第2話
少女を背負いながら町へ戻る途中、すれ違う人々に奇異な目を向けられた。
「ねえ、あれ……」
「やーね。あんな小さい子を捕まえて、“ナニ”をしようって言うのかしら……」
完全に誤解されている。
針のむしろのような気持ちになりながら、なるべく気付かないフリをしつつ、急いで町まで戻ることにした。
* * *
すえた炭鉱の匂いと、喧騒で溢れ返る町【ボリビオ】
ここにはいろんな種族の人間たちが、共存して暮らしている。
俺の住んでいる町でもあるが、ここならばもしかしたらこの少女の知り合いがいるかもしれない。
そんな考えもあって町まで戻ってきたのだ。
俺は一先ず、情報を求めて酒場へ向かうことにした。
ちりんちりんと音を立て、酒場のドアを開く。
すると、腕っぷしの強そうな女性が出迎えてくれた。
「お~、お帰り! 今日は随分と早かったじゃないか」
「ただいま、マミラさん。今日はちょっと“訳あり”でね」
酒場の女主人マミラさん。
気さくな人柄と、包容力でこの酒場の人気者でもある。
町の男連中は、皆マミラさんの人柄に惹かれて、ここに毎日足を運んでいるようなものだ。
かくいう俺もその内の一人なのだが。
「訳ありってアンタ……もしかして、誘拐でもしてきたのかい!?」
「待て! 勘違いする気持ちは分かるが、断じて誘拐ではない!」
「じゃあそんな小さい子をどうしようっていうんだい? まさか……」
「それも違うから! さんざん道中勘違いされたけど、その想像も違うから!」
「はぁ~。結局なんなのさ?」
さんざん遊ばれてから溜息とは、なかなかえげつない人だ。
俺は背中で寝ている少女をカウンター席に降ろすと、一呼吸置いてから説明した。
「つまり……ダンジョンで少女を拾ったから、どうしていいかわからずに、ここまで連れてきたんだね?」
「そうなんだよ。さすがに放っておくのも気が引けるし。それに、何か放っておけなくてさ」
「そうかい……。アンタが拾ってきたんだ。覚悟はできてるんだろうね?」
「ああ……。もし親が見つからなければ、俺が引き取ろうかと思ってるよ。それに……」
「それに、なんだい?」
俺がついと視線を動かすと、マミラさんもそれに釣られるようにして気付く。
少女の頭に生えている、二本の耳。
動物的には犬に近いだろうか。
「その娘、耳が生えてるじゃないか!」
マミラさんは驚愕に顔を引きつらせている。
たぶん反応としては普通なのだろう。
「そうなんだよ。たぶん大昔に生息していた種族じゃないかと、俺は思ってる」
「大昔ってアンタ……そしたらこの娘は、いくつだって言うんだい? 100歳を超えてるって?」
「さすがにそれはないと思いたいけど、耳が生えてる種族なんて、マミラさんも知らないだろ?」
「知らないね~。聞いたことも、見たこともないよ」
二人してじっくりと観察する。
そして、おっかなびっくり触ったりしてみる。
間違いなく本物の耳だ。
「おや。なかなか良い毛並じゃないかぁ~」
マミラさんは顔を綻ばせると、しばらく耳を堪能していた。
「うにゅ~」
少女の口が僅かに動く。
しかし、いまだ目覚める様子はなかった。
「とりあえず事情はわかったから、その娘をベッドに寝かせてあげな」
マミラさんはそう言うと、二階の寝室を貸してくれた。
「ありがとう。それじゃあこの娘が起きたら食べれるように、何か作っておいてもらえないかな?」
「はいよ」
俺は先に代金を支払うと、二階の寝室へと移動した。
* * *
柔らかなベッドに少女を寝かせてあげると、寝息も少し落ち着いたものへと変わった気がする。
俺は先にシャワーを借りて、さっぱりする事にした。
身体を洗い、綺麗になった所で、もう一度少女の様子を確認する。
少女は先程と変わらぬ姿で、おだやかな寝息を立てていた。
ギシッとベッドが沈む音が反響する。
俺は少女の近くに腰かけると、目にかかる前髪を人差し指の腹で避けてあげた。
するとピクっと目尻が動く。
それからピクピクとわずかに痙攣した後、パチリと少女の目が開く。
「あっ……」
思わず間抜けな声が出てしまった。
少女の目は、俺を映して固まっている。
ゴシゴシと目をこすってから、寝ぼけ眼で少女は口を開く。
「パパ?」
その言葉だけが、やけにはっきりと聞こえた。
更新が遅れて申し訳ありません。
見て下さる方が楽しめるよう、これからも頑張ります。