表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

リゴーナ洞窟

 カイルは三年前のあの日からテナの正体についていろんな書物を読んでみたが、全くわからなかった。他の人たちはパートナーの姿を見れば、ある程度の予測は着くのに対し、テナの場合はそうはいかない。


 人間の姿をした魔物と言えば、魔女に魔人、ピクシーなどが上げられるがテナはそのどれとも違う。


 前にテナ自身に聞いてみたが、「覚えていない」と期待した答えを得ることはできないでいた。実際テナは自身の名前以外、どこから来たのか、どんな能力があるのかすら覚えていないようだ。


 そんなこんな考えているうちに儀式は開始され、今年もなんの問題もなく無事儀式は終了した。


「よう、スキルなし。お前も見に来てたのか」


 そう声をかけてきたのは三年前一緒に儀式をしたカイルの同級生であるシンである。シンはチョコレートのような茶色の短めの髪をモヒカンのように立たせている。そして、いつも右手に白いリストバンドをしている。


「なによ、シン! そんな呼び方しなくたって!」


 メグはシンが言った言葉にかなり苛立っているようだ。そう呼ばれたのは彼女ではなくカイルであったが、彼女はそれが許せなかったようだ。


「本当の事を言って何が悪い。三年も経ってファーストカードを持ってない奴なんてお前ぐらいのもんだ。今日儀式を終えた奴らにも直に追い抜かれるさ」


 彼は右側から出ている鬼歯を見せるつけるようにニヤリとしてみせる。


 ファーストカードとはスキルカードの一種である。スキルカードは全部で三枚あると言われており、一番最初に手にするファーストカード、熟練したコヴァターが手にするマスターカード、パートナーの究極技であるファイナルカード。


 スキルカードを取得するためには、コヴァターにパートナーが技を使えるだけの魔力があることでスキルカードを取得することができる。


 彼が言った通りカイルはまだ一枚もスキルカードを持っていない。何度かスキルカードを出そうと試みたことがあるが、一度として上手くいったことはなかった。


「おい、貴様! 私の前でカイルの悪口を言うとは許さないぞ!」

 

「なんだ無能なコヴァターを持つ可哀想なパートナーじゃないか、それとも元々パートナーの方が無能なのか?」


 話を聞いていたテナは怒った形相でシンの側まで近寄る。しかし、彼はそんなテナを嘲笑うように言葉を続けた。


「なんだその目は? もしかして俺とバトろうなんて考えているのか?」


「だったらなんだと言うのだ!」


「俺は弱い者イジメは好きじゃないんだよな」


 薄ら笑いを浮かべ、言葉とは裏腹に戦う意思を示す彼はコヴナントカードを手に持つ。


「サモン、キバ」


 すると、彼のパートナーである狼型の魔物ライガーが姿を表す。姿は狼とほぼ同じだが、頭に着いている二本の角が特徴だ。


「ガルルル……」


 白い毛並みに所々青い模様の着いた獣は少し、低い唸り声を上げカイルたちを威嚇する。


「止めろ、テナ! 今の僕たちじゃシンには敵わない」


「しかし……」


 流れを断ち切るようにカイルが制止の言葉を放つと、テナは悲しそうな表情でカイルを見る。もちろん、カイルもバカにされて怒りを覚えない訳ではないが、実力差から言って万に一つも勝ち目のない勝負をする程愚かではない。


