祓っても祓っても、直ぐに新しい奴が憑りついてくる。


 世の中には憑りつかれやすい人間もいるが、普通はあそこまで酷くはならない。





「実は…王子は幼少期に…」


「あ、具体的な原因とかは知りたくないです。関わりたくないので」





 コイツ、舌打ちしやがった。


 どさくさに紛れて私を巻き込もうと思ってたな。


 嫌だよ。こんな面倒な人間にこれ以上関わりたくないよ。


 ただでさえ、こんな厄介な体質でトラブルに巻き込まれやすいのに!





『貴女のその力は、多分、『原始の巫女』と呼ばれていた大霊能力者だったお祖母ちゃんからの遺伝でしょうね』





 フワフワと横に浮かんでいる母がのんびりと言う。





『いいえ、私よりもずっと強力だわ。言霊には力が宿ると言うけれど、この子は声そのものが力に溢れているもの』


『さよう、さよう。姫君の声は光り輝いておる。その光に亡者は耐えきれぬのよ』


『流石は我らの姫だ。守りの我らも鼻が高いというものよ』





 母の言葉に口々にそう言いながら、楽しそうに私を囲むフワフワな人達。


 ――――私を守る、昔々の家族たち。





「とにかく! もう勉強の邪魔はしないでくださいね!」





 まだ言い足りなさそうな王子の側近(と書いて無能と呼んでやりたい)たちを置き去りに私は家へと急いだ。


 これ以上、学園に残っていると又、面倒な事になりかねない。


 今日は強い心で誘惑を跳ね除け、家でガッツリ勉強するぞ!








「お帰りなさい。お疲れ様。美味しいお菓子があるのよ。一緒にお茶にしましょう?」


「ねーたま、おきゃーりにゃちゃい! いっちょにあしょぼ!」








 はい、喜んで――――――!!!








 ★ ★ ★ ★ ★








「た、大変だ――――!」


「あら、あなた。お帰りなさい。一体どうなさったの?」


「お帰り、盆暗親父。お前のお菓子ねぇから」


「にぇーからー」


「ああん、愛娘と愛息子が反抗期!?」


「あなた、そんな事より何が大変なの?」


「ハッ! そうだった! とんでもない事が起きたんだ!」


「大変な事?」








「うちの娘が、王子殿下の婚約者候補になった!」








「………王子殿下の婚約者候補は超美人の公爵令嬢でしょ?」


「それが、度重なる王子の奇行が恐ろしすぎて辞退したと!」


「でも、それで何故、男爵令嬢であるこの子が候補に? 他にも有力な上位貴族の令嬢は沢山いるではありませんか」


「それが全員辞退したらしい!」


「………でも、男爵令嬢じゃ王様たちも他の貴族の人たちも納得しないと思うよ」








「よく分からないが陛下が言われるには、『生きていれば、もうそれだけでいい』と!」


「は!?」








 私の受難はまだ続くらしい。マジで勘弁してよ。




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