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Players Memories  作者: 大虎
──が見た世界
2/2

嬉しいと哀しい

翌朝、窓から差し込む光で目が覚めた。

まだ眠かったがゆっくりと体を起こす。

〝おはよう〟

隣から白狼(しろう)君の声がした。

私もおはようと返す。彼は本を読んでいた。

「なんの本を読んでるの?」

私は目を擦りながら訊ねる。

〝『さらば愛しき人よ』だよ。面白くてつい徹夜しちゃったよ〟

レイモンド・チャンドラーの代表作だ。

「それ結構有名なやつだよね。私も読んでみたいな~」

〝ちょうど読み終わったし読んでみる?〟

「いいの?ありがとう・・・!」

私たちは少し雑談をして看護師さんが運んできた

いつも通り美味しくない朝食を食べる。


朝食を食べ終わって雑談をしていると院長先生が段ボールも持って訪ねてきた。

「2人ともおはようございますっス~」

私達もおはようございますと返す。

「いやー、2人とも仲良くしてて僕も一安心っスよ~良かった良かった。それはそうと白狼君宛に荷物が届いてるっスよ~。多分いつものっスね」

そう言って段ボールを白狼君に渡す。

〝ありがとうございます〟

「んじゃ、僕はこの辺で。2人ともごゆっくり~」

そう言って院長先生は部屋を出ていった。

白狼君は玩具を買ってもらった子供のように

はしゃいだ顔で段ボールは開けていた。

私は「それはなに?」と訊ねる。

〝月に一度三つ下の従弟(いとこ)が本を送ってきてくれるんだ。諒人(あきと)って子でね。凄くいい子でね、自慢の従弟なんだ!〟

そう言って白狼君はニッコリ笑う。

中には6冊程の本が入っていた。これを毎月送っているとは中々太っ腹な従弟さんだなぁ。

それだけ慕われてるなんてやっぱり白狼君はいい人だ。


それから病院生活のほとんどは白狼君と一緒に過ごしていた。図書室だったり中庭だったり。

今日はバスケットゴールがある公園に来ていた。

午前中ってこともあってか人は1人も居なかった。

驚いたのが白狼君がとても運動神経が良かったこと。サラッとダンクした時は流石に口を開けて呆然とした。かく言う私はゴールに掠りもしなかった・・・。昔から運動はあまり得意じゃない。


一汗かいて部屋に戻る途中に他の患者に遭遇した。すると白狼君はそっと私の後に隠れる。

他の患者に出くわした時は決まって私の後に隠れる。彼が自分の髪が真っ白なのを人に見られたくないという思いの行動なので特に何も言うことはない。その患者とすれ違う。一瞬私達を見て怯えたような顔をする、がすぐに前を向いて去っていく。周りに誰もいないのを確認すると私の隣にスっと戻って歩き出す。そのたびに彼は

〝ごめんね〟と謝る。

私はそっと微笑んで「大丈夫だよ!」と言う。


入院して2ヶ月が経った。今日は両親が病院に来ていた。なんでも院長先生から重要な話があるとか。白狼君は部屋にはいない。私が今朝両親が来ると言ったら〝どこかで時間を潰してるよ〟

と言ってへやを出ていってしまった。やっぱり周りの目が気になるようだ。

お父さんが何か困ったことはないか?

入院には慣れたか?と聞いてくる。

私は友達が出来たから大丈夫だよと答える。

両親と3人で院長室に入る。話ってなんだろう。

「娘さんの手術の伝手が見つかりました」

両親が本当ですか?!とびっくりしていた。そしてそれは私もだ。手術にはまだまだ先だと思っていたが想像以上に早かった。

「運がいいことに提供者が現れてくれました。急な話ではありますが三日後には手術が出来ると思いますので保護者と本人の承認と手続きを」

普段は語尾にスを付けている院長先生もこういう時は真面目に話している。

そして手術について説明される。

色覚異常がどうとか錐体細胞がどうとか成功する確率がなん%だとか色々。

両親は涙を流しながら娘の手術が決まって喜んでいたが、私はふと冷静になって考えていた。

もし、手術が成功して退院したら白狼君とはもう会えなくなるのか・・・。手術が決まって嬉しい反面白狼君にもう話すことも出来なくなるかもしれないという哀しみで凄く複雑な気分になった。





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