帰り道で知らない美少女に声をかけられたら………
「(思っていたよりも遠いなぁ~)」
今日、俺は高校生になった。
見慣れない通学路を歩きながら、僕は1人で帰っている。
本来なら同じ中学だった友達といっしょに帰る予定だったが、俺がホームルーム中寝てしまい、起きたときにはすでに彼の顔は見当たらなかった。
「少しくらい待ってくれてもいいに………」
そう言いつつもも、初めて1人で帰る通学路を楽しんでいた。
通学路には大した建物は建っていないが、その代わりに多くの木や花が生えていた。
入試のときは、緊張で周りなんて見えていなかったし、友達と話していたため、景色なんて気にしていなかったが、少し注意を払うと色んな発見がある。
「あっ、こんなところでまだ桜が咲いていたんだ………」
僕の視線の先には、りっぱな桜の花が咲いていた。
入学式のときは雨が降ってしまい、学校の桜は散ってしまったが、ここの桜は無事だったらしい。
「きれいだな………。そうだ!」
俺はカバンの中からスマホをとりだし、アプリを起動させた。
レンズを桜に向けて、焦点を合わせ、ボタンを押すところで………。
「あの~」
…………後ろから声をかけられた。
その声はとても明るくて、どこか聞き覚えがあって、そして優しい声だった。
俺はスマホをおろし、振り向いた。
そこにいたのは…………
「コウスケ君、ハンカチ落としたよ」
………………全く知らない女の子だった……………
* * * * *
「ん………………?どうかした?」
「あっ、ごめん!何でもないよ。ちょっと驚いただけだから気にしないで」
「そっか…………ごめんね、急に後ろから声掛けて……………」
「えっ!いや!そんなつもりは――――」
俺は落ち積んだ雰囲気の彼女に必死に弁解しようとした。
だけど………………
「……っふ、あははっ!」
「えっ!?」
次の瞬間、彼女は急にお腹を抱えて笑い始めた。
「冗談だよっ!冗談! はいっ、ハンカチ!」
そう言って、差し出された手には、確かに俺のハンカチが握られていた。
「えっ!あっ!うん……ありがとう」
「どういたしましてっ!」
………………………さて、状況を軽く整理しよう。
今日は、高校の入学式だった。
今年、俺の中学からこの高校に入学したのは、俺と友達だけ。
ということは、この子と俺は面識がないはずだ。
………しかし、彼女は俺の名前を知っていた。
それはなぜか?
…………………導き出せる結論は一つしかない。
それは――――――――塾で同――
「私、君と同じクラスのヒカリ。1年間よろしくね!」
………やっぱり、クラスメートだったか……………。
いや、わかってたからな!………………………………わかってたからな!
「俺はコウスケ…………………って、知ったんだっけな………………っていうか、よく俺の名前と顔覚えていたな、まだ一度も話したことないよな?」
「うん!……でも、クラスのみんなはもう、コウスケ君の名前は覚えてるんじゃないかな~」
「えっ?なんで?」
「だって……」
「だって………?」
「………………………初日からホームルーム中に爆睡してる子なんて聞いたことないもん(笑)」
そう言うと彼女は、再びお腹を抱えて笑い始めた。
「あはははっ!」
「そ、そんな笑わなくても…………」
「あはははっ!」
それからしばらく、この子は笑い続けた………………
………これ、1年間言われ続けるんだろな……………
* * * * *
「いやいや、ごめんね!」
「……別に、悪いの俺だし…………………」
「ほんとにごめんって!だから、すねないで!」
「……すねてないし」
「絶対すねてるじゃん!(笑)」
…………別にすねているわけではない。ただ、少しイラッとしただけだ。
「まあ、別にいいや!そんなことより!」
………この子、自由だな~。
「今さらだけど、コウスケって、歩いて学校に通ってるの?」
「……………本当に今さらだな。まあ、そうだけど」
あと、今さらっと「君」外したよな………ほんと、何なのこの子!
「ていうことは、△△△の方出身?」
「ああ、△△△市立第一中学に通ってた」
「ええ!ほんと!?私、△△△市立第二中学高の方なの!」
「えっ!?まじかっ!」
△△△市立第一中と第二中は、非常に近く、その上、俺の家はギリギリ第一中の校区だが、ほんの1、2分歩けば第二中の校区になるような場所にある。
つまり、何が言いたいのかというと――――――
「もしかしたら、家近いかもね!」
と言うことだ。
「いや、さすがにないだろ。今まで、当たったことなかったし」
「え~、わかんないよ!今まで、気づかなかっただけかもしれないよ!」
そう言って、彼女はこっちを見つめてくる。
「(うっ・・・・・・・・)」
よく見てみると、ヒカリは可愛かった。
パッチリとした目。整った顔立ち。柔らかそうなほっぺた。
「…………まあ、あり得なくはないか………」
俺は恥ずかしくなって、つい目を逸らした。
「そうだよ!もし近かったら、遊びに行くね!」
「……………………いやだ」
「え~!コウスケのいじわる!」
……………もし、ほんとに近かったら、彼女は遊びに来るのだろうか?
…………それとも、この場限りの戯言なのだろうか?
「あっ!私、ここ右なんだ!」
「………俺はまだ真っ直ぐだ……」
「そっか………、やっぱり家遠そうだね…………」
「そうだな…………」
……………なぜだろう。なんで、俺は残念に思っているのだろう。
「……………それじゃあ、バイバイ」
そう言って、彼女は歩いていく。
一歩、また一歩と遠ざかっていく。
「………まあ、また明日会えるからな・・・・」ボソッ
そう、自分に言い聞かせて俺も帰ろうとした。
……………できなかった。
そして、次の瞬間、俺は叫んでいた。
『ヒカリ!! いつか、家に遊びに来いよー!!』
傍から見たら、俺はやばい奴だっただろう。
俺からしたら、もっとやばい奴だ。
なにせ、今日あったばかりの女の子を家に誘ってるのだ。
………マジで、どこの変態だよ……。
……………でも、不思議と後悔はない。
彼女が振り向かないところを見ると、きっと聞こえなかったのだろう。
それでもいい。…………また明日言えばいいだけの話だ。
そう思って、俺は歩きだした。
そのときだった。
『うんー!!絶対行くねー!!また、あしたー!!』
後ろから、彼女の声が聞こえてきた。
俺はすかさず振り向いた。……………けど、そこにはすでに彼女の姿はなかった。
「…………全く、どれだけ声がでかいんだよ、あいつ」
そう呟いて、俺は笑った。
今日、俺は高校生になった。
まだ、実感はないし、何が変わったのかよくわからない。
…………だけど、
これから始まる新しい生活にどこか期待している俺がいた。
中学までとは、何かが変わるかもしれない
そう考えずにはいられなかった。
……………だから、オレも今は全力で叫ぼう…………
―――言葉に明日への期待を込めて―――
『ああ!!また、あしたー!!』
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