「なんだ臆病者、戦う前にもう負けを認めるのか?」


 嫌みのこもったシンの言葉に、言い返すことのできないカイルは無言で返す。すると、彼は軽い舌打ちをし、興醒めだと言わんばかりに冷淡な顔でカイルを見る。


「ふん、もういい。リターン、キバ」


 その言葉の通り、パートナーはコヴナントカードに姿を変え、シンの手の内へと戻る。彼はそのままカイルたちを無視し、どこかへ歩いて行く。


「あぁーもう! 本当にシンはムカつくわね! カイルも悔しくないの!?」


「まぁ、シンが言っていることは事実だし」


 当事者のカイルよりも大きく地団駄を踏み、怒りを露にするのは隣で一部始終を黙って聞いていたメグであった。


「そうだわ! だったらカイルもスキルカードを持てばいいのよ!」


 何かを閃いたようで彼女の目はやる気に満ちているが、そんな簡単にスキルカードを持つことが出来るのであればこの三年間苦労はしていない。


「今の僕の魔力じゃあ無理だよ、突発的に魔力をあげる方法があれば別だけど」


「ふふふ、それがあるのよ。前ジダバルさんが言ってたんだけど、リゴーナ洞窟の奥に百年に一度食べた者の魔力をあげる果実がなる木があるらしいの」


 リゴーナ洞窟とはホールズのすぐ北側にある洞窟で、昔は鉱石の発掘が行われていた場所であるが、今では鉱石もでなくなり、魔物の棲みかとなっている所である。


「あそこには魔物がいるんだろ? 今の僕とテナで洞窟の奥まで行けるかな……」


「大丈夫、私もついて行ってあげるから!」


 満面の笑みを浮かべ、やる気に満ちたメグの顔を見ると、とてもではないが断ることは出来そうにないと観念したカイルは彼女の申し出を受け入れた。もう日も落ち始めていたため、出発は明日の朝となった。


 一通りの話が着くとメグはそのまま上機嫌で自身の家へと戻っていく。


(はぁ……。とりあえず明日の準備をしておくか)


 村の中にある店を何軒か回り武器や道具を買い揃え、十分な準備をし明日の朝を迎えるのであった。


 出発の朝。昨日と同じようにメグがカイルを呼びに家まで訪ねてきた。ただ一つ違うのはメグの表情は昨日と違い、胸を躍らせているのか気概に満ちていた。


「カーイール! 準備出来てる?」


「今行くよ……」


 昨日準備した物を詰め込んだリュックと一本の槍を手に持ち、メグの待つ玄関へと出向く。


「おはよう、カイル。なんだかすごい荷物ね」


「おはよう、メグ。魔力の少ない僕にはこれぐらいないとね」


 カイルとさほど身長差がない彼女はカイルが背負うリュックをまじまじと見つめながら桜のようなピンク色をした髪をかきあげる。


「なんだか楽しそうだね?」


「そんな事ないわよ、さぁ行くわよ!」


 言葉では否定する彼女だが、その明るい声と顔の表情から彼女の言葉が嘘であることは誰が見ても明らかであろう。


 そして、カイルたちは村の外へと歩き出す。リゴーナ洞窟までは歩いて行っても三十分程あれば着くぐらいの距離であり、リゴーナ洞窟までの道中は彼女の他愛もない話しが続いたため退屈することはなかった。


「いかにもって感じね……」


 彼女がそう呟くのも仕方ながないだろう。岩壁に少し大きめの穴が開いており、それが入口となっている。昔鉱山として使われていた形跡がいくつか見受けられたが、もう何十年も前の物が殆どで、余計に不気味な雰囲気を醸し出している。


「じゃあ、行くよ」


「うん」


 その光景に息を呑んだが改めて決意を固め、カイルたちはリゴーナ洞窟の中へ足を踏み入れた。中に入ってみると、外から見ていたより明るく、視界はそれ程悪くはない。


 それはこの洞窟にいる光菌虫(こうきんちゅう)のせいだろう。光菌虫と言うのは暗く、じめじめした所に生息する微生物だ。


 光菌虫自体が光を放っているため、光菌虫が集まっている場所はさながら光る苔のように見える。


「見て、川が流れてる。これを辿っていけば洞窟の奥まで続いてるかな?」


 彼女が指差す川は確かに洞窟の奥へと続いているようだ。カイルたちは川の流れる方向へ従って歩いていく。しばらく歩いていくと、足元が狭く、光菌虫が少ないのか少し薄暗い道になってきた。


「メグ、暗くなってきたから足元に気をつけて」


「大丈夫よ。こんな所でコケたりなんて……キャ!」


 言ったそばから彼女は驚きの声と大きな音を立てる。段差に足を取られ尻餅をついてしまったのだ。


「だから気をつけてって言ったのに……」


「ははは、ごめなさい……」


 座り込んだ状態の彼女に手を差し出すと、苦笑いした彼女が謝罪の言葉を口にし、カイルの手を取り立ち上がる。


「カイル! 後ろ!!」


 彼女の声に後ろを振り返ると、先ほど彼女が足を滑らせた際にに出た音に驚いたコバッツの群がカイルたち目掛けて飛びかかって来ている。


 コバッツは蝙蝠ような姿で鋭い歯で噛み付き血を吸う。同時に魔力も吸い取ってしまうと言う厄介な魔物である。一匹一匹はそんなに強くはないが、数が集まれば話は別だ。


(こんな足元の悪い場所じゃあメグのパートナーは出せないな……)


