第5話
翌朝目が覚めると、自然と布団を弄ってしまう。
つい最近はリュラと一緒に寝るのがスタンダードで、一人で寝るという当たり前のことが、逆に不思議な感じがした。
「そっか。リュラはもう、いないんだよな」
何か心にぽっかりと穴が開いてしまったみたいだ。
「でもこれが普通なんだ。俺の日常はこれでいいんだよ」
自分をごまかすように呟いた言葉は、余計に寂しさを募らせるだけだった。
「やめやめ! 顔洗って飯食うか!」
ジャバジャバと強めに顔を洗うと、マミラさんのいる食堂へと部屋から降りて行った。
「おはよう。どうしたんだい?」
「なにが?」
「顔だよ。ほっぺた真っ赤じゃないかい」
「あ~。ちょっとね。強く顔を洗っちゃっただけだよ」
「そうかい。リュラちゃんだけど……母親が見つかったんだって?」
「情報が早いね。さすがマミラさんだ」
「あたしを誰だと思ってんだい。これでも昔は情報屋なんてアコギな商売してたもんだよ」
「そうなの!? それは初耳だ」
「誰にも言ったらダメだよ」
マミラさんはウインクをすると、「はいよ」と言って朝食を出してくれた。
「いただきます。んぐ、んぐ……やっぱりマミラさんの作る飯は美味いな」
「変な子だね。いつもはそんなこと言いやしないのに。よっぽど寂しいのかね~」
「なんのこと?」
「さあてね。食べたら食器、片づけといてくれよ」
「ああ」
俺は無心でマミラさんの出してくれた朝食をたいらげた。
その後言われた通りに食器を片づけると、少し休憩してから動くことにする。
「俺は俺で食い扶持を稼がないとな。働かざる者、食うべからずってね」
最後に部屋を見回すと、リュラがアスクと言って駆けてくる気がした。
「俺も末期かな。行ってきます」
誰もいない部屋に、見送る人間はいなかった。
* * *
俺がダンジョンに向かう途中、団体さんがなにやら不穏な空気を醸し出していた。
「おうアスク。今日もトレジャーハントか?」
団体の中でも一際体躯のしっかりとした、大男が話しかけてきた。
「もちろん。それより何かあったのか? 何か揉め事の空気を感じたけど」
「アスクって、ちょっと前に小さな女の子を連れてたよな?」
「リュラのことか? それがどうかしたのか?」
「実は……最近人さらいが増えてるらしいんだ。それも女、子供を狙った犯行ばかりだってんだから性質が悪い」
「物騒な世の中になったもんだな」
「これが出回ってる人相書きなんだが、見覚えないか?」
羊皮紙に書かれた人相書きには、割と綺麗な女性が書かれていた。
しかし、気になるのはそれじゃない。
俺はコイツを知っている。
なぜなら、昨日リュラを連れて行った女だったのだ。
「おい……。コイツの居場所、わかるか?」
「どうやら当たりみてえだな。最近仕入れた情報なんだが、ここから数キロ離れた【忘れ去られた遺跡】と呼ばれるダンジョンを根城にしているらしい。もし行くなら手を貸すぜ?」
「大丈夫。これは俺の問題だから」
「そうか。でも無理はするなよ? いつでも駆けつける準備はしておくからよ!」
「わかった。恩に着る!!」
俺は【忘れ去られた遺跡】めがけ全力疾走する。
「待ってろよリュラ。今助けに行くからな!」
細かい更新ですいません。
次回はもう少し長く書けたらと思っています。