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旅立ち

 三日間はあっという間に過ぎ去った。大きなリュックを背負い、村の入口で大勢の村人に見送られる。


「カイル、無理はするんじゃないよ」


「なんかあったらすぐに戻ってこいよ!」


「手紙書けよ」


 村人たちから別れの言葉をかけられるカイルだが、誰かを探すかのように何度も村人たちの顔を見る。しかし、目当ての人物を探し出すことはできず、肩を落とす。


(あれから一度もメグに会えなかったな……)


 三日前の勝負で逃げるように走っていってしまったメグと話をすることができずにいた。この十七年もの間共に育ってきた幼馴染とこんな風に別れてしまうのはなんとも悲しいことである。


「カイルよ、とうとうこの日が来たんじゃな……。これからどうするつもりじゃ?」


「うぅーん、とりあえず近くの村から探していこうと思ってます」


「そんなんじゃ見つかるものも見つからないわよ!」


 村人たちの先頭に立つジダバルの問いに深く考えていなかったのか、今思い付いたような答えを返すカイルに聞き慣れた声が届いた。


「メグ!!」


 カイルが驚いたのはもちろんメグが見送りに姿を現してくれたこともあるが、それよりもメグの姿がカイルと同様に大きなリュックを背負っていたことに動揺したのである。


「いい? ジダバルさんの話だとシンを連れていったのもコヴァター、それならこの国のどこかにいる可能性が高い。それから二年前、国にシンの捜索願いを出したんだから少なくともなんらかの情報は得てるはずよ!」


 なにも考えていなかったカイルにジダバルさんの話とこの大陸の他国との関係性から捲し立てるように説明をするメグ。


「あっあぁ、それよりもメグその格好……」


 未だメグの格好に理解が追い付いていないカイルは大きなリュックを指差し説明を求める。


「こっこれは、そう! あんただけじゃ心配だからお目付け役として一緒に付いていってあげるのよ!」


 腕を組み、頬を赤らめながらさっきよりも早口で説明する。


「あんなに村から出るの反対してたじゃないか」


「反対してたのはあんたがいなくなるからで……」


「えっ?」


 目の前にいるカイルにすら声が届かない程小さな声で呟くメグは先程よりも更に顔中が真っ赤になっていく。


「うっうるさい! 細かいことはいいの! ほら、ジダバルさんから国王への紹介状も書いてもらったんだからさっさと行くわよ!」


 ジダバルが書いた紹介状をちらつかせ、村とは反対側へとスタスタと歩いていく。紹介状を持っていると言うことは少なからずジダバルはメグが村の外へ行くことについては了承済みと言うことであろう。


「ちょっちょっと待ってよ! それじゃあみんな行ってきます!」


 慌ててメグの後を追いかけようとするカイルは村人たちに一礼しすぐさまメグの方へと体を転回させる。


「気を付けて行くんじゃぞ」


 村人たちはカイルとメグの姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。


 村から出て数十分が経とうとしていたが、まだ少し照れ臭いメグはカイルの顔を直視することができず、スタスタと先を歩く。そのため、カイルはメグに話しかけることができないでいた。


「メッメグ?」


「なによ?」


「本当によかったの? 村を出て……」


 カイルからすればこの旅は自分の我儘であることは十分に理解していた。そして、学舎でのメグの話口調からシンを探しに行くこと自体、納得していないようであった人物が付いてくると言うのは当然ながら疑問である。


「それは……」


──────


────


──


「で、どうしたの?」


 カイルたちが村を出るよりも三日前、シルスは自室の隅で涙を流しながら体育座りをするお馴染みに声をかける。


「カイルが……、カイルが村から出ていっちゃう……」


 下を向いたまま涙声で話す少女の元にシルスは近づき、同じ目線になるように膝を床に着ける。


「それで? メグはどうしたいの?」


「どうしたいって、私じゃカイルを止めることは出来なかったんだからどうしようもないじゃない……」


 全てを諦めたのだと言わんばかりに泣き言を漏らすメグにシルスは深い溜め息をつくと、メグの顎に手を当て無理矢理に顔を上げる。


「じゃあ、質問を変えるわ。どうしてメグはカイルが村から出ることを反対したの?」


「それは村の外は危険がいっぱいで……」


「本当にそれだけ?」


 シルスのメグを真っ直ぐに見つめる瞳が嘘偽りを許さない。観念したメグは少し言葉に詰まりながら言葉を続けた。


「カッカイルと離れ離れになるのが……、嫌だった……、から……」


 視線を反らしながらも最後まで自分の口で話すことが出来たメグの頭をまるで子供の成長を誉める母親のように撫で回す。


「よしよし、そこまでハッキリと自分の気持ちに気付けてるならなんの問題もない」


「問題ない?」


「もう一つあるでしょ? カイルと離れずに済む方法が」


 それはメグには例え思い付いたとしても選択肢から即座に排除されるような大胆かつ恥ずかしすぎる提案であった。


「ムリムリムリ! カイルと二人で旅に出るなんて!」


 さっきまで泣いていたのが嘘のように、両手を左右に振り、頬を赤らめる。


「私はまだ何も言ってないんだけど、まぁ、後どうするかはメグ次第だよ」


 ゆっくりと立ち上がったシルスは少し意地悪な笑顔をメグに向ける。だが、残された時間が少ないメグは決断するしかなかった。


「ありがとうシルス、私村を出る!」


 そうと決まってからのメグの行動は早いものであった。シンを探すためのプランを考案し、ジダバルの家へ出向き事情を説明すると、ジダバルは驚いた素振りも見せず、長い髭を触りながら「そうか、そうか」と笑顔で話を聞いていた。


