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ー雨は嫌いだ、体も心も冷たくなるから。

ー雨は好きだ、涙を洗い流してくれるから。

ー雨は嫌いだ、気分が滅入るから。

ー雨は好きだ、心を落ち着かせてくれるから。


俺の髪の毛がしっとりと濡れてゆく。嫌いじゃない、この感覚。髪の毛一本一本から落ちてゆく雫が俺がここにいると証明してくれる。俺は今、生きている。


「さぁ踊ってくれ、生命たちよ」


俺は両手を広げ天を仰ぐ。雨の止む気配はない。


「こら! 授業抜け出してなにやってんの!」


雨の音だけだったこの空間に若い女性の声が耳に入る。


「見てわからないのか? あぁ君にわかるわけなかったか。」


やれやれ、と俺は顔を振る。


「腹立つ顔しやがって…。 あんたもう高3でしょ! この時期に授業サボってどうすんのよ!」


「君も同じ高3だろう? 小夏こなつちゃん。」


「ちゃん付けすんな! キモいわ!」


そんな戯言を無視し、俺は空を仰ぐ。

ー気持ちいい。


「これが命のシャワー、か…」


「うげぇ、気持ちわる‼︎ ほら馬鹿なこと言ってないで校舎に入るよ! 秋一しゅういち‼︎」


俺の手をぐいっと引っ張り、校舎の中に連れて行こうとする。 仕方ない、この手は使いたくなかったんだが。


「おい、小夏。 服透けてるぞ」


「え⁉︎ …………‼︎」


小夏は顔を赤くすると、俺の顔にビンタを決め校舎の中に入ってしまった。


「やれやれ、困った子猫ちゃんだ」


ここにいると面倒だと思った俺は学校から出ることにした。雨が止む気配はない。








俺は学校の近くの山を登っていた。 学校の授業なんて正直どうでもいい。そもそも学校の成績だけで全てが決まるという決めつけが俺にはどうも耐えられない。まぁ実際大人になって活躍するのは学校で成績が良かった奴らばかりなんだが。その点この山はどうだ。生き物が自分のやりたいようにやる。これが俺の理想といってもいい。お気に入りの浅い洞窟に入って、小説を読む。


「至福の時間だな、なぁカタストロフ?」


ミィ、と寄ってきた猫。もといカタストロフは俺にすり寄って小さく鳴く。


「可愛いやつだ。おいで」


俺は小説を読むのを止め、カタストロフを抱く。胸元でゴロゴロと鳴くカタストロフを見て安心したのか分からないが、強い眠気が俺を襲った。


「少しだけ寝るかな」


俺は深い意識の狭間に落ちていった。








「………? 今何時だ?」


気がつくと、辺りは暗闇に満ちていた。雨の音だけが辺りを支配する。俺は携帯を取り出す。


「げっ。 午後10時か、まずいな。」


俺は急いで荷物をまとめる。カタストロフを起こして……おかしい、カタストロフがいない。

耳をすますと微かにカタストロフの鳴き声が聞こえてくる。


鳴き声というより、威嚇。

カタストロフは洞窟の外にいた。俺は外に出てカタストロフを抱き寄せる。


「ほら、風邪ひくぞ」


カタストロフを、洞窟の中に戻し、俺は小走りで帰ることにした。





「あぁかわいいかわいいおとーさんおかーさん僕は良い子にしてますかお肉モグモグお魚パリポリ」




ーーーーあぁ美味しい











おかしい。いつまで経っても山から下りれない。そんな深い山でも無いんだが。 不安な気持ちを抑え、駆け足で山を降りる。降りようとした。 何かにぶつかる。


「痛‼︎」


目の前には




「僕は君を愛したい愛の終着点はどこでしょう人を憎んで罪を憎まず世界の果てまで行ってみようかあぁなんて愉快な世界なんでしょう世界が薔薇色あはは、うふふ」


首をかくん、かくん、と揺らし人とは思えない異形のものがそこにはいた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


俺は全力で逃げ出した。逃げなきゃ殺される、そんな気がした。


「まってまって浜辺でおいかけっこ僕と君だけ神様ありがとうなぜ人は生きるのあぁ面白い面白い人間って面白いお茶をマゼマゼみんなハッピーなんて平和な世界ィィィィィ」


歯を剥き出し異形のものが追いかけてくる。ー駄目だ、追いつかれる。


「フシャー‼︎」


不意に茂みからカタストロフが異形のものの顔に噛み付く。


「あらあら僕と遊んでくれるのなんて優しい猫なのあぁ世界はまだまだ平和ですあれあれ痛いな痛いな顔が痛いななんでこんなことするのなんでなんでなんで…………あぁそういう遊びなのねいいよやろうやろう」







ーーーー今度は僕の番ね




俺は脇目を振らず一目散に駆け下りた。










あぁ、俺の好きだった日常が壊れていく。


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