予言の日
異世界で勇者になれるかもしれない。
しかも、乙女ゲーム風なイベントがあるのに、どうやら私は主人公じゃないらしい。
ま、まさか…ら、ライバルポジション…?!
「上位10名は勇者クラスに入ることができます。上位10名が勇者クラスを希望しない場合は下位の者から勇者クラスの者が選ばれることがありますから、希望調査には希望を捨てずに書いていただいて結構です。ただ、例年、上位10名は勇者クラスを希望しています。でも、希望を捨ててはいけませんよ。明日から一人ずつ魔力チェックと面談をしますから、ご家族で話合ってきてくださいね。では、今日のHRはこれで終わり、気を付けてかえってくださいね」
担任教師は厚化粧でにっこりと笑顔をつくって、教室を出て行った。一喜一憂しているクラスメイトたち。小さな白い紙を握りしめて泣いている子もいれば、ガッツポーズをして喜んでいる子もいる。
この試験の結果で上級学校のクラスが決まる。各学校の上位10名だけが上級学校で勇者クラスに入ることができる。人気のある順番で、勇者クラス、魔法使いクラス、戦士クラス、武闘家クラスがある。また、それぞれ希望者に回復魔法の特別クラスを受講することができる。それも、才能や素質の関係で受講できない人もいるらしい。そして、そのどのクラスに入ることができない人たちが民間の学校で商人クラスやメイドクラス、執事クラスなどの生活に直結するクラスに入ることもある。
担任に渡された紙に書かれた数字は1。最高の点数だったため、どこのクラスでも行きたい放題なのだが、実際私がしたいことといえば実益につながるものなのだ。別に勇者にも魔法使いにもなりたくなどない。
「リジィ、どうだった?」
「アル様…正直、迷っています」
「勇者クラス無理そうだったのか?魔法使いクラスだったら、学校近いし両方希望しろよ。俺、絶対勇者クラスだし」
「そう、ですね…」
アルバート・ウォルター。王家の矛と言われる侯爵家の次男で入学当初から成績優秀で、周囲からの信頼も厚い人物である。アル様とは、彼が森で怪我をしたときに手当をしてあげてから、親しく付き合うようになったが、侯爵家という家柄にはさすがに気後れしてしまう。彼にはそのような気は少しもないのか、対等に扱ってくれるのがありがたくもあり、こまりものでもあった。
「アルバート様、早く参りましょう」
「あ、ジュリアか…」
「本日は新たな予言を賜る日、侯爵家であるわたくしたちが遅れるわけには参りませんわ」
「そうだったな。悪い、リジィ。また明日な」
アル様は申し訳なさそうに右手を挙げた。そして、その手を引くジュリア・クオーツ。彼女もまた王家の盾と言われる侯爵家の令嬢である。長いふわふわのブロンドの髪が美しく、切れ長の瞳は気品を感じさせる。アル様とは幼い頃から仲が良く、現在は片思い中なのだが、アル様はその気持ちに気付いているのか、気付いていないのか、判断が付きかねるところ。
予言の日。1年に1度、この日に神からのお告げを賜る日なのである。小さなことから大きなことまで。魔王の出現を告げたのも、この予言の日だった。そして、その対策をとるために王家の方々、重鎮たちが集まるのだ。そして、予言を賜る巫女も、また…。
高台の教会の鐘が鳴る。町中に響き渡り、国王の住まうお城の壁に反射する。夕闇が訪れる前の真っ赤に染まった町。なんだか、有名な絵画のような一瞬。安っぽい言葉だけれど、感動した。
「おや、リジィ。帰ってきてたのかい」
「おばあちゃん…」
「成績は帰ったら、また見せてもらうよ。…今日は嫌な予感がする。家から出るんじゃないよ」
「お気をつけて」
おばあちゃんは正装を纏って、王家からの馬車に乗り込んだ。真剣な横顔が馬車に乗って遠のいていく。
「リジィ、夕食できてるわよ」
「ミリアさん、おばあちゃん…なんだか、いつもと違った…」
「そうね、大丈夫よ」
ミリアさんは教会で住み込みで働くシスター。私とおばあちゃんの身の回りの世話までしてくれている。私を安心させようとにっこりと笑った。それでも、ざわざわとした感覚がとても落ち着かなかった。
その日…
異世界から天の加護を受けた少女が予言と共に召喚された。