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新たな力

 奥に進むと先ほどゴブリンたちがいた空間より少し広い空間に出た。さっきほどの空間と大きく違うのは地面一杯に草が茂っている事だ。そして、この空間の真ん中辺りに一本の大きな木が植えられている。大きな木の周りは水が溜まっていている。


「綺麗な所ね」


 メグは先程とは異なるこの空間に思わず言葉を口に出す。


「カイル、あれじゃない!」


 彼女が指差す先には大きな木の枝に赤い果実が実っている。カイルたちは目的の物を発見した興奮を抑えきれず、木の側まで駆け足で向かう。果実は丁度一人一個ずつ食べれるだけの数が残っている。


「えっなんで!?」


 見ていた果実の一つがカイルたちの目の前で突如姿を消した。この空間には二人の姿しか見えないにも関わらずだ。


 余りにも突然の事にカイルたちはただたださっきまで果実があった場所を見上げていた。すると、見ていた空間に少しの揺らぎがおきた。二人はお互いの顔を見合わせて再度確認してみる。


「カイル! やっぱりここに何かいるわ! もう一つの果実が食べられてしまう前にカイルが食べるのよ!」


「えっ、でも……」


 果実は残り一個、当然どちらかが食べれない。


「いいから! そのためにここまで来たんでしょ!」


「うん、わかった。ありがとうメグ」


 メグの熱意のこもった言葉にカイルは力強く頷く。話がついた所で、前を向きそれぞれのパートナーを召喚する。


「テナ、あの果実があるところまで行けそうか?」


「さすがに少し高いな。今の私では無理かもしれん」


「だったらこうしましょ」


 話を聞いていたメグは一つの案を出した。彼女が出した案とはギュウタスの斧にテナが乗り、そのままギュウタスがテナを果実のとこまで飛ばすというものだった。


 突拍子もない案だったが、他に案はなく、考えている時間もなかったので、その案を採用することにする。


「ギュウタス!」


 ギュウタスはメグの声に反応し、テナを斧の上に乗せたまま果実めがけて振り回す。飛ばされたテナは真っ直ぐ果実へと向かう。


「やぁ!」


 果実とすれ違う瞬間、テナは持っていた槍で果実を枝から切り離し、見事果実をキャッチし木の枝に立つ。


「やったわね!」


 カイルたちは作戦の成功を喜んだ。しかし、果実を握りしめるテナの側でまた空間が揺らぐ。


「テナ、危ない!」


 カイルの声に反応したテナは咄嗟に果実をカイルに向かって投げる。そして、気配がする方に槍を振り下ろす。メキッという音を立てて槍は折れてしまった。だが、テナの攻撃は何かに当たったのは間違いないようだ。


 高いうめき声が鳴り響いたと同時に先程まで何もいなかった所に、ギョロギョロと動く大きな目に長い舌、緑色の皮膚を持つ魔物が現れた。


「カメルロウ!? こんな大きなカメルロウなんて見たことないわよ!」


 メグの言う通り、通常のカメルロウは手のひらサイズで、気性は穏やか、能力と言えば姿を透明にするだけの魔物。しかし、現に目の前にいるのは二メートルはあるであろう巨大なカメルロウなのだ。


「おっとっと……」


 カイルはテナが投げ飛ばした果実を落とさないよに両手で優しくキャッチする。無事、果実はカイルの手のひらの中に納めることができた。


「おそらく、あのカメルロウがこの木の果実を食べたて魔力が増えたことにより、体も大きくなったんじゃないかしら? と言うことはやっぱりその果実には魔力を増やす効果があるんだわ!」


