第1話
崩れかけの廃墟に徘徊する魔物。
俺はダンジョンに潜って日々の生計を立てている、トレジャーハンターだった。
物心つくまえに両親が他界し、自分の力で生きて行くにはこれしか道がなかった。
今では少し名の知れたトレジャーハンターだと自負しているが、まだ駆け出しの頃はひどかったものだ。
その日の食糧も確保できず、三日三晩飲まず食わずは当たり前。
正直、死を覚悟したことは数えきれない。
そんな俺も、今では少し余裕のある生活を送ることができていた。
それはひとえに、これまでで培ったトレジャーハンターとしての勘のおかげだった。
宝の匂いを嗅ぎ分け、的確に金を稼ぐ。
やばいと思ったらすぐに引き返す。
そうやって今まで生きてきた。
しかし今、俺の目の前には今まで見た事もないような“お宝”が横たわっていた。
「ははっ……。なんだよこれ……」
乾いた笑い声がむなしく響く。
俺の前には──全裸の少女が横たわっていた。
じっくり眺めるのも論理的にまずいと思い、とりあえず上から布を被せる。
これで少しはマシになったはずだ。
「これってどうすりゃいいんだよ……んっ?」
俺はあることに気付いてしまった。
少女の頭に生えている不自然な耳。
「こいつは……人間じゃないのか?」
何かの本で見たことがある。
頭に耳を生やした種族が、その昔生きていたと。
「それでも、そんな昔の人間が生きているわけがないよな」
自分で自分の考えを否定する。
「うにゅ……」
と、少女の口がわずかに動いた。
なぜか幸せそうな寝顔をしている。
「呑気なことこの上ないな」
俺は嘆息すると、この少女をどうすればいいのか悩んだ。
さすがにここに置いておくわけにもいかないだろうし。
「しょうがない。ひとまず町まで連れて行くか」
俺は少女の身体を下から抱えると、そのまま背中に背負い歩き出した。
すー、すーっと静かな寝息をたてる少女の顔は、穏やかなものだった。
これが少女と俺の、奇妙な出会いの始まりだった。
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