 その後自身の両親にもしっかりと話をした。猛反対を覚悟していたメグであったが、「それがお前の決めた道なら」と我が子の身の心配をしながらも快く送り出してくれた。


 しかし、その日の夜メグが夜中に目を覚まし、階段を降りていくと、すすり泣く母の声とそれを優しく宥める父の声が聞こえた。


「うっうっ……」


「大丈夫だよママ。メグは私たちの自慢の娘だ。きっとどんなことがあっても無事に私たちの元に帰って来てくれるさ」


「えぇ、えぇそうね。あの子はしっかりした子ですものね……」


 メグは階段に座り、二人がどれ程自分の事を愛してくれているのか、どれ程自分の事を考えてくれているのかを痛感したのであった。それと同時に何があってもこの二人に元気な顔を見せに戻ってこないと行けないと強く心に刻んだ瞬間である。


──────


────


──


「いいの。それにこれが最後って訳じゃないんだから」


 この三日間のことを思い出しながらまた改めて村に帰ることを決意するのであった。


「わかった、それじゃあ改めてこれからよろしく」


「えぇ、こちらこそよろしくね」


 立ち止まった二人は手を差し出し握手をする。すると、カイルの腰に着けているカードフォルダーから声が聞こえた。


「私もいるぞ!」


「そうね、よろしくテナ」


 元気よく発せられたテナの言葉に笑顔で返すメグ。こうして、シンを探す二人のコヴァターと二匹のパートナーの旅が始まるのであった。


「それでパルクシアまではどうやって行く?」


 二人は地図を広げ、目的地までの道のりを確認する。王都パルクシアはホールズから見て北西方向に位置しており、方法としては二つ。北方向へ歩き陸路で行く方法。西方向へ歩き港から船で行く方法である。


「そうね、陸路で行くのは少し遠回りだし、船でいきましょ。港町ヴェーネからパルクシア行きの船があったはずよ」


「じゃあ、このまま真っ直ぐに西に進んだらいいかな?」


 地図を指でなぞり道を確認する。ヴェーネまでは二、三日も歩けば着きそうな距離だ。


「そうしましょ」


 初めての旅と言うこともあり、何もかも初体験な二人にとってこの三日間はなかなか壮絶なものであった。特にメグにとっては……。


 ご飯についてはメグがそれぞれの荷物に入れていた食料から自慢の腕前で手料理を振る舞ったが、問題は夜である。


 辺りもすっかり暗くなり、静かになってきた頃二人は今夜の寝床を確保する。野宿などしたことのない二人は本で見たことや他から聞いた話を元に見よう見まねで準備した。


 焚き火を挟むようそれぞれに地面に丸めていたクッション材を敷きその上に寝転がり、薄い毛布をかける。


 野宿で火を絶やすことは大変危険なことと聞いていた二人は交互に火の番をすることにした。


「それじゃあ、悪いけど私から先に休ませてもらうわね」


 先に就寝するメグであったが、気になる異性が側にいると言う状況下で、ぐっすり眠れる程華の十七歳である乙女のハートは強くはない。


(どっどうしよ、全然寝れない。明日も歩かないといけないのに……)


 毛布にくるまるが寝よう、寝ようと思うほど目は冴えていく。


「ねぇ、ねぇーカイル」


「どうしたメグ? 眠れないのか?」


「うん……、ちょっとお話していい?」


 カイルに背を向けたまま話しかける。カイルは拾ってきた小枝を焚き火に放り込みながら返事をする。


「私が急に付いてきたけど、カイルは迷惑じゃなかった?」


 朝カイルは村を出るメグを心配していたが、メグ自身も何の相談もなしに付いてきたことをカイルがどう思っているのかは気になる所だった。


「うぅーん、正直びっくりはしたかな。一緒に行くことになるなんて夢にも思ってなかったし、村を出たいって言うのも僕の我儘だって自覚してたし……」


 背を向いているメグにはカイルがどんな表情で話をしているのか見ることが出来なかったため、黙って話を聞く。


「でも、三日前にいきなり勝負することになって、あれから話もろくにできなくて、このままお別れは嫌だと思ってたからまたこうしてメグと話が出来るのは凄く嬉しいかな」


 他意のない言葉とは理解していても「話せることが嬉しい」なんて言われてしまうと、メグは自身の顔がみるみる熱を帯びていくのを自覚した。


「そっそう、それならよかったわ。それじゃあ、私は寝るわね」


「あっうん、お休みなさい」


 話をそそくさと切り上げ、再度自身の力で寝る努力をすることにしたメグであった。


(ダメだわ、カイルと話してると余計に眠れなくなっちゃう……)


 そんなこんなしながらも三日経った頃には──。


「ほらカイル! ヴェーネが見えたわよ!」


 少し高い所からヴェーネを見渡すカイルたち。港町と言うこともあり、海には何隻もの船が停留していた。


「やっと着いたね。それじゃあ、パルクシア行きの船を探そうか」


 そうしてカイルたちは港町ヴェーネへと足を踏み入れるのであった。

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