 メグは自分の考えにうんうんっと頷き確証したようだ。そして、カイルの方を向き果実を指差し告げる。


「早くその果実を食べなさい! カメルロウが狙っているわ!」


 木の上にいるカメルロウは依然頭を抱えており動く気配はない、向かい合っているテナはそんなカメルロウを視界から外さないようじっと様子を伺っている。


 カイルは手にした真っ赤な果実をじっと見つめ、期待と不安が入り混じる中口の前に運びかぶりついた。


 せっかくの貴重な食材を食す機会であったが、緊張のあまり味はよくわからないが、自身の体の中が熱くなるよな感覚はハッキリと理解できた。


 更に二口、三口と食べ進めると元々そんなに大きくない果実はあっという間に食べ終わってしまった。果実の効果が出るまでにはそうかからなかった。体は更に熱くなり、自分の中の魔力が溢れてくるのを感じる。


「これは……」


 木の上にいたテナにもカイルの魔力が伝わったのか、テナも自身の体に力が溢れてくるのを感じる。


「これだけ力があれば……」


 テナは手を前に伸ばし、スッと目を閉じる。すると、小さな光の粒がテナの手の先に集まり、長い棒状の形に姿を変えていく。


 一瞬強い光を放った後、テナの手には縦に長い三角形の刃があり、その根本には翼がモチーフであろう飾りが両側に着いている銀の槍が握りしめられている。


 それは確かに武器であるはずなのに、神々しく感じると同じくらいに美しいと思ってしまう槍であった。


「カイル、それ!?」


 驚いたような様子のメグが指差す方向にカイルは目線を移すと、一枚のカードが目の前に浮いていた。


「これってまさか……」


「スキルカードよ!」


 初めてのスキルカード、ファーストカードに戸惑いを隠せないでいるカイルとは違い、歓喜の声をあげるメグ。目の前のカードに手を伸ばし、未だ実感がわかないカイル掴んだカードをただただ眺める。


 このスキルカードには上段にスキル名、真ん中にスキルをイメージさせる絵、下段にはスキルの説明が書かれており、記載内容はパートナーカードとそう変わらないものであった。


 カイルはファーストカードを手に取りテナを見る。彼女も同じくカイルを見ており、いつでも行けるぞ、と目で合図を送る。そんな彼女の期待に応えるように、カイルは改めてスキル名を叫ぶ。


「ファーストカード、閃光の矢(フラッシュアロー)!」


 叫ばれたスキル名が木霊すると、テナは持っている槍先をカメルロウに向けると先端から光を放ち、光がテナの全身を包み込みその姿を一本の矢のようにし対象目掛けて飛び出す。その早さにカメルロウは対応することが出来ず、テナの槍はカメルロウの体を貫く。風穴を開けられたカメルロウは体をピクリとも動かくことはなく、カイルたちの勝利が確定したことを物語っていた。


「やっ、やった!」


 初めてのスキルの発動、大型魔物の討伐に思わず拳を握りしめるカイルは、高らかに喜びの声を上げる。カイルを振り返るテナも「どんなもんだい」と言わんばかりに満面の笑みとピースを向け、喜びを体で表している。


 戦いの終息を確認すると、パートナーのギュウタスをカードに戻し、メグが満面の笑みを浮かべてカイルの元へ近づいてくる。


「カイルやったわね! これでもうシンにバカにされないわね!」


 余程根に持っていたのであろうメグの始めに交わす言葉がシンの事とは、彼女を怒らせると恐ろしいなと感じる瞬間であった。


「あっあぁ、それより、このカメルロウ……」


 動かなくなった一匹の魔物に目を向ける。本来ならば存在し得ない大きさの魔物が存在すると言うことは、大変危険なことを意味していた。今回は攻撃性の少ないカメルロウだったため被害が出なかった訳だが、これがもっと危険の高い魔物がこの果実を食べていたと思うとゾッとする二人であった。