 そう判断したカイルは咄嗟にズボンに着けているカードフォルダーからパートナーカードを取り出し、声を上げる。


「サモン、テナ!」


 召喚したテナに昨日町で買っておいた槍を手渡す。昔に使っていたことがあるのか槍の扱いには慣れている様子である。テナは槍を受け取ると、飛んでくるコバッツたちを次々に払い落としていく。しかし、数が多くテナをすり抜けた数匹のコバッツが後ろにいるカイルたちの方へ向かってくる。


 カイルは更にカードフォルダーから別のカードを取り出し、コバッツに向ける。


「マジック、保護(プロテクト)!」


 コバッツはカイルたちの目の前で見えない壁にぶち当たり、体勢を整えようと少し後退する。そこに、他のコバッツを一掃したテナが後退するコバッツに一撃を加える。


「ふぅー、なんとかなった……」


「やるじゃない! カイル!」


 安堵のため息をつくと、メグはにこやかな笑顔で賛辞を贈る。これがカイルの実戦での初バトルとなった。


「さっきのは何だったのだ?」


「さっきの?」


「コバッツたちが弾かれたやつだ」


 更に洞窟の奥へと向かう道中、身振り手振りでその時の状況を再現するテナ。


「あぁ、それはマジックカードだよ」


「マジックカード? なんだそれは?」


「マジックカードはカード自体に魔力を込められていて、いろんな術式が入れてあるんだよ」


 うんうんと相づちしながら聞き入るテナに彼女が補足する。


「それで、カードに自身の魔力を込めることで、術式が発動するって訳。難しい術式になればなる程高価になるし、使用する際の魔力量も多くなるのよ」


「それはなかなか大変そうだな」


「そうそう、それに基本的には一回切りの使い切りだし」


「そうなのか?」


 興味津々のテナに彼女が持っている知識を次々と披露する。その度にテナは大きなリアクションを取り、その反応にメグも楽しそうにしている。


「それにしても持ってきてた槍はテナのためだったのね」


「うん、まだテナの武器も出すことが出来ないから……。素手よりはマシかなって思って」


 スキルカードがまだ一枚もないのはその影響もあるようだ。未だテナは自身の固有武器を具現化できていない。できていないと言うのはテナ自身の能力と言うよりもカイルの魔力不足によるものだ。


(せめて武器ぐらいは出させてあげたいな……)


 今回のメグの言う魔力を上げれる果実にすがるような思いで、更に洞窟の奥へと足を進める。暫くすると広い空間に出た。ドーム状の空間は村の広場ぐらいの広さはある。


「後、もう少しだって言うのに……」


 彼女が見つめる先には数体の影が見える。向こうもこちらに気付いたのか、木の先に石をくくりつけたハンマーを持ちこっちに近付いてくる。身長は五、六歳の子供並みのそいつらはゴブリンだ。どうやらここはゴブリンの住処のようで、奥から更に出て来る。


「ここは私の出番ね。サモン、ギュウタス!」


 パートナーカードを掲げた彼女は勢いよく召喚する。


 二、三メートルはあるであろう体格に見合うほどの大きな斧を持ち、頭から先端が内側に曲がった二本の角が生えており、金色の鼻輪をしたメグのパートナー、ミノタウロス。


 ギュウタスが雄叫びのような大きな声をあげると、ゴブリンたちは一瞬怯んだが、再度武器を手に取りカイルたちを目指す。向かってくるゴブリンたちに対しギュウタスは大きな斧を振り回しこれを一掃する。


「これじゃあ切りがないじゃない!」


 いくらゴブリンを吹き飛ばしても何度も懲りずに向かってくる。この数のゴブリンを一体一体相手をするのはさすがに骨が折れるだろう。


「あぁー、もう! ファーストカード、大地の怒り(グランドバーニング)!」


 彼女がスキルを発動させると、ギュウタスは両手で斧を真上に振り上げ、勢い良く地面に叩きつける。すると、その衝撃でゴブリンたちの所まで地面に亀裂が入り、そこから火柱が上がりゴブリンを襲う。これがメグとギュウタスのファーストカードの力である。力の差を感じたゴブリンは恐怖のあまり次々に逃げていく。


「これで奥に進めるわね」


 ギュウタスを戻した彼女はにこやかな笑顔で話す。ギュウタスが作った地面の割れ目を見て、カイルは彼女との力の差を強く実感するのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