「そうね、ひとまず村長に報告しないとね」


 カメルロウの存在を知らせるため、体の一部を持ち帰ることとした。そうして目的を果たしたカイルたちはリゴーナ洞窟を出た


「あぁー、やっと外に出れた!」


 数時間ぶりに外に出たメグは大きく背伸びをし、外の空気を取り入れる。朝早くから出ていたにも関わらずもう日はすっかり落ちており、空には星が煌めく空間になっていた。


「もうすっかり日が落ちてるね」


「そうね、風が気持ちいいね。あっ、そうだ! 村に帰ったらカイルのお祝いしないとね」


「いいよ、今更恥ずかしいし……」


 一緒に契約の日を迎えたメンバーの中ではダントツで遅いファーストカードの取得を素直に喜べないカイルであったが、メグは単純にカイルの成長をお祝いしたい気持ちが強いようだ。


「いいからいいから、カイルのために美味しい料理作ってあげるよ」


 元々家で家事をしていることと料理を趣味としているメグの手料理はホールズ村の中でもなかなかの腕前と評判がある程だ。そんなメグの手料理はカイルももちろん食べたいものであり、メグの提案を受け入れてしまうのであった。


 そうこうしているうちに村を上から見えることができる場所まで戻ってきたカイルたちは目を疑った。


「なっなんだ……」


 二人が目にした光景と言うのは村のあちらこちらで火の手が上がっており、暗い夜にも関わらずまるで昼間以上に明るくなっている。そこには村を襲う魔物たちから逃げ惑う村人たちの姿やそれに対抗するように対立するコヴァターたちの姿が目に入った。


「早く村に戻ろう!」


 あまりもの光景に両手で口を覆い、言葉を失っているメグの手を強引に引っ張るとそのまま村まで全速力で村へと走っていく。


──────


────


──


 カイルたちがリゴーナ洞窟を出る数時間前、ホールズ村にて――


 夕日が落ちかける広場で走り回る子供たちがいる中、村の南西にある森から魔物たちの雄叫びが響き渡ってきた。その声に一番最初に反応したのは村長のジダバルであった。異変を感じたジダバルは広場へ飛び出し周囲の警戒を行う。ジダバルの咄嗟の行動に他の村人たちも異常な事態だと認識する。


「村の者たちよ! 今すぐ戦えない女、子供たちを避難所に連れて行くのじゃ! 戦える者は準備を整えるのじゃ!」


 その言葉に村の者は皆一斉に行動を開始した。しかし、ジダバルが早期に判断したにも関わらず、雄叫びを上げた魔物たちが村のすぐ近くまで迫ってきていた。


「サモン、ロクダム!」

 

 ジダバルは村の入り口まで出向き、手に持ったパートナーカードを掲げパートナーを呼び出す。カードからは肉体が岩石で構成された大きな人型の魔物が姿を現した。大きな体のせいかゆっくりとした動きをするロックダムは魔物の群れに正対する形をとる。


「ファーストカード、岩石の弾丸ロックブレット


 両手を魔物の群れに向けたロクダムの手のひら方から無数の岩が魔物たちに向かって発射される。その岩に魔物たちが潰されていく。その威力は流石、元土帝と言うべきかその姿を見ていた村人たちは不安の表情から期待に満ちた顔に変わる。


「よし! ジダバルさんに続け!」


 他の村人たちもそれぞれにパートナーを召喚し、襲ってくる魔物に対峙する。村人たちの活躍もあり、なんとか第一陣の魔物の群れを撃退できた所に真っ黒いフードを被った男が魔物の群れが来た方角から姿を現した。


「人間……?」


 村人の一人が呟くと同時に皆が男に注目を集める。男はポケットから一枚のカードを取り出し、他の村人たちと同じように声を発する。


「サモン、ロキ」


 姿を現した魔物にその場の全員が息を飲んだ。現れたのはまるで海のような青い髪に、白い肌、冷たい青い瞳に薄ら笑いを浮かべた不気味な雰囲気を醸し出す少年の姿をした者であった。少年の登場に村の者は戸惑いを隠せなかったが、少年の言葉に困惑から恐怖の表情へ変貌するのであった。


「ねぇ? ここにいるの全員殺していいの?